フランス人女性が男に「割り勘」を求める理由
フランス人男女が基本「割り勘」の理由とは?(写真:encrier/iStock)
米ハリウッドの大物プロデューサーが長年にわたってセクハラ行為を行っていたという報道を皮切りに、世界中でセクハラ行為に異を唱える「#MeToo」運動が広がり続けています。日本でも、現役財務事務次官によるテレビ局社員へのセクハラ行為をめぐる報道が世間を賑わせるなど、セクハラという言葉を見ない日はないほどです。
こうした中、異性との接し方に悩む人もちらほら。はたして、男女平等社会における理想的な異性との接し方はあるのでしょうか。本連載では、日本生まれで現在、フランスに住む佐々木くみと、日本に住んだ経験を持つフランス人、エマニュエル・アルノーが、フランスと日本、男と女の違いなどについてざっくばらんに語り合います。
フランスの#MeTooはかなり過激
エマニュエル: フランスでも、 #MeToo運動の広がりはとても大きくて、女優や報道・政治・企業などの各界の多くの女性たちが賛同している。ちなみにフランスでは、#MeTooではなく#balancetonporc(豚野郎を告発せよ)という少し過激な表現を使っているんだ。そのこともあって、カトリーヌ・ドヌーヴをはじめとする何人かの女性が、あまりにもこの運動は攻撃的でむやみに告発をうながすおそれがあると言い、男性には女性を「口説く権利」があると表現したんだ。
この連載の一覧はこちら
くみ : 私も #MeTooではなく、フランスでは #balancetonporc を使うと聞いて、なんとなくしっくりこなくて使いづらかったわ。ドヌーヴが異論を唱えたときも、日本では「ドヌーヴが#MeTooに反対」と大きく報道されたのよね。
ドヌーヴはもっと別の主張をしていたのに、そこがすっかり抜け落ちて、単に反対という部分だけがクローズアップされてしまっていたのも、何か意図的なメディア操作だったのかしらと思った記憶がある。フランスではその後、メディアの誤報を見たドヌーヴが「自分が言いたいのはそういうことじゃない」とすぐに反論したけれど、日本はそれっきりだったのでは。
エマニュエル : フランス人の間でもドヌーヴたちの意見には賛否両論で、どうしても口説きとセクハラの境界というのが受け手によって大きく変わってしまうものなので、いまだにこの議論は続いているよ。
エマニュエル: くみは日本とフランスとでは、男性の女性への接し方が違うなと感じることはあるの?
くみ: そうね。私はパリに住んで10年以上になるけれど、日本とフランスで男女の関係にまつわるさまざまな違いは、日頃から目にすることが多いわね。
エマニュエル: 僕が初めて日本に行ったときにすぐに気が付いた違いは、やっぱりレディファーストかな。
くみ : 確かに、レディファーストを実行している日本の男性は多いとは言えないよね。
外国慣れしている男性でもとまどう場面
エマニュエル : 古き良き日本男児のイメージとは真逆だし、どこかキザな感じが日本男性には照れ臭いのか、レディファーストって日本にはなかなか浸透しにくいのかな。
くみ: 私が仕事を一緒にしている日本人男性たちの例で言えば、外国の習慣に通じている人ほどレディファーストを自然にできる人が多い気がする。それでも、そんな日本人男性でもとまどう場面もあったわ。
たとえば、日本人とフランス人、取引先同士の数社の社長や幹部の男性たちとフランスで仕事をしたとき、皆でエレベーターに乗ったりレストランに会食に行ったりすると、いちばん年が若い私が、唯一の女性だというだけで最優先されるの。こういうとき、日本人男性たちはたいてい、相手方の社長を最優先しかけるのだけど、フランス人男性たちがそろって私を最優先するものだから、慌ててそれに合わせたり。
エマニュエル : フランスでも、最近は男女平等を尊重するためにレディファーストを廃止してはどうかという声もあがっているようだけどね。まぁでも、男性が女性をおいてわれ先にとエレベーターを降りるのは、どうしても恥ずかしいと感じてしまうんで、なかなか一般的には広まらないと思うけれど。
くみ: 個人的には、大切にされている気がして嬉しいことは嬉しいけれど、エマニュエルが言うように、男女平等、男女同権をこれだけ声高に叫んでいるフランスで、女性だからといって優先されるのもちょっと違和感がある。
くみ:逆に、私はフランスに来て驚いたのは、これだけレディファーストがマナーとして根付いているのに、フランス人の男性に誘われてご飯に行ったり飲みに行くと、学生から社会人まで、割り勘が圧倒的に多いこと。
日本では学生同士でも、特に付き合っていなくても、なんとなく男性がごちそうしてくれたり、多めに出してくれたりしたけれど、フランスでは、たとえ気がある女性を誘う場合も割り勘だったりするわよね。父親ほど年齢の離れた上司とランチに行っても、当然のように割り勘だったときも驚いたわ。
フランス人男性がやってしまうこと
エマニュエル : 確かに、レディファーストの紳士的なイメージと割り勘は日本女性にはギャップを感じるかもね。でもこれは、単純に男女平等の精神からフランスの女性側がつねにおごられることをよしとしないからだと思う。
それに男性に払ってもらうのは、どこかおカネで買われているというと言いすぎかもしれないけど、そういった心地の悪さがあって、各々で支払いを済ませるほうが男女の関係において金銭的な貸し借りによる圧力みたいなものを感じないでいられるのでいいと思っている人が多いからなんだろうね。
ギャップといえば、フランスの男性にはレディファーストの精神とは真逆な側面も日常生活の中でよく見られると思うんだけど、くみはどう思う?
