利き足を武器にしなければ戦えない、という持論が異端だと自覚しているという高崎氏【写真:高崎氏提供】

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【元川崎U-12監督が追求する日本サッカー“異端の指導法”|最終回】日本の指導現場に根付く「アウトサイドが雑」という固定概念

 高崎康嗣は、利き足を武器にしなければ戦えない、という持論が異端だと自覚している。

「サッカーはボールを片足で扱うスポーツですよ。両足で扱うなんて歩いているようなもの。全然アグレッシブじゃない。世界を見てください、ボールタッチを数えてみてください、と言いたいですね」

 日本では相手から遠いほうの足でボールを止めようと教わる。インサイドが丁寧で、アウトサイドが雑だという固定概念もある。だが密集した地域で右利きの選手が左足にボールを引き込めば、その分時間がかかる。それに対し、右足アウトで止めれば、そのまま次の動作にもスムーズに入れる。コンマ数秒の差が見事な展開と逸機の分水嶺になる。

「逆足のインサイドで止めれば、ボールひと転がり分だけ展開が遅れ、おそらくミスする確率も高まります。利き足のアウトサイドで止めるのが雑になるかどうかは技術です。ただ闇雲にアウトが雑だと決めつけるなら、そこに技術も判断もなくなります。

 ボックスの狭い中での勝負を想定すれば、技術の集約こそが面白いサッカーを演出します。そこで効果的な攻撃ができないことを戦術論に逃げてはいけない。最初のパスが10cmずれれば、次の人に渡るパスもさらに10cmずれていく。利き足でボールをピタッと止めてつなげていけば、数cmやコンマ何秒の違いを作り出すことができるんです」

 利き足の精度が高まると、守備力も劇的に上がるという。

「自分の最大値を発揮できるのは、利き足の前のポイントです。このポイントで触り、そして置く。同じ場所で触り続けボールを動かしていく。それはインアウトを問わず蹴る動作まですべてつながっていきます。それが熟達すると、相手を見ることができて、予測力も高まっていく。風間(八宏/名古屋グランパス監督)さんが、よく相手の矢印をつかめ、という表現を使っていましたが、技術が高まり目線が上がれば、相手のフォーム、癖、狙いなどを見抜くスピードも上がっていきます。小学5〜6年生のミニゲームで、プレー中に私が逆足でボールを持つと、みんなギュッと寄せてきます。逆に利き足で良い持ち方をすれば寄せてこない。ボールを奪える雰囲気が本能で分かり、守備の予測がしやすくなるんです」

逆足のインフロントを超える利き足のアウトフロントが「本当のテクニック」

 高崎自身の指導も、年々無駄を省き進化していった。

「最初は逆足でシュートを打つ選手がいたら、『そこ利き足で打てない?』という声のかけ方をしていましたが、意識改革をした翌年からは、『逆足で打つならワンステップ外しても利き足で打ったほうがいい』と伝えるようになりました。逆足のインフロントを超える利き足のアウトフロント。それが本当のテクニックです」

 昨年までは3年間、グルージャ盛岡(今季からいわてグルージャ盛岡)の指導に携わったが、利き足を意識して取り組んだ選手たちは「故障をして休んでいる選手が焦るほど」見る見る上達したという。

「逆足に持ち替えなくても、利き足でどちらのターンもできるし、そのほうがミスも少なくて、次の動作も速い。利き足だけでプレーする選手のほうが、確実に伸びしろはあると思います」

 世界では普通のことなのに、日本では異端。この落差を埋めるためにも、高崎は今後も持論を発信し続けたいと考えている。

(文中敬称略)

[指導者プロフィール]
高崎康嗣(たかさき・やすし)

1970年4月10日生まれ。東京農工大学卒業、筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻修了。筑波大学コーチ、東京大学ヘッドコーチなどを経て、川崎フロンターレではU-18コーチ、Uー12監督などを歴任。U-12監督時代には、ダノンネーションズカップ国内大会を4年連続で制し世界大会に出場。三好康児、板倉滉、田中碧、久保建英ら、さまざまな年代で現在プロで活躍する多くの選手たちの指導に携わる。2016年からはグルージャ盛岡でヘッドコーチを務め、今年専修大学の監督に就任した。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記〜青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。