女子がグッとくる駐車のバックの仕草、消滅の危機へ すべてはバックモニターの功罪!
駐車の際などクルマをバックさせるとき、どのような姿勢をとるでしょうか。女子目線でグッとくるアレなどありましたが、実はそうしたものがなくなりつつあるのではと危惧されています。すなわち、バックモニターの存在です。
クルマの扱いは女性の扱い、と、まことしやかに語られたものです
その昔、「グッとくる仕草」の代名詞だったのに、いまではすっかり見られなくなったものがあります。それは「男性がクルマの運転中にバックする時、助手席に腕を回す」という、例のヤツです。
クルマをバックさせる際の、「(4)助手席に腕を回して半身をよじる」の1例。バックモニター搭載車ゆえ、あまり意味はない(2018年4月27日、恵 知仁撮影)。
これまで、駐車する際にクルマをバックさせながら後方を確認する時には「(1)窓を開けて頭を出す」「(2)ミラー越しに覗く」「(3)ドアを開けて後方や地面の白線を確認する」「(4)助手席に腕を回して半身をよじる」という、大きくわけておもにこの4つの方法がありました。なお、番外編で「ガルウイングをあけてサイドシル(ドア下の敷居のこと)に腰掛ける」という方法もありますが、それは車種が限られるので割愛します。あと、「リアスコープを覗く」というのもありますね。
当然ですが、女子が好きだったのは、断然(4)です。もちろん、(1)の「教習所で習ったとおり」感満載のまじめさにも惹かれますし(踏み切りでいちいち窓を開けるとかも好き)、(2)のいつもと違う上目遣いの表情を盗み見る楽しさもありました(できればメガネ着用が好み)。(3)のちょっと通っぽい仕草も、「リアガラスがふさがれる位の馬鹿でかいスポイラー」みたいな事情も含めて胸が躍ったものです。でも、(4)の助手席に腕を回す仕草、これに勝るものはありませんでした。カウンタック・リバースを除いて(個人の見解です)。
いきなりグッと縮まる距離感。間近で見る筋肉質な腕。まるで肩を抱かれているかのような錯覚に陥り、シートを通してその体温まで感じられるのではないかと(そんなわけないのですが)、ドキドキしたものでした。これ、普段はそういうことしそうにない人がやると、さらに効果的だったんですよね。「あれ? 急に男らしい」みたいな。
ところが、近年、ここに5番目の方法が加わったのです。それが、「バックモニター」です。
バックモニターがもたらしたもの、なくならしめたもの
「バックモニター」の登場は、非常に画期的でした。クルマのリアに搭載されたカメラを通じて、車内のモニターにクルマ後方の様子を映し出すというものです。従来は大型バスなどに搭載されていましたが、1990年代後半から乗用車への採用が増加。後方の死角を無くして事故を防止する安全確認補助の意味合いから、アメリカでは2018年現在、すでに新車へのリアカメラの搭載が義務化されています。
クルマをバックさせる際の、「(2)ミラー越しに覗く」の1例。メガネ着用の効果は個人差があるので留意されたい(2018年4月27日、恵 知仁撮影)。
この技術により、目視だけでは確認できない駐車スペースと車体の向きをモニターでチェックしながら、速やかに駐車ができるようになりました。車庫入れが苦手な方もこれで安心。少なくとも(3)やカウンタック・リバースのような動作は必然性がなくなりました。目視では足りない部分を「バックモニター」で補うことで、本来推奨されない運転動作を回避することも可能になったのです。利便性においても、安全性においても、大変意義のある技術です。
でも。でもですね。
ふたりで頭を付き合わせて、ピーピーと電子音を聞かされながら、小ちゃいモニターを眺めていたって、そこにトキメキは生まれないわけですよ。そこにトキメキが必要か、は、ともかく。
いえ、いまさらどうこうというわけではなく、「クルマに乗る」ということに、トキメキやら、普段とのギャップやら、恋の駆け引きやら、あれこれいろいろな意味を持たせていた世代としては、いかにも「いや、後ろが見にくいからね」という体でさりげなくアプローチする手段がないとしたら、いまの若者はどうやってふたりの距離をつめるんだろう、と、老婆心(文字通り)ながら心配になってしまうのです。
女子も女子で策略が…! いま明かされるあの仕草の真実
ちなみに、この「必然性を装って距離をつめる」という方法、女子側で言いますと、「シートベルト作戦」というものがありました。
「シートベルト作戦」の1例。写真はイメージであり、中年男性が実行してもまるで意味はないので留意されたい(2018年4月27日、恵 知仁撮影)。
これはですね、家まで送ってもらいました、クルマ停まりました、サイドブレーキ入れながら「じゃあね」と言われてしまいました、でもこのまま降りたくない、さあ、どうする!? というその時、「あれ? あれ? シートベルトが外れない」と、ゴソゴソして見せるというものです。「これ、カチャッて赤いところを押せばいいんだよね?」とかなんとか言いながら、両手でバックルを触るのです。この時、ポイントは、身体を運転席側に半身ひねること。そして、ちょっとかがみ込むこと。「え、どれどれ?」なんて、手が伸びてくればしめたものです。そのタイミングで、顔を上げる。絶妙な顔の角度と距離の近さで不意打ちを食らわせ、相手の心拍数とアドレナリンをガツンと上げるという、非常に破壊力がある技なのです。
なお、熟練者になると、到着間近になったらバックルをシートにグイッとめり込ませる、などという小技も使っていました。これも、若者の「ドライブデート」や「送ってあげる」文化がなくなりつつあるいま、恐らく廃れてしまっているのでしょう。残念。あ、ご同輩のみなさま、いまさらばらしてごめんなさい。元男子のみなさま、「あれはそういう意味だったのか!」と、今夜は枕を叩いて寝てください。
そうは言いつつ、「バックモニター」のような技術進歩の恩恵を一度享受してしまうと、もはや後退は望めません。願わくは、「バックモニターでグッとくる仕草」が出現してくれないかな、などと夢想したりしてしまうのです。
【写真】ガルウイングのサイドシルに腰掛ける、の1例
クルマはメルセデス・ベンツ300SL。サイドシル(ドア下の敷居)の高さに注目(画像:buschmen/123RF)。