イニエスタは随所で卓越したボールスキルを披露。この日集まった2万7,720人の観客を沸かせた。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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「本当に僕にとって大切な試合だった。バルサが日本に来て試合ができたことを喜んでいますし、自分にとってだけでなく、ファンのみなさんにとっても素晴らしい試合だったと思います。それに、このレベルの相手に対して良い試合ができたので、総じて良かったです」
 
 12歳の頃からFCバルセロナで22年間を過ごしたアンドレス・イニエスタにとって、古巣と対戦したRakuten CUPが特別な試合だったのは言うまでもない。
 
 18年夏にヴィッセル神戸に加入するまでプロキャリアのすべてをバルセロナに捧げてきたイニエスタにとって、その古巣と戦うのは、この日が初めてだった。
 
 バルセロナを相手に主導権を握るのは簡単ではない。それはイニエスタ自身が最も分かっていたことだろう。実際に神戸はバルセロナのパスワークについていけず、球際でもことごとく後手に回った。試合後に「ボールを追いかけることがどうしても増える。彼らはボールをなかなか失いませんから。バルサの一員としてプレーする時よりも苦しい状況が多かった」とイニエスタが本音を明かしていたのが印象的だった。
 
 結局チームは0−2で敗れたが、それでもイニエスタは古巣を相手に眩い輝きを放った。まずは開始4分、相手陣内でボールを奪うと、左足のミドルシュートでバルサゴールを強襲。さらに39分には、自らが絶妙なスルーパスで走らせた小川慶治朗からのクロスをダイレクトで合わせて、得点を狙った。
 
 その他にも高精度のロングパスやスルーパスで度々チャンスを演出。随所で高度なテクニックを披露して、神戸の攻撃を牽引したのである。チームが完全な劣勢でも、なんとかそれを覆そうと積極的に仕掛ける姿勢からは、古巣との対戦を楽しんでいるように、またひと泡吹かせてやろうと目論んでいるような気概が感じられた。

 イニエスタ自身、小さくない手応えを掴んでいるようだ。「チャンスをふたつほどクリエイトできた。この試合に向けて自分たちは良い試合をやることを目標にしていたので、そういう意味でも全力で戦えました。個人的にも最大限のパフォーマンスが出せたんじゃないかなと思います」と話している。
 
 試合後、感慨深げにコメントを発するイニエスタだが、当然この試合を単なる記念試合にするつもりはない。
 
「この試合がチームの成長の手助けにならないといけない。今日はバルサというすごくレベルの高いチームを前にしても、チームとして良いことをたくさんできたと思う。リーグでなかなか出来ていない良いプレーを見せられたんじゃないかと。大事なのは来週の公式戦。この試合を来週の試合に向けて、役立てていかないといけない」
 
 あくまでイニエスタが見据えるのは、Jリーグだ。20試合消化現在で、神戸は6勝3分11敗で15位に低迷していて、もしかしたら焦りがあるのかもしれない。バルセロナ時代にはこんなに負けが込むことはなかったはずだ。
 
 だからこそ、世界トップクラスとの対戦がイニエスタにとっても、ヴィッセルにとっても浮上のきっかけになることを願ってやまない。
 
取材・文●多田哲平(サッカーダイジェスト編集部)

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