2022年W杯アジア2次予選で3連勝中の森保ジャパンが、アウェーでキルギスと対戦。南野拓実のPKによる5戦連続(W杯予選では4戦連続)ゴールと、原口元気の直接FKによるゴールで、効率よく勝ち点3を獲得した。


決定機も何度か作られ、日本はキルギスに苦戦した

 これで4戦全勝とした日本は勝ち点を12ポイントに伸ばし、グループFの首位を快走。キルギス(最新FIFAランキング94位)、タジキスタン(同116位)、ミャンマー(同147位)、モンゴル(同186位)と同居する恵まれすぎたグループではあるが、4試合無失点を含め、ここまでは日本(同28位)が申し分のない成績を残すことに成功している。

 ただ、そんなパーフェクトな結果を出し続けている森保ジャパンではあるが、先月のタジキスタン戦に続き、今回のキルギス戦も格下に苦戦を強いられた末の勝利だった。このレベルの相手に苦戦していて、アジア最終予選やW杯本番は大丈夫なのか? 試合を見た多くの人が不安を感じたかもしれない。

 では、キルギス戦における森保ジャパンの問題はどこにあったのか。あらためて試合を掘り下げてみると、苦戦の原因と森保一監督の手腕の問題が浮上する。

 まず試合を振り返る前に押さえておくべきポイントは、今回の招集メンバーだろう。W杯予選がスタートした9月、そして10月と、頑なにベストメンバーを招集し続けた森保監督だったが、11月のキルギス戦(アジア2次予選)とベネズエラ戦(国内親善試合)では、異例とも言える別々のメンバーリストを発表したからだ。

 最も特徴的なのは、14日のキルギス戦で招集したヨーロッパ組の選手数名を19日のベネズエラ戦のリストから外し、代わりに国内組の選手を新たに追加したこと。

 キルギス戦だけでチームを離脱するのは、長友佑都、吉田麻也、酒井宏樹といったベテランのほか、シュミット・ダニエル、安西幸輝、遠藤航、伊東純也、南野、鎌田大地の計9人。そしてベネズエラ戦には、中村航輔、車屋紳太郎、三浦弦太、大島僚太、井手口陽介に、初招集組の進藤亮佑、荒木隼人、古橋亨梧、オナイウ阿道という計9人を加えている。

 森保監督の招集方針に多少の変化が見られた。ひとつは、9月と10月のホームとアウェーの連戦を経験し、試合に出場した選手も、しなかった選手も、ヨーロッパの各所属クラブに戻ったあとの影響を考慮するようになった点。この手法は、今後に向けて新たな招集基準になりそうだ。

 そしてもうひとつの変化が、これまでA代表でプレーしていた堂安律と久保建英、そして6月のコパ・アメリカを経て9月からA代表に収集されていた板倉滉が、11月17日に行なわれるU−22コロンビア代表戦のU−22代表メンバーに招集された点である。これは、来年の東京五輪に向けたチーム作りが本格的にスタートすることを意味する。

 そもそも森保監督自身がU−22代表の指揮を執るのは、A代表監督に就任してから今回が初めて。そういう意味では、今後は”二足のわらじ”を履く指揮官の真価が問われると同時に、W杯予選を戦うA代表の強化と、東京五輪に向けたU−22代表のチーム強化の関連性や整合性にも注視する必要があるだろう。

 反対に、招集方針でまだ変わっていない点もある。それは、W杯予選のような公式大会の試合では、従来どおりその時のベストメンバーを編成するという森保監督の考え方だ。今回のキルギス戦も、そうだった。

 この試合で森保監督がセレクトしたスタメンは、GKに権田修一、DFは酒井、植田直通、吉田、長友の4人。ボランチは柴崎岳と遠藤、2列目は伊東、南野、原口、そして1トップには永井謙佑が入った。

 直近のタジキスタン戦からは4人が変更されたが、その前のモンゴル戦と比較してみると、CB冨安健洋が植田に、左ウイングの中島翔哉が原口に変更されたのみ。つまり今回も、従来どおり主力メンバーがスタメンに名を連ねたことになる。

 唯一のサプライズといえば、左ウイングに中島ではなく原口を起用した点か。原口は今年1〜2月のアジアカップ時のレギュラーだったことを考えれば、大きな驚きとは言えないが、それでもこれまで2列目の重要戦力と見られてきた中島が予選でベンチスタートになると予想した人は少なかったはずだ。

 考えられるのは、前戦における中島のパフォーマンスの影響だ。

 アウェーでのタジキスタン戦の中島は、相手の徹底マークを受けたこともあって、試合開始10分間でボールロスト6回を記録。その後、ボランチの配置変更をするなどして問題を解決したものの、相変わらず守備面の不安は残されたままだ。キルギスが右サイド攻撃を武器とする点を考慮すれば、守備面でより貢献できる原口を起用するのは妥当な判断と言えるだろう。

 いずれにしても、ほぼベストメンバーを編成して試合に臨んだにもかかわらず、試合は立ち上がりから日本がリズムをつかむことができず、苦しい展開が続いた。

 そのなかで目立っていたのが、最終ラインからのビルドアップ時にボールホルダーがパスコースを見つけられず、困った末にロングボールを蹴るシーンだ。とくに吉田がボールを持った時、前線の選手にもっと動くように腕を振るジェスチャーを繰り返していたことが、その状況を象徴していた。

 そうなってしまった最大の要因は、キルギスを率いるアレクサンデル・クリスティニン監督が準備した日本対策にある。

 この試合の日本の布陣は、いつもの4−2−3−1。対するキルギスは、昨年11月に対戦した時の5−4−1ではなく、3−5−1−1(3−3−3−1)を採用。今年のアジアカップ決勝で日本が敗れた試合で、対戦相手のカタールが採用した布陣である。

