今あらためて試乗 トヨタMR2(SW20) 生産終了から20年、もう一度注目すべき理由
1オーナー、禁煙、程度極上text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)
「1996年式のGT-Sで、エンジンは245ps、3S-GTEです。色はパープリッシュブルーマイカメタリックで、これはIV型にしか設定されていません」
「アルミホイールは今回の撮影のために純正に戻しましたが、サスは車高調に換えて、少しだけ車高を落としてあります」
「シートはレカロに換えていますが、これは純正のオプションにもなっていました。あとでTバールーフも外して撮りましょう」
今回の撮影車輛は撮影を担当してくれる神村カメラマンの愛車である。ドライビング「も」上手いカメラマンとして知られる彼は新車でこのクルマを手に入れ、23年間も所有している。
オドメーターには10万5740kmという数字が示されているが、メーターをTRD製に交換しているので、実際はさらに2万6000kmほど走っているという。
それでもコンディションは上々で、「新車みたい」と言ったら大げさだが、10年落ちくらいに見える。ひとりの熱心なオーナーに愛されてきた雰囲気がひしひしと感じられるMR2だ。
リアシートがないミドシップの常でコクピットは最小限の広さだが、スポーツドライビングにはちょうどいいフィット感といえる。
ターボ・エンジンの軽やかな振動を背中に感じながら、ストロークの短い5速マニュアルのシフトレバーを操って走り出してみる。
良く加速し、良く曲がる、けど……
ミドシップ・レイアウトは駆動輪であるリアに最大のトラクションが掛かり、一方フロントタイヤはエンジン等の重量物の影響を受けずコーナリングに専念できる。つまり良く加速し、よく曲がるのだが、ある程度のペースまでは「クルマが勝手に上手く走ってくれる感じ」が強い。
それに満足せずペースを上げていくと、ドライビングの難易度が増していく。特にパワー曲線が急カーブを描いて上昇するターボ・エンジンの場合、ドライビングの難しさ(奥深さでもある)がさらに増す。
大型のエアバッグのステアリングが時代を感じさせるコクピット。この写真では隠れているが、スピードメーターとレブカウンターの間にブースト計が備わる。サイドブレーキは引きやすい位置にあり操作感も軽い。ところがMR2の3S-GTEエンジンはリッターあたり122.5psという高出力ながら、さすがは大トヨタ製(開発はヤマハ)だけあって妙なクセがない。低回転からある程度のトルクが感じられるので「公道レベル」のペースではおおよそ神経質な感じがしない。
最小限のパワーアシストを受けるステアリングの感触も適度に重みがあって上質で、安心してドライブできる。
2代目MR2を現代のスポーツカーと比べれば「先進装備」には大きな差があるが、スポーツドライビングという点では全く遜色がない。というよりむしろ1200kg台という軽い車重によって現代のスポーツカーよりはるかに身のこなしが軽い。
「次のクルマが見つからない」というオーナーのコメントにも納得がいく。
21世紀に際立つMR2の個性
昔憧れていた1台だから、中古なので値段が手ごろだから等々、近年ネオヒストリックカーが脚光を浴びている理由はいくつか挙げられる。だが現代のクルマにはない何かを持っているから、という理由も大きいはずだ。
MR2の場合は2Lクラスのミドシップという立ち位置が他の国産にないし、車重は軽さや3ペダルの操作系、現代車と比べれば稚拙なトラクションコントロール類も腕利きドライバーのやる気を駆り立てる。
MR2というエンブレムの左右にバックランプを配した特徴的なデザイン。丸4灯が強調されたテールランプはIII型以降の装備。フロントは195幅、リアは225幅の15インチ径がIV型の標準タイヤサイズとなる。アフターマーケットのパーツもひと通り揃っているので、今回試乗したクルマがアシを変更していたように、自分の好みに合わせたセッティングに仕上げる楽しみもある。
現代車は電制の可変ダンパーが付いていたりして、おいそれとパーツ交換する気が起きないモデルも少なくないが、その点ネオヒスはシンプルかつリーズナブルといえる。
MR2の命脈が途絶え、国産のミドシップ・スポーツカーの数はさらに限られている。この現状は、ミドシップ・レイアウトを市販スポーツカーとして成立させることの難しさを表している。
もともとの運動性能に優れ、速く走れるからこそ、ドライバーにはそれを乗りこなす高い技量が求められる。スポーツドライビング好きならばMR2の存在に今一度注目してみる必要があると思う。