モデルチェンジを機に、マツダの「アクセラ」は「マツダ3」へと車名が変更された(筆者撮影)

マツダ「アクセラ」がモデルチェンジに際して車名を「マツダ3」に変えた。海外での名称との統一化を図るとともに、マツダブランドとしての浸透を図りたいという理由での変更だという。


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驚いたのはその直後、マツダは「デミオ」を「マツダ2」、「アテンザ」を「マツダ6」に変えたことだ。「ロードスター」と軽自動車、商用車を除けば、すべてアルファベットと数字での車名になった。

外国車のようになったと思う人がいるかもしれない。たしかに海外は、例えばパリの区名や地下鉄路線名など、自動車以外でもアルファベットや数字を名称として使う場合が多い。とりわけ欧州は言語の異なる国が陸続きでつながっているので、パリのような状況が多い。

数字とアルファベットの組み合わせが目立つ

自動車に話を戻すと、ジャーマンスリーと呼ばれるドイツのプレミアムブランド、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディは、いずれも数字やアルファベットの組み合わせで車格や性能を表している。


BMW3シリーズ(筆者撮影)

これ以外の欧州車では、イギリスのジャガーがアルファベット、スウェーデンのボルボがアルファベット+数字としている。フランスではグループPSAのプジョーとDSが数字、シトロエンがアルファベット+数字で車名を表現している。いずれも命名方法がわかれば車格などが理解しやすい。

その昔、自動車が生まれて間もない頃は、登場順に123あるいはABCと名付けていくか、性能を誇示するためにエンジンの排気量や最高出力を使って「60PS」などと呼ぶことが多かった。

今も使われている車名で、ブランド全体での各車の位置づけを考えた車名をいち早く使ったのはプジョーで、1929年発表の201が最初だった。百の位で車格、一の位で世代を表し、真ん中は常にゼロになる。プジョーはこの方式での命名法を登録商標としている。


プジョーの新型208(筆者撮影)

ただしこの方式は、123やABCと同じように、いつしか数字が枯渇してしまうという悩みがある。そのためプジョーは308を皮切りに、モデルチェンジしても車名を変えない方式に転換しており、先日日本で新型が発表された「208」も、2回続けて同じ数字を起用している。

開発コードが車名になったポルシェ

開発コードそのまま車名とした例も存在する。代表格はかつてのポルシェで、「356」「924」「928」などはこの方式で生まれた。フィアットも1960〜70年代にかけては、「124」や「131」「X1/9」など開発コードをそのまま使った車種が多かった。

こちらもモデルチェンジで数字を変えない例がある。よく知られているのがポルシェ「911」で、もともと開発コードは901だったが、プジョーが商標登録していたので911になり、その後のモデルチェンジでコードが930、964と変わったあとも911であり続け、現在に至る。

モデルチェンジのたびに車名が変わるのはユーザーにとってわかりにくいし、逆に数字をブランドとして育てていこうという判断かもしれない。そのためマニアの中には形式名で呼び分ける人もいる。数字がブランドになったという点では、フィアット500やアバルト124スパイダーも共通する。


トヨタ 2000GT(筆者撮影)

日本車では、モーターサイクルでは本田技研工業の「CB1100」やヤマハ発動機の「SR400」など、数字やアルファベットのみを使った車名が多く、クルマも昔はトヨタ自動車「2000GT」、スバル「360」など排気量をそのまま名前にした車種が存在していたが、今はレクサスを除くと単語による車名が一般的だ。


フォルクスワーゲン ゴルフ(筆者撮影)

海外にも単語を車名にしたブランドはいくつか存在する。「ゴルフ」や「ポロ」を擁するフォルクスワーゲンをはじめ、アルファ・ロメオ、ジープ、ミニ、ルノーなどが該当する。

ポルシェも911に続いてボクスターとケイマンに718という数字を与えたが、現行型の開発コードは982であり、1950年代のレーシングカー718/1500RSKスパイダーの開発コードを、同じミッドシップということで転用したものだ。それに「カイエン」や「パナメーラ」など、スポーツカー以外は単語による名前としている。

その上のラグジュアリーセダンやスーパーカーのブランドになると、ロールス・ロイス、ベントレー、ランボルギーニ、アストンマーティンなど、単語による車名が一般的だ。特定のジャンルの単語にこだわるブランドもあり、例えばロールス・ロイスの車名は「ファントム(亡霊)」「ゴースト(幽霊)」などとなっており、ランボルギーニの「アヴェンタドール」「ウラカン」はいずれも闘牛の名前だ。


フェラーリ812スーパーファスト(筆者撮影)

逆にフェラーリは、「812スーパーファスト」は800ps12気筒エンジンと1960年代に存在した「500スーパーファスト」の組み合わせ、「F8トリブート」は8気筒エンジン搭載車へのオマージュ、「GTC4ルッソ」は1960年代の「330GTC」「250GTベルリネッタ・ルッソ」にちなんだもの、「ポルトフィーノ」はイタリアの港町の地名と、あまり統制が取れていない。

昔のフェラーリは前述の330や250のように、エンジンの1シリンダーあたりの排気量を車名にするという凝った方法を使っていた。しかし途中から同じ3桁数字ながら排気量+シリンダー数が主流になり、「モンディアル」「カリフォルニア」など過去に用いた車名のリバイバルも多い。少量生産車では「ラ・フェラーリ」と、そのものズバリもあった。

ブランディングやマーケティングという面では疑問符がつきそうだが、あまりネガティブな意見が聞こえてこないのは、フェラーリだからだろう。

トヨタ「シエンタ」の名前の由来

車名を多くの人に知ってもらうには世界共通であることが好ましい。コスト面でもそのほうが有利だ。しかし世界各国の登録商標を調べるのは手間がかかるし、言葉も限られてくる。ゆえにルノー「ルーテシア」のように、日本以外では「クリオ」という名前で販売していたものの、わが国ではホンダの販売店の名称として登録されていたので、代わりの名称を用意したというパターンも存在する。


スバル新型「レヴォーグ」のプロトタイプ(筆者撮影)

混乱を避けるために、実在しない造語を生み出して与える場合も多い。トヨタ「シエンタ」はスペイン語で7を示す「シエテ」と英語の「エンターテインメント」を組み合わせたもので、スバル「レヴォーグ」は「レガシィ」「エヴォリューション」「ツーリング」からアルファベットを2文字ずつ取って作られた。

こうして見てくると、マツダの車名変更からは、ジャーマンスリーに並ぼうとしていることを車名でも示すという気持ちが伝わってくる。でもそれが世界の車名のトレンドではないことは、ここまで書いてきたとおりだ。個人的には無機質な数字やアルファベットより、デザインや走りにふさわしいネーミングを考えてくれたほうが、そのクルマへの愛着が湧くような気がする。