レスター・シティのFW岡崎慎司に出番が訪れたのは、61分のことだった。

 11月27日に行なわれたリーグカップ4回戦のサウサンプトン戦で、岡崎はベンチスタートを命じられた。0-0で迎えた61分、ケレチ・イヘアナチョとの交代で4-2-3-1のトップ下に入った。迎え撃つのは、サウサンプトンのDF吉田麻也。3-4-1-2の中央CBとして先発した吉田との「日本人対決」が実現した。


試合後に互いの健闘を称えあう岡崎慎司と吉田麻也

 岡崎はピッチを幅広く動いて、好機をうかがった。相手DFとMFの間のスペースでボールを受け、チャンスと見ればゴール前に顔を出す。「センターフォワードのジェイミー・バーディーのフォローに入ること。攻撃の流れをつくること」(岡崎)の2点を意識しながら、積極的にピッチを駆け回った。

 対する吉田は、冷静な守備を見せていた。3バックの中央CBとして、対峙するFWに縦パスが入れば、前方に飛び出してブロック。スピード抜群のバーディーにも落ち着いて対処した。

 そんなふたりがマッチアップしたのは76分。

 岡崎がボールを受けると、吉田は素早く寄せにいく。すると、岡崎は吉田を背負った状態で鋭く反転──。吉田をかわしてドリブルで進み、ミドルシュートを放った。シュートはGKにキャッチされたが、この試合で唯一のマッチアップは岡崎に軍配が上がった。

 ただ、肝心の試合は0-0のまま決着がつかず、PK戦に突入。6-5でレスターがPK戦を制し、マンチェスター・シティとの準々決勝に駒を進めた。試合後、吉田は次のように語った。

「リーグ杯は、僕も岡ちゃんも出場機会を得られる貴重なチャンスだと思う。僕としては、ひとつそれが減ってしまったのが非常に痛いです。

 でも、12月は連戦が続く。いいパフォーマンスを続けて、試合に絡んでいくのが大事になる。代表でも試合に出ているので、イングランドに帰ってきて、試合勘をキープしつつ、いい状態で連戦を迎えられるようにしたい」

 これで吉田は、公式戦3試合連続となる先発フル出場を果たした。一時はベンチ暮らしが続いたが、ようやく風向きが変わりつつある。

 ただ、リーグカップの3日前には、国内リーグのフラム戦を2-3で落としていた。その試合で吉田は、フラムの決勝点の場面でマーカーに競り負け、失点に絡んでいた。

 それだけに、日本代表DFも「とりあえずチャンスが来ているので、(このレスター戦で)生かさないといけないと思っていました。前回のフラム戦は、代表帰りでパフォーマンスを出せなかったので、印象として非常によくないと思っていた。ここでパフォーマンス上げて巻き返したかったので、0点に抑えられたのはよかった。続けていきます」と力を込めた。

 一方の岡崎も、リーグカップの3日前に行なわれたブライトン戦で国内リーグ初先発を果たした。

 岡崎は「今は試合することが楽しい。徐々に出場時間も増えているので、そういうところでいいモチベーションをずっと維持できている」と話す。W杯ロシア大会で痛めた足首についても、「ケガをする前の状況に戻ってきている。今は練習でもガツガツいけている」と、復調をアピールした。

 その岡崎の囲み取材のなかでもっとも熱を帯びたのが、「日本人対決」について記者団から質問が飛んだときだった。岡崎は「日本人対決は、あまり気にしてはいないんです」と返すと、「ただ」と断ってから、次のように言葉をつないだ。

プレミアリーグに日本人がいることには価値があると思う。『試合に出てなかったら意味がない』という意見はあると思います。でも、『プレミアリーグまで来ることができた』との自負というか、そういう誇りは日本人としてある。

 もちろん、プレミアに来ている選手が優越感に浸っているわけではありません。ただ、そのなかで試合に出たり出なかったりして、ともに苦労している。だから、こうして一緒に試合に出ることはうれしい。まあ僕は今、元日本代表なんで(苦笑)。日本代表でやってる麻也と試合ができた。自分もまたそこに呼んでもらえるように、プレミアでいっぱいプレーしたいなと思っています」

 岡崎は言葉を続ける。

「『試合に出られるところに行けばいい』という声はもちろんあるし、その考えもわかります。だが、プレミアに来た選手がチャンスを手放すかといったら、手放さないと思うんですよね。

 ここまでやってきた選手としては、『意地でも残ってやる』というのが普通のメンタルだと思う。だから、ここでプレーしている俺らがどこまでがんばれるかは、今後(イングランドに来る)選手のためにもなる。それを証明したいです」

 岡崎慎司、吉田麻也、そして今季からニューカッスル・ユナイテッドに加わった武藤嘉紀。三者三様で状況は違うが、それぞれが所属先での定位置争いで苦戦している。しかし、彼らが身を置いているのは、世界最高峰と謳われるプレミアリーグ。競争は厳しく、勝ち抜くのも難しいが、得られるものは非常に大きい。

 岡崎の言葉に、プレミア在籍4季目のプライドと意地が垣間見えた。