ブルガリアで最も古い都市のひとつに数えられる、古都ヴェリコ・タルノヴォ。

1187〜1393年にかけては第2次ブルカリア帝国の首都として栄え、とりわけイヴァン・アッセン王の時代にはバルカン半島のほぼ全域を支配するほどの勢力を誇っていました。

今では一見しただけではそれほどの権力の中心地であったことが信じられないほど、のんびりとした地方都市の雰囲気が漂うヴェリコ・タルノヴォ。しかし町を歩けば、いたるところに古都の情緒が薫り立ち、誇り高い歴史と文化が脈々と受け継がれていることが感じられます。

そんなヴェリコ・タルノヴォを代表する観光スポットが、ツァレヴェッツの丘。

旧市街のメインストリートを東に進むと、頂上に教会が建つ小高い丘が見えてきます。周囲を城壁でぐるりと囲まれたツェレヴェッツの丘は、まるで小さな万里の長城のよう。

第2次ブルガリア帝国の時代、ここは王宮や教会、住宅、さらには貯水タンクや防衛塔までをも備えた要塞都市として機能していました。発掘調査によれば、往時は470もの家々や23の教会、4つの修道院が建っていたことがわかっています。

大きく蛇行するヤントラ川に三方を囲まれたツァレヴェッツの丘は、まさに天然の要塞ともいえる地形。国の中枢を担う重要な建物の建設にはうってつけの場所だったのです。

しかし、堅固な要塞都市もオスマン朝の猛攻をしのぐことはできず、陥落。がれきの山と化してしまいました。

現在見られる石畳の道や城壁、塔などは、1930〜1981年にかけて修復されたもの。石を積み上げて造られた城壁や城門の跡が、かつての威容の片鱗を今に伝えています。

ほとんど廃墟と化していながら、それでもツァレヴェッツの丘が観光スポットとして人気を集める理由のひとつが、丘の上からの景色。ここからは、丘と川に挟まれ、起伏に富んだヴェリコ・タルノヴォの多彩な表情を見ることができるのです。

断崖に折り重なるようにして建つ古い民家、丘と丘のあいだにある箱庭のような場所に築かれた集落・・・

古都の情緒あふれる町並みと、不完全な城壁が織り成す風景がなんともいえない味わい深さを感じさせます。栄枯盛衰を感じさせる、もの悲しくも美しい光景が、人々を惹きつけてやまないのでしょう。

その存在を誇示するように丘の頂上に建っているのが、大主教区教会。1981年に再建されたもので、ツァレヴェッツの丘でほとんど唯一の完全な建物といっても過言ではありません。

伝統的なブルガリア正教会の教会とは異なり、壁や天井に施された絵画の筆致はきわめて硬直的で、社会主義の影響を受けていることがわかります。

どこかおどろおどろしささえ感じさせる空間の迫力に、圧倒されずにはいられません。

中世の宮殿の廃墟と、社会主義時代の教会。まったく異なる建造物が同時に楽しめるのもツァレヴェッツの丘の醍醐味といえるでしょう。

どこを歩いても違う表情を見せてくれるヴェリコ・タルノヴォ。せっかくならツァレヴェッツの丘周辺のアセノフ地区にも足を延ばし、自然と人工物が調和した美しき古都の風景を堪能してはいかがでしょうか。

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