9月6日の北海道胆振(いぶり)東部地震で天井の一部が落下した新千歳空港の国内線ターミナル(写真:共同通信)

9月6日、未明の北海道を襲い、初の最大震度7を記録した北海道胆振(いぶり)東部地震。玄関口である新千歳空港は停電の影響で一時営業不能となった。7日には再開にこぎ着けたが、地震ではターミナル内の天井が落下する被害を受けている。

実は大規模な地震のたびに、空港の天井パネルの落下が繰り返されている。2003年に発生した北海道十勝沖地震では、釧路空港のターミナルビルで天井が落下した。その後も茨城空港、熊本空港、そして今年6月に発生した大阪北部地震でも、伊丹空港の従業員専用区域で天井が一部剥落した。

地震に弱い吊り天井

空港など広い空間を持つ建物の天井は「吊り天井」だ。天井裏から吊りボルトと呼ばれる長いボルトを垂らして石膏ボードを固定させる構造で、天井裏に張り巡らされた空調や照明設備を隠すとともに、断熱や消音にも効果がある。


他方で、地震が起きるとぶら下がった天井がブランコのように揺れてしまう。揺れた拍子に壁にぶつかって部材が破損することが落下の原因となる。

とりわけ空港の場合は「大空間でひと続きの天井となっている場合には天井全体が重くなるケースもある」(天井の耐震化の普及・促進活動を行う日本耐震天井施工協同組合)ため、揺れによる負荷も大きくかかるという。

吊り天井の脆さが認識されたのは、2001年3月に発生した芸予(げいよ)地震だ。広島県内の小学校などで体育館の天井が落下し、避難所として使われるはずの体育館の安全性が不安視された。

国交省は同2001年6月、業者が天井工事をする際の方針として、天井と壁との間に一定の隙間を設けることや、吊りボルト同士を繋いで振れ幅を抑えるなど、事故調査によって得られた知見をもとにした「技術的助言」を通知した。

さらに2003年9月の十勝沖地震で発生した釧路空港の天井落下事故によって、天井に凹凸や段差を付けると、天井がバランスを崩して破損する危険性が浮き彫りになり、国交省は同年10月に技術的助言の改訂版を再度通知した。

天井の耐震基準は「実質的に存在しなかった」

2005年8月の宮城県沖地震においても仙台市内の温水プールの天井が落下し、国交省は技術的助言の徹底を求めた。ただし、あくまで「助言」であって、法的な強制力はない。


他方で、「東日本大震災以降に建築基準関係法令が改正されるまでは、天井に関する耐震基準は実質的に存在しなかった」(日本耐震天井施工協同組合)。

建物の構造自体は耐震基準等で厳しく規制されている一方、天井は内装工事のため、内装業者にゆだねられている部分が大きい。

建築基準法施行令には、天井を含む内装材について「地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない」という記述があるものの、現実は「施工不良が原因で(天井が)落下したかどうかの判断は難しい」(国土交通省建築指導課)。

ところが、吊り天井を取り巻く環境は一変する。2011年の東日本大震災によって、東京・九段会館の天井が落下し2人が死亡した。

モルタル製の天井の下に石膏製の天井をぶら下げるという類を見ない工法だったが、2つの天井を繋いでいた石膏柱が揺れで破損、石膏製の天井が揺れによって壁と衝突したことが、事故の引き金となった。同日には茨城空港でも待合ロビーでの天井が落下した。

見栄えよりも安全性を重視した茨城空港

人命が奪われたことで、ようやく天井の法規制が強化されることとなる。国交省は2014年に建築基準法を改正し、多数の人が利用する場所に設置される一定規模の吊り天井を「特定天井」とし、震度5弱程度の地震では損傷しない程度の耐震性を求めた。

ただし、これはあくまで新築物件にだけ適用されるルールだ。既存の物件は既存不適格(建築当時の法律には適合していたが、その後の法改正によって適合しなくなった)となる。

「既存物件の天井も自治体から改修をお願いしている」(国交省建築指導課)が、既存不適格の物件は増改築をしない限り現状の法律に適合させる義務はなく、改修に同意する所有者は多くない。

また、耐震基準を引き上げても、天井が絶対に落下しない保証はない。地震で天井が落下した熊本空港は、1981年に定められた新耐震基準に適合していたものの、「1度目の震度7の揺れには耐えられたが、2度目(の震度7の揺れ)で落下した」(熊本空港ビルディング)。


茨城空港の天井は配管や照明設備がむき出しになっている(写真:茨城空港ビル管理事務所)

改修費もかかるうえに落下の危険もはらむ天井は必要なのか。この問いに答えたのが茨城空港だ。東日本大震災によって天井が落下して以来、空港ロビーには天井板がない。落下事故を教訓に、見栄えよりも安全性を優先した形だ。剝き出しになった梁や配管ダクトを黒く染めることで、デザインとしても目立たなくした。「今のころ弊害はない」(茨城空港ビル管理事務所)といい、今後も天井板を設置する予定はないという。

熊本空港や新千歳空港を設計した日建設計によれば、「天井は施工された時期の法律や基準によって落下対策が異なる」。

国交省は特定天井の改修については補助を出しているが、建物が倒壊しなくとも、天井の落下でけがをすれば元も子もない。

今回の地震を機に、天井の安全性を全面的に見直す必要がある。