 しかも、前線からのディフェンス方法はカタール以上に徹底されていた。日本の武器であるボランチからの縦パスを封じるべく、日本のビルドアップ時には1トップ下の8番(グルジギト・アリクロフ)が遠藤に、右MFの22番(アリマルドン・シュクロフ)が柴崎をそれぞれマーク。1トップの10番(ミルラン・ムルザエフ)がボールホルダーに対してコースを限定しながらプレッシャーをかけることによって、前線から圧力をかけた。

 いつものルートを使えない日本にとって、ビルドアップの次の出口は両サイドバックとなるが、右の酒井に対しては左MFの21番(ファルハト・ムサベコフ)が絶妙な距離にポジションを取り、左の長友に対しては右ウイングバックの6番(ビクトル・マイヤー)がしっかり監視。結局、近場のパスコースを失った吉田と植田、あるいはパスをもらっても次のパスコースが見つからない長友と酒井は、相手の圧力に屈して仕方なく前線にロングボールを蹴ることを強いられた。

 そして、相手の意表を突いたなかで入れるロングフィードではなく、相手がしっかり構えているなかで放り込むので、成功する確率は必然的に低くなる。その結果、日本は落ち着いてボールキープすることができず、相手の反撃を受ける回数も増加した。

 もちろんすべて同じことが繰り返されたわけではないが、先月のタジキスタン戦と同じく、またしても日本は「ボールの出口」を見つけ出すのに四苦八苦した。

 日本がリズムをつかめない状況は、縦パスの本数にも表われた。敵陣で記録した前半の縦パスは7本のみ(成功4本)。生命線でもあるボランチからの縦パスは、柴崎が1本、遠藤が2本で、遠藤に至っては2本とも不成功に終わっている。

 また、サイド攻撃が機能しなかったことも苦戦に拍車をかけた。森保ジャパンのサイド攻撃は、1トップやトップ下、あるいは両ウイングが中間ポジション(※サイドと中央の間や、相手DFラインとMFラインの間など)をとって縦パスを受けてから、攻め上がってきたSBにパスを渡してクロスを入れるパターンが特徴だ。

 しかし前線4人になかなかボールが収まらない状況では、酒井や長友が攻め上がるタイミングはなく、とりわけ長友に至っては、対峙する6番の対応に追われて攻撃まで手が回らないという状況が続いていた。

 日本が前半に記録したクロスは6本のみ。そのうち、伊東のクロスをゴール前で南野が頭で合わせた決定機(前半14分)、酒井のクロスを原口と重なりながら永井がかろうじて頭に当てたシーン(34分)、左から南野が入れたマイナスのクロスをニアで受けた伊東がシュートを狙ったシーン(前半アディショナルタイム2分)と、6本のうち3本をフィニッシュにつなげたことは日本のクオリティを示すものだと言える。

 とはいえ、縦パスもクロスも少なすぎた。その状態で攻撃が機能するはずもなく、残念ながらその流れは後半になっても変わらなかった。

 後半に敵陣で記録した縦パスは8本(うち6本が成功)。柴崎は2本あったが、78分に退いた遠藤は0本、代わって入った山口蛍は1本と、後半になってもボランチが攻撃の起点になることはできなかった。

 クロス本数についても同じような状況で、後半は前半よりも少し増えて9本を記録(うち3本成功)。前半は0本だった長友が67分、79分と2本を記録したことが少ない変化のひとつだったが、ミャンマー戦やモンゴル戦と比べると大幅に減少。苦戦を強いられた先月のタジキスタン戦と大差はなかった。

 もうひとつ、日本が苦戦を強いられた原因は守備面にもあった。前線からの守備が機能したキルギスとは対照的に、日本は前からの守備がはまらなかった。

 相手の3バックがボールを持った時、ワンボランチの9番(エドガー・ベルンハルト)が顔を出してパスをもらいにくることで、南野がポジショニングに迷い、その影響で前線の守備が連動できなかった。アジアカップ決勝のカタール戦と同じ現象である。

 そういう意味では、あの試合の教訓を生かせなかった森保監督の采配を問題視すべきだろう。対戦相手の分析、対策、そのための準備、そして試合中の修正力。この試合における指揮官は、いずれの点においても相手のクリスティニン監督に劣っていた。この試合で日本が後手を踏み続けた最大の原因だ。

「全体をコンパクトにして連動する」とは、森保ジャパンのコンセプトのひとつだったはず。そのためには、精度の高いロングキックを武器とする2番(バレリー・キチン)に蓋をしつつ、最終ラインを押し上げて全体をコンパクトにする必要があった。そうすることで、遠藤と柴崎のポジションを高くして、9番に対する圧力を強められたはず。

 しかし、最後までそれを修正できないまま、試合終了のホイッスルを聞くことになってしまった。よい守備なくしてよい攻撃はできない。サッカーの定石からしても、この試合で日本がキルギスに苦戦するのも当然だった。

 格下相手に2試合連続で苦戦を強いられた森保ジャパン。2次予選は問題なく首位通過するだろうが、このままの状態で最終予選、そしてW杯本番で成果を得ることはできるのか。ここにきて、暗雲が立ち込めてきたと言っていい。

 いま必要なのは、立ち返るべき場所に戻って自らのサッカーを再検証することだと思われる。アジアカップ以降、ベストメンバーを編成し続けても戦術的なブラッシュアップはうかがえず、むしろ停滞感から劣化へと、状態は悪化の一途を辿っているのが実情だ。

 19日のベネズエラ戦も、来年3月から再開する2次予選に向けて、しっかり目を凝らして試合内容をチェックする必要がありそうだ。