"モノを買わない若者"は一体何にお金を使うか
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井上 雄仁くん/法政大学3年生。バイト収入約7万円。支出は食費、交通費、生活費等で約5万5000円。男性
山田 修平くん/法政大学3年生。バイト収入約7万円。サブスク、交際費、サークル費用等でほぼ全額を使う。男性
丹羽 明日香さん/早稲田大学3年生。仕送り収入のうち小遣い約7万円。外食費、交際費、化粧品等でほぼ全額を使う。女性
塩田 亜多夢くん/慶応義塾大学3年生。バイト収入約10万円。映画鑑賞や飲み会代などの交際費でほぼ全額を使う。男性
長谷川 優真さん/早稲田大学3年生。バイト収入約8万円。支出は生活費、交通費等で約5万円。奨学金返済用に月1万円を貯金。女性
浅見 悦子さん/青山学院大学4年生。バイト収入約8万円。外食や飲み会代などの交際費、交通費でほぼ全額を使う。女性
※収入・支出額は1カ月平均。
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■主な支出は新しい体験やチョコチョコ買い
【原田】最近、企業で働いている人たちから「若い子がお金を使わなくなった」という話をよく聞くんだ。10年ほど前までは車やCDをほしがる若者が多くて、消費スタイルもわかりやすかったんだけど、今は何にお金を使っているのか見えてこないと。皆はバイト代を何に使っているのかな。
【浅見さん】私は映画館や美術館、「チームラボ ボーダーレス」などのテーマパークによく行くので、それでお金を使っていますね。香水も好きでよく買いますが、モノを買うより体験に使っていることのほうが多いと思います。
【井上くん】僕はあまり使わずに貯金するようにしていますが、周りには好きなバンドのライブ代で消えるっていう人が多いですね。チケット代だけじゃなくて、ツアーがあると地方まで追いかけるし、ライブごとにグッズも買うので、結構な出費になるみたいです。
【長谷川さん】私も少しずつ貯金したいので、高額なものを買ったり、外食したりすることはほとんどないです。でも、コンビニではよく買い物しているから、小さな出費が積み重なって、気づいたら結構な額になっていることが多いです。
【原田】なるほど。何かを所有したいと思ってお金を使っているわけじゃないんだね。美術館やライブといった「体験」に払ったり、普段は節約派だけどコンビニでは「チョコチョコ買い」をしていたり。そうした消費はつかみにくいから、何に使っているのかわからないと言われるのかもね。じゃあ外食や飲み会はどうかな?
■若者の間で増える「ちび飲み会」とは
【山田くん】僕は実家暮らしですが、家で食べることはほとんどないので、外食費はかなりかかります。しかもランチはほぼ毎日のことだから、いつも同じ店じゃつまらないんですよね。友達と一緒にネットで店を探して、よさそうだったら多少高めでも行っちゃいます。
【塩田くん】僕は支出の大部分が交際費です。いろんな友達と少人数ずつで行くから、合計すると結構な回数ですね。安い店を選んでも1回3000円ぐらいはかかります。終電を逃してタクシーで帰ることもあるし。
【原田】長くデフレが続いたから、今は安い店も多いはず。それでも出費がかさむのは回数が多いからなんだね。昔はサークルごととか、大人数での飲み会も多かったものだけど、今は少人数で何回も行くのが主流なの?
