EUの測位衛星システム「ガリレオ」が大規模障害で全システムダウン中
by ESA - P. Carril
EUが構築した全地球測位衛星システム(GNSS)の「ガリレオ」に大規模なシステム障害が発生し、2019年7月11日13時(中央ヨーロッパ時間)からサービスが停止しています。記事作成時点でもシステム復旧のめどはたっていないとのことです。
Galileo Initial Service recovery actions underway | European Global Navigation Satellite Systems Agency
Galileo constellation outage - Daniel Estévez
https://destevez.net/2019/07/galileo-constellation-outage/
Galileo Service Degraded On All Satellites Until Further Notice - Inside GNSS
https://insidegnss.com/update-galileo-service-degraded-on-all-satellites-precise-timing-facility-problems-cited/
ガリレオは世界で初めて民間も関わる形で開発されたGNSSで、1メートル以内の精度で測位が可能というシステムです。軍用で開発されたために政治的理由で制限がかかることもある全地球測位システム(GPS)とは違い、90億ユーロ(約1兆900億円)の予算をかけられたガリレオは2020年から有料によるフルサービスの商業展開が予定されていました。
ガリレオを管理しているEuropean GNSS Agencyによると、7月11日にガリレオのシステムがダウンしてすぐに「サービスが不調なようです。現在復旧作業中で、48時間以内にシステムが復旧する予定です」と利用者に向けて公式サイトで通知しました。また、異常診断委員会が招集され、休みなしで緊急の復旧作業に取り組んでいるとのこと。しかし、障害発生から1週間以上経過した記事作成時点もなお、ガリレオのシステムはダウン中。システムの状態は以下のサイトから確認が可能です。
Constellation Information | European GNSS Service Centre
https://www.gsc-europa.eu/system-status/Constellation-Information
もともとテスト用であるE18・E14を除いて全てがNOT AVAILABLE(利用不可)、あるいはNOT USABLE(使用不可)の状態になっています。
アマチュア無線家でGNSSのエンジニアでもあるダニエル・エステベス氏によると、ガリレオで発生したシステム障害の主な原因は時刻同期の失敗である可能性が高いそうです。
イタリアとドイツにある「Precise Timing Facility(PTF)」という施設にはセシウム原子時計と水素メーザー原子時計が設置されていて、100分に1回程度の頻度でガリレオの時刻を同期させています。この時刻同期を失敗してしまうと、「エフェメリス」と呼ばれる衛星の軌道予定が正常に計算されなくなるとのこと。実際の衛星軌道には必ず誤差が生じるため、エフェメリスは定期的に新しく作成される必要があります。エステベス氏は、実際にガリレオから出力されたエフェメリスのXML形式のファイルをGitHubに公開し、2019年7月11日以降はガリレオ側で正しく軌道計算が行われていないと指摘しています。
by ESA
なぜPTFとガリレオの時刻同期に失敗してしまったのかは不明ですが、GNSS関連の話題を扱うInsideGNSSがガリレオの関係者から聞いた話では、PTF側に問題があったとみられているそうです。関係者の証言によると、ガリレオは大規模なシステム障害をこれまで2回経験しているとのことで、そのいずれもフランスの宇宙企業タレス・アレーニア・スペースが建設したガリレオ関連の地上施設に問題があったそうです。
by ESA - Anneke Le Floc'h
European GNSS Agencyの広報担当者は「この障害はシステムに堅牢性を組み込んでいる間に起こりうることです。ガリレオは初期サービスの段階であり、完全には運用されていないことを認識する必要があります」と述べています。なお、InsideGNSSは障害の原因についてEuropean GNSS Agencyにコメントを要求したそうですが、返事はなかったとのことでした。