三池淵(サムジヨン)郡を視察した金正恩氏(2018年10月30日付朝鮮中央通信)

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金正恩党委員長が進める、北朝鮮北部の三池淵(サムジヨン)の再開発。「革命の聖地」として知られるとともに、風光明媚な景勝地でもあるが、その中心地に高級リゾート都市を建設するというメガプロジェクトだ。

現場には多くの兵士や労働者が動員されているが、冬は氷点下20度以下まで下がる厳しい寒さに襲われ、労働環境が悪い、事故が多発しているなどと悪評が立っていて、動員を嫌がる人が多い。あまりに人が集まらないため、当局が美装工を騙して三池淵の現場に連れて行こうとしたが、それに気付いた人々はトラックから飛び降りて逃げてしまったという。最高指導者の権威を傷つけたら、どんなひどい目に遭わされるか、じゅうぶんに理解しているにもかかわらずだ。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

ひどい環境を改善することなく、その責任を現場に丸投げする北朝鮮当局の体質が、貴重な人命を奪う結果となった。

現地の情報筋によると、先月末に、平安南道(ピョンアンナムド)から突撃隊(半強制のタダ働き労働者部隊)として三池淵に派遣されていた労働者1人が、トウモロコシを満載し雲興(ウヌン)郡の白岩嶺(ペガムリョン)を走っていたトラックから転落し、崖から滑落した。

労働者は、木の幹にぶつかった状態で発見されたが、既に事切れた後だったという。実は、盗みの途中で足を滑らせたことによる悲劇だった。なぜこんなことが起きたのか。

三池淵はすでに、朝晩は氷点下10度近くまで冷え込んでいる。暖を取るための薪や冬服、充分な食糧があってしかるべきだが、当局は建物の建設に必要な資材の供給は行っても、そこで働く労働者に対する配給はろくすっぽ行っていない。そのため、労働者自らが「自力更生」、つまり現地で自力で調達する必要に迫られた。

突撃隊の指揮部は各部隊に対して「越冬準備を行え」との指示を下したが、平安南道大隊にはこれといった策がなかった。それでも、各小隊に上からの越冬準備を指示をそのまま丸投げした。

小隊は、労働者を出身地ごとに割り振って自宅に戻らせ、食糧や現金を入手して戻るように指示した。ただ、それすらままならない小隊は労働者に「自主解決せよ」との指示を下した。

平安南道出身の労働者2人は、市場に向かったものの食糧や薪を買う現金がなく、途方に暮れてさまよい歩いていた。ちょうどそのとき、峠の向こうからトウモロコシを満載したトラックが走ってくるのが見えた。

2人はトウモロコシを盗むことにした。トラックが坂道でスピードが落ちているすきに密かに飛び乗り、トウモロコシの入った50キロの袋をいくつか荷台から投げ下ろした。車から飛び降りようとしたところ、1人が足を滑らせて崖から滑落し、死亡したというのだ。

死亡事故の発生を受け、平安南道の大隊長が更迭されるなど、関係者の処分が行われたが、元はと言えばきちんと配給を行わない当局の責任だ。

家に返して現金を調達させても、幹部が着服してしまい、末端の隊員の福利厚生に使われることはない。それは人が死んでも変わることはない。

両江道は平均海抜が1000メートルに達する山間地帯で、道路事情も極めて劣悪で、事故が頻発している。昨年3月には、アイスバーンによる交通事故が多発し、たった1日で300人もの死者を出す凄まじい事態となった。

今回事故が起きた白岩嶺では、鉄道事故も多発している。

2010年11月初旬に首都・平壌から恵山に向かっていた急行列車が転覆し、客車が山から滑落する事故が起き、数百人の死傷者が発生した模様だと、北朝鮮向けのラジオ局の自由北韓放送が伝えている。また、2008年と2010年にも列車事故が発生し多数の死傷者を出している。