社員の育成にバーチャルリアリティ(VR)を導入する企業が少しずつ増えてきています。牛めしやカレーなどを全国で提供する「松屋フーズ」も、1170ある店舗で新人アルバイト向けに接客トレーニングのVRを導入しました。リアルな映像を見ながら、自分が実際にお客さんに対応している感覚で、接客の手順やコツを体得できる研修コンテンツです。

 

ゲーム感覚で体得

松屋フーズが導入したのは、CGやVRの制作を行う積木製作と共同で開発し、「MaVROS(Matsuya VR Operation System):マブロス」と名づけられたVRトレーニング。これまでアルバイトの研修は、マニュアルを読むトレーニングと、店舗で行うOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」が行われていました。しかし、接客経験のない高校生や日本語に不慣れな外国人など、接客技術の習得がスムーズにいかないケースもあったそう。そこで、開発されたのがVRを利用したトレーニングシステムです。

 

松屋の店舗とそっくりな3Dのバーチャル空間で、お客さんが店に入ってきたら「いらっしゃいませ」と声がけを行うところから、お水を入れてトレーを運ぶ、といった動作をリアルな感覚で体験。さらにお客さんにとって気持ちいいと感じられる接客ができるように、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」といった声がけでは、声の大きさや目線など定められた基準に達しているかVRが判定する機能も搭載。クリアしないと次のステップへ進めないようになっており、ゲーム感覚で重要な接客ポイントを学ぶことができるように作られています。

 

従来のOJTでは、接客を教える側の経験値にもとづいて指導されていた部分もありますが、VRの導入によって全国にある店舗の新人スタッフが均一したクオリティのトレーニングを受けられることになり、店舗運営側にとっても大きなメリットとなると考えられています。

 

Z世代にも◎

従業員の育成にVRを活用する事例はほかにもあります。アメリカでは、大手小売店のウォルマートが2018年より社員のトレーニングに大規模なVR訓練を導入。ブラックフライデーやクリスマスなどの年末商戦に向けて、混雑する店内でのお客のクレーム対応やほかの社員への指導の様子をVRで再現しながら、その技能を評価するというものです。

 

日本では大日本印刷が、バーチャルキャラクターが接客やデモンストレーションを行うサービスのプロトタイプを開発。操作する人物の動きと、バーチャルキャラクターの動きがシンクロし、遠隔地からでもキャラクターを操作させてディスプレイに表示することも可能になります。

 

またNECグループは、火災が発生したときに建物の内部で煙がどのようにして蔓延していくかVRでリアルに再現したシステムを開発。避難訓練などの場で防災意識を高めるツールとして、活用されています。

 

物心ついたときからスマートフォンも動画も当たり前に存在していたZ世代(1990年代後半〜2010年頃に生まれた世代)などにとっては特に、文字だけのマニュアルではイメージがわきにくいという問題点があります。その点、現場さながらのリアルな感覚にあふれたVRは企業のトレーニングや訓練などに適しているのでしょう。また企業にとっても指導する人材のコストや手間の削減にもつながると考えられ、今後はさまざまなシーンでVR技術が導入されていくと予想できます。

 

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