くみ : ……と言うと?
エマニュエル : たとえば、会社のオフィスで4人の男性社員と1人の女性社員が仕事をしているところに、別の部署のきれいでプロポーションの良い女性が用事で入ってきたとする。
エマニュエル : すると男性社員たちは人目をはばかることなくその女性を目で追いかけて、その女性が出ていくと同時に、「今の見た? すっごくいい女じゃない?」と別の女性社員がいる前で堂々とコメントしあうというような状況はよくある。もっとひどい場合には、魅力的な女性本人がいる場でそれをしてしまうなんてこともある。こういうことは日本でもあるの?
女性社員はどう反応するのか?
くみ : そうね、職場の環境などにもよるかもしれないけれど、少なくともビジネスの場では、日本では「◯◯さんて、きれいな方でしたね」くらいは言うかもしれないけど、そこまであからさまに、すぐに反応をする、というのは失礼に当たるわね。飲み会などで、もっとリラックスした場で思い出して話をすることはあるかもしれないけれど……。でもそういう場合には、その女性社員はどんな反応をするの?
エマニュエル: もちろん女性の性格にもよるけど、たいていの場合は何の反応もしないかな。男性社員が占める割合が明らかに多い職場ほど、女性は仕事上の関係を円滑に保つほうを重視して感情を抑える傾向にある気がするなぁ。
そのほかにも、フランスでは路上で男性が女性に声をかけることが、日本よりはるかに多いね。中には女性にわいせつな言葉をかけることや、ナンパを断られるとその女性に暴言を吐いたり脅したりなどの問題があったために、路上でのセクハラを罰金化する議論が現在されているんだ。
ナンパすることが目的ではなく、ただ単に女性と知り合いになりたくて会話をするために声をかけるなんてこともよくあるし、そんな場合にはそれに普通に応える女性もたくさんいる。
くみ: 日本でも、路上で声をかけてくる人は意外と多いわ。特に、夕方以降に都心の駅周辺など人通りの多いところで、本当に普通の感じのサラリーマンが、「一緒に飲みに行かない?」なんて誘ってくるわよ。
くみ: それでも、声をかけられた女性としては、軽そうに見られたのかしら?と、ちょっと複雑な気持ちになるわね。知らない人に声をかけられても、絶対についていかないように、と子どもの頃から教えられるから、余計罪悪感が伴うのかも。
あとは、コミュニケーションの違いもありそう。フランスでは、たとえばレストランで隣のテーブルになった人と、ちょっと目が合ったら挨拶代わりにニコッとしたり、やってきたときや去り際に、「こんばんは」「よい夜を!」などと投げかけることもあるわね。
日本女性とフランス女性の違い
くみ:日本では、カウンター席で一緒になって、お店の人を介して話が弾むこともあるけれど、違うテーブル同士でこのように気軽に挨拶する、ということは、あまりない気がするの。知らない人には、基本的に話しかけないし、目も合わせないのが普通なんじゃないかしら。
割り勘の話も印象的だったけど、男女平等というからには、フランスでは逆に女性に求められることも多い気もするわ。私の両親の日本の友人などは、夫に不満があって慰謝料をある程度請求できても女性がその後食べていけないから、という理由で離婚を選択せず、表面的な結婚生活を続けている人も少なくないと聞いたわ。
一方、フランスで育った日本人女性は、フランスの中高時代、将来1人でも自活できる基盤を築くのが重要事項だと叩き込まれたと言っていた。女性側が受け身で養われる存在だと女性の立場も不安定で弱くなってしまうけれど、その状態から抜け出すには女性自身が誰にも頼らず生きていけるだけの力を身に付ける必要があるのよね。
エマニュエル:そう考えると、フランスでは男性は女性に接するときはレディファーストにおける女性を女性らしく扱う精神と、フェミニズム的な男女平等の精神をうまく混ぜ合わせることを理想とするのかな。
でもその程よいバランスを見つけるのは男性にとっては正直そんな簡単ではないんだよ。だから賛否ある #MeToo運動だけど、女性が告発して初めて男性側が気づかされることもあるわけで、これが理想的な男女の接し方をお互いが見つけることにつながると思うんだ。