【丹羽さん】大人数で飲むことはないです。サークル内だけでも小さなコミュニティがいくつもあるから、2〜3人の「ちび飲み会」が多いかな。内輪だけで通じる話をしたくて、ちょっとずつメンバーを変えて行くので、自然と回数も増えますね。
■「とりあえずビール」はあり得ない
【原田】今の若者は小さなコミュニティをたくさん持っているからね。SNSもあるし、人間関係が細かく枝分かれしているから、集団飲み会にも違和感があるんだろうな。そうすると、お酒が嫌いな人はどうしているのかな。最近は若者の酒ばなれもよく言われているね。
【塩田くん】僕は、お酒を嫌いな人は飲みに誘わないですね。だったら食事に行けばいいと思う。飲めないとわかっていて誘うのも、「飲めよ」って無理強いするのもあり得ないです。昔は先輩が後輩に無理に飲ませることもあったみたいですが、今はそんなの支持されないと思います。
【丹羽さん】飲めない子が来ることもあるけど、飲まなきゃいけないなんて雰囲気はゼロですね。気兼ねなくその場にいられるようにしてあげたいし、何よりもアルハラは人間関係を壊すから。どうせお金を払うなら、好きなものを飲んで楽しく過ごせたほうがいいですよね。
【山田くん】何を飲みたいか聞かずに、「とりあえずビール人数分」とか勝手に注文するのもあり得ないです。男子でもカクテル系が好きな人もいる。それぞれが好きなものを頼むのが普通です。
【原田】定量調査でも、今の男子はビールよりサワー派が増えていることがわかっているんだ。周りの目を気にせず好きなものを飲む、または飲まない傾向が強まっているのかもしれない。また、飲み会自体も、お酒や居酒屋にお金を払うというより、人間関係にお金を使っている感覚が強いようだね。それなら、その場にいる全員が飲み物にも話題にも気を使わずに過ごせたほうがいい。個人個人の快適性を大事にするのも納得だよ。
■若者の消費は「見えないモノ」に向かう傾向
【原田】次は物欲について聞きたいと思う。皆、あまり物欲がないようだけど、そうは言っても買い物に行くこともあるでしょ? 何を買っているのかな。
【丹羽さん】友達と買い物に行くと、「おそろいの服を買おう」などと盛り上がって、必要じゃなくてもつい買っちゃうことがあります。それでムダ買いしている感覚はありますね。
【原田】そうした行動は「同調消費」と言われているよ。おそろいの格好でテーマパークに出かける子もいるし、色やトップスなどをそろえる「シミラールック」も話題になっている。その服を所有することよりも、おそろいで歩く体験が楽しいみたいだね。
【井上くん】僕は買い物に行くこと自体あまりないですね。服も「これがほしい」っていうのはあまりないし、高価なモノ、例えば車も持ちたいと思ったことがないです。
【塩田くん】僕も服や車にはあまり興味がないです。そういうモノよりも、友達と幸せな時間を過ごすことにお金を使いたいと思っています。
【原田】若者の車ばなれも最近よく言われているね。昔は、4畳半のアパートに住みながらお金を貯めてフェラーリを買う人もいて、「4畳半フェラーリ」っていう言葉もあったぐらいなんだ。昔の若者は、かっこいい車を所有することにそれほど憧れていたわけなんだけど、今はまったくないんだね。
【山田くん】僕は将来的には車がほしいです。人とは違う、かっこいい外車を買いたいですね。自分が「価値がある」と感じた車を、高いお金を出して買うわけだから、それは自分のアイデンティティにもつながると思います。まだ車の知識が少ないので、あくまで憧れでしかないんですけど。
【浅見さん】私も車がほしいです。今はレンタカーやシェアリングを使う人のほうが多いけど、移動に使うなら所有していたほうが便利だから。軽自動車に乗っていた時に割り込みをされてヒヤっとしたことがあるので、安全性が高くて、割り込みされにくい高級車がいいなと思っています。
■見栄、メンツ、モテ消費は過去のもの
【原田】車がほしい子の中にも、憧れ派と実用派がいるわけか。僕たちの世代が車を選ぶ基準は、見栄、メンツ、女性からのモテの3パターンだったものだよ。どの動機もこの20年でほぼなくなったみたいだけど(笑)。男子は、かっこいい車に乗っていればモテるとは思わない?
【塩田くん】それで寄ってくるような女子はちょっと嫌ですね。僕にじゃなくて車に恋してるわけだから。
【原田】山田くん以外は、車をツールの一つとして見ているようだね。友達と一緒に移動する手段としても、東京にいるとそれほど価値を感じないのかもしれない。そうなると、メーカーがいくらかっこいい車を作っても、若者の購買意欲にはつながらないということになりそうだな。
若者たちの消費対象は、モノから体験へと確実に変わりつつあるようです。最近は地方の若者を中心に海外ばなれも進んでおり、若者の三種の神器が「車、海外旅行、お酒」だった時代は過ぎ去ったと言えるでしょう。では、彼らは何にならお金を出すのか。今回の座談会では、新しい体験ができる場や友達と快適に過ごせる場、人間関係の構築など「見えないモノ」に使っているという話が出ました。今後、若者向けの商品やサービスを考えるにあたっては、こうした消費行動を念頭に置く必要があると思います。
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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 写真=iStock.com 構成=辻村 洋子)