6節を終えてJ2で首位を走るFC琉球。J2初参戦ながら快進撃を見せている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 3月の戦いを終え4勝2分無敗。今年J2リーグに昇格したばかりのチームがここまでの躍進を遂げることをどれだけの人たちが想像できただろうか。  とりわけ福岡との開幕戦はチームにとって、序盤戦の流れを左右する大きな一戦となった。この試合で琉球は、早速J2の洗礼を浴びている。ハイボールの競り合いやセカンドボールの立ち位置と予測で後手に回り、こぼれ球に対してのフィジカルコンタクトといった部分では大概琉球の選手が転倒していた。36分には左からのクロスボールに琉球の選手が身体を入れるも松田力に跳ね返されヘディングシュートを決められた。まさにJ2の強度を思い知る形となっていたわけだが、最終的には3-1で勝利したのは琉球だった。  1-1で迎えた72分。鈴木孝司のくさびからワンタッチでボールを受けた中川風希がオフサイドラインぎりぎりを突破した田中恵太にパス。その後エリア内で倒されPKを獲得した。ハーフウェーライン付近でボールを奪取し、わずか4本のパスで得たPK。このシーンは今年の琉球のサッカーを象徴するシーンと言える。 「(福岡戦の)前半の失点は選手間の距離が遠くなったことが一番の原因。結果、セカンドボールが拾えなくなり相手のリズムとなった。なので、ハーフタイムに『自分たちからアクションを起こしていこう』と選手たちに伝えた。彼らにはそれができるし、距離感を維持すればワンタッチ、ツータッチでスムーズにボールを動かすことができる。それができた結果、3-1というスコアになったと確信しています」 
 そう話すのは今年から琉球の監督に就任した樋口靖洋監督。チーム全体でゴールに向かう姿勢を追求し続ける指揮官は、そのスタイルを見出す上で選手たちに攻守の積極性を求めている。攻撃では枚数とポジショニングを意識させ数的優位を作り、守備はゴールを守るのではなくボールを奪う意識を持たせる。常に主導権を握ることで琉球の「攻め勝つサッカー」は成り立っている。  そのサッカーを実現させるため、樋口監督は1月の初練習時から常に「距離感」という言葉を選手たちに植え付けている。これはプレー中、選手同士の距離感を保ちながら正確なパス交換とプレスを実現させるという意味合いだけでなく、そういうシーンを作り出す上で重要な信頼関係の構築も含まれている。22人の新戦力が加わった今シーズン。言わずもがな、コミュニケーションの確立は急務であった。 
 そこで指揮官は最大のキーワードである距離感をいち早く築くべく、ある練習メニューを必ず課すことにした。それが「ロンド」である。5〜6人が一組となり、パススピードと角度、ポジショニングを意識しながらボールを回し続け、鬼役はそのパスコースを読み取りカットすることに専念するという、いわゆる“鳥かご”である。 「僕にとって鳥かごはサッカーの原点だと思っている。ただ黙々とやるのではなく声を出し合いながらパスとプレスにチャレンジし続け、それが上手くいけば歓声が上がるし、できなければ悔しいと思う。それを繰り返すことで『今度こそ』という気持ちも芽生えるし、『やれるもんならやってみろ』という思いも生まれる。そういう姿を僕は後ろから見ていてとても楽しいし、選手たちも楽しんでやっている。それによってチーム全体のモチベーションも見極めることができるので毎日10分間だけ鳥かごをやっています」 

 ボールを蹴り合うことで選手間のコミュニケーションを円滑にし、なおかつ攻守の共通理解が鍛えられコンビネーションを築くことができるロンド。ウォーミングアップで行なうチームもあると思うが琉球の場合、大事な「メイントレーニング」となっている。全体練習終了後も各自でロンドを行なう選手の姿も見られ、琉球のサッカーを体現するため効率の良いトレーニング方法と言えるだろう。  樋口サッカーの根幹を担う距離感を見出し、攻守の積極性と信頼関係を万全にして迎えた開幕戦。3-1という結果は、チームがJ2で生き残る術を披露しただけでなく、格上を相手にしても戦えるという自信を植え付けた価値ある1勝となった。 取材・文●仲本兼進(フリーライター)【PHOTO】J2昇格1年目ながら4連勝で首位!今琉球がアツい!