ハーツにレンタル移籍中の食野(写真・SNSPIX/アフロ)

 カタールW杯2次予選、初戦のミャンマー戦に招集された23人中19人が、海外組だ。じつは、日本代表史上もっとも、“海外偏重” のメンバーになっている。

 これは代表に限ったことではない。2019年に入り、Jリーグから欧州へ移籍を果たした日本人選手は多い。しかも、代表未招集ばかりか、Jリーグでも、まだ実績を残していない選手まで、次々と移籍しているのだ。その理由をある仲介人は推測する。

「南米やアフリカの若手選手の値段が高騰し、ターゲットが日本に移ったんです。日本人はしっかりと教育を受け、勤勉だから、ピッチ外のトラブルも少ない。“安く買った” 日本人選手をビッグクラブに高く売ることも、彼らの目的です」

 若くして海外に行けば、個のレベルアップに繫がり、日本代表に還元されるかもしれない。だが、多くの若き才能が安く買われる “下請け” のような状況は「リーグの危機」ではないか。この現状をJリーグはどう思っている?

「私は若手が海外移籍するのは、いいことだと思っています」

 意外にも前向きな意見なのは、原博実・副理事長(60)だ。

「有望な選手が移籍することで、また同じクラブからいい選手が出てきています。たとえば、鹿島の鈴木優麿が移籍したときは、驚きました。でもすぐに上田綺世が出てきて、鈴木に勝るとも劣らない活躍です。

 マンチェスターシティに移籍(その後、ハーツに期限つき移籍)した食野(めしの)亮太郎は、おもにJ3でプレーしていて、J1にはわずかしかいませんでした。でも、欧州のスカウトは彼のよさをしっかりと見ていた。

 いい選手はどんどん海外に出る、そしてまた、いい選手が育つ。私はそういうリーグにしたいと考えています」(原副理事長、以下同)

 日本の選手は、契約期間中の違約金ともいえる「移籍金」がない状態で獲得されやすい現状がある。また、移籍金が発生しても、選手の年俸が低いため、欧州に比べてはるかに安い額しか受け取れない。

「たしかに、手塩にかけて育てた選手が、移籍金ゼロで獲られたらショックです。我々が考えなければいけないのは、選手の契約制度です。

 いまJリーグでは、上から『プロA』『プロB』『プロC』の契約形態があって、新人は初めは必ずC契約、年俸は上限が460万円(消費税別)です。これはかつて、有望新人を獲得する際に大金がかかって、クラブの経営を圧迫してできた制度です。見直すならここだと思っています。

 極端な例ですが、『久保建英のように、高卒前にレアルに行けるような選手でも年俸460万円でいいのか』といった議論はしています。年俸を高くすれば、移籍金として入ってくる額も大きくなります。

 また、高卒の選手を獲得するとき、ほとんどのクラブが1年契約ではなく、3年などの複数年契約になっています。しかし、今後はこうした複数年契約を、ルール化することも考えなければいけないと思います」  

 原副理事長は、「リーグの価値が上がることが、Jリーグの  “質” と資金面の発展に繫がる」と見る。

「欧州チャンピオンズリーグに、毎年15人程度の選手を送り込みたいです。移籍先で選手たちが活躍すれば、Jへの注目度は上がります。

 タイのように、Jを目指したいという国も出てきて、『海外にもチャレンジするし、海外からもチャレンジに来る』というリーグになって、お金が回るような仕組みになれば、よくなると考えています」

 次のページでは、2019年に海外移籍した、おもな若手選手14人を紹介する。

トゥエンテで活躍中の中村(写真・VI Images/アフロ)

【2019年 海外に移籍したおもな若手選手14人】
●藤原志龍(19)/9月4日発表
徳島(J2)→ポルティモネンセ(ポルトガル)

●三好康児(22)/8月20日発表
川崎(J1)→ロイヤル・アントワープ(ベルギー)

●食野亮太郎(21)/8月9日発表/J1通算23試合3得点
G大阪(J1)→マンチェスターC(イングランド)→ハーツ(スコットランド) 
 マンチェスターシティとレンタル移籍中のハーツがある英国では、就労ビザ取得は難しいが、「特別な才能を持つ」として、特例で発給。

●小池龍太(24)/8月8日発表
柏(J2)→スポルティング・ロケレン(ベルギー)

●前田大然(21)/7月21日発表
松本(J1)→マリティモ(ポルトガル)

●中村敬斗(19)/7月16日発表/J1通算24試合1得点
G大阪(J1)→トゥエンテ(オランダ)
 G大阪とは高校2年生時に“飛び級”で契約。トゥエンテでは、移籍後デビュー戦となる開幕戦で初ゴール。

●鈴木優磨(23)/7月15日発表
鹿島(J1)→シント=トロイデン(ベルギー)

●安部裕葵(20)/7月12日発表/J1通算49試合4得点
鹿島(J1)→バルセロナ(スペイン)
 久保建英のレアル移籍発表の直後、ライバルクラブ・バルセロナへの移籍が浮上。現在は、バルセロナの下部チーム・バルサBに所属。

●安西幸輝(24)/7月9日発表
鹿島(J1)→ポルティモネンセ(ポルトガル)

●菅原由勢(19)/6月18日発表
名古屋(J1)→AZ(オランダ)

●菅嶋弘希(24)/4月18日発表
東京V(J2)→ポルティモネンセ(ポルトガル)

●板倉滉(22)/1月15日発表/J1通算31試合3得点
川崎(J1)→マンチェスターC(イングランド)→フローニンゲン(オランダ)
 2018年は仙台で24試合出場。川崎に戻ると同時にマンチェスターシティへ。現在は、フローニンゲンに期限つき移籍。

●安西海斗(21)/1月15日発表
柏(J2)→ブラガ(ポルトガル)

●中山雄太(22)/1月14日発表
柏(J2)→ズヴォレ(オランダ)

※発表日は最初の移籍先の日付

はらひろみ
指導者として浦和、FC東京の監督を経験後、日本サッカー協会技術委員長(強化担当)などを歴任

(週刊FLASH 2019年9月24日号)