スタジオアリスは国内47都道府県に510店を展開する。写真館としては、斬新なシステムを打ち出し拡大してきた(記者撮影)

子ども向け写真館の最大手「スタジオアリス」。利用したことはなくても、そのカラフルなロゴマークと、店頭にずらりと並ぶ小さなドレスや着物を、ショッピングセンターなどで見掛けたことがある人も多いのではないだろうか。

4月13日に同社が発表した2019年2月期の売上高見通しは、過去最高となる411億円(14カ月の変則決算だった前期を除く)。写真の制作・加工を手掛ける子会社への投資がかさむことなどから営業利益は伸び悩むものの、この10年を振り返っても店舗数と売上高は右肩上がりが続いている。

かつては職人技の世界だった

アリスは1992年に1号店をオープン。現在は47都道府県に510店舗を展開している。顧客が写真を選べること、衣装や着付けは何着でも無料、明るくオープンな店作りなど、写真館として斬新なシステムを打ち出してきた。


もともと写真は職人技の世界だった。「写真館の館主は『先生』と呼ばれ、町の名士だった。その写真は芸術作品で、よいものを館主が選んでいて、顧客は自分の写真を選べなかった。また照明が写真に影響しないよう、スタジオ内を暗くしているところがほとんどだった」(同社広報)。

少子化が進む中で、アリスは「子ども向け写真館」という新しい市場を開拓してきた。「アリスがスタートした当時は、写真館を利用する子どもの割合は17%だったが、最近は30%台になった。また、6割のシェアを占める当社を含めて、いま全国に子ども用写真館は1200店ほどあると思われる。ライバルも含めた店舗数の増加によって需要を喚起できてきた」と、決算会見の場でアリスの川村廣明社長は分析した。

一方、写真館事業は「利益率が非常に高く、恵まれた業界。設備投資はある程度かかるが、客数さえ伸びれば儲かる」(写真業界関係者)。それゆえに新規参入が目立つが、その多くは撤退に追い込まれている。「顧客は撮影しているときの雰囲気などエンターテインメント性も含めて利用している。人材など、目に見えない部分がまねできそうでまねできない理由だろう」(同)。

売り上げの4割を占める七五三

近年はスマートフォンが普及し、搭載されているカメラ機能もかなり洗練されている。川村社長は「かつてはカメラが高価だったから写真館に行っていた。その後、安価なカメラがどんどん出てきたけれど、アリスは伸びてきた。スマホも同じ」と述べ、ハレの日に写真館に行くという行為に、顧客が価値を見いだしていると強調する。


リピーターを増やすべく、アリスも0〜1歳の赤ちゃん撮影を増やそうとしている(記者撮影)

他方、「正月にしめ縄をつけた車を見掛けなくなったように、お宮参り、お食い初め、七五三といった日本の行事が廃れていくのは怖い」(同)。実際、アリスの売上高の約4割を七五三が占めており、この商機をきちんと取り込めるかどうかが業績を大きく左右する。

とはいえ、単価が何万円もする撮影をしたいと思う人を、さらに増やすのは容易ではない。アリスの客単価は平均3万円ほど。店舗数が一定規模に達し、出店地域が限られてくる中、今後は少子化の影響がより顕著に出始める可能性がある。

あるライバル企業も「店舗数は飽和状態に近いと思う。今後は大人の取り込みやリピーターを増やしていく必要があると思う」と話す。


川村社長は、新規事業を上乗せすることが成長への手段だと強調する(記者撮影)

アリスも子ども向け写真館だけではなく、「これからは新規事業をきちんと上乗せしていくことが、いちばん成長できる手段だと考えている」(川村社長)。ブライダルやマタニティといった大人の撮影や、2分の1成人式(10歳)など新たな市場の開拓に加えて、足元で注力するのが出張撮影やアプリでの写真注文だ。

苦戦する海外事業

出張撮影は、カメラマンが保育園や幼稚園へ出向いて遠足の風景などを撮影し、親はアプリ経由で写真やアルバムを注文できる。2015年に本格スタートし、子を持つ親たちに広く浸透しているブランド力が生きたこともあり、今年度には黒字化する予定だ。

さらに、最近はお宮参りの際など家族に同行して1日の様子を撮影するといった、カメラマンが出向くスタイルがはやりだすなど、アリスも実験に乗り出しているという。ほかにも、スマホで取った写真をミニアルバムにし、180円で届けてくれるアプリなどを提供開始する。

実は20年ほど前からアリスは韓国や台湾など海外にも進出してきた。しかし店舗数は多いときでも12店舗と一向に増えず、現在は韓国に3店舗のみ。中国進出の足掛かりにしようとした台湾も赤字から抜け出せず、昨年撤退に追い込まれた。「七五三に該当するような行事がなく、正直に言えば圧倒的な差別化もできていない」(川村社長)。

「新規事業が順調にいけば来年度にも最高益を目指せるかもしれない」と川村社長は語る。子ども向け写真館という概念がある程度浸透したいま、国内市場を舞台にアリスがアクセルを踏み続けるには、新たな収益源の確立が欠かせない。