【戸塚啓コラム】冷え込んでいる日本サッカー界に「イニエスタ獲得」に乗り出す気概を
できることとできないことがあるのは、もちろん分かっている。ただ、Jリーグにとっては間違いなくチャンスである。
アンドレス・イニエスタが、今シーズン限りでバルセロナを退団することになった。「バルサとは対戦したくない」と話す彼は、新天地の選択肢にヨーロッパのクラブを入れていないと報道されている。早速と言うべきか、中国のクラブが獲得に興味を示しているとの噂もある。
Jリーグのクラブも、名乗り出てくれないものだろうか。
ヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督の更迭によって、ロシアW杯へ向けられたサッカーファンの熱が冷めてしまった印象は拭えない。もとより熱が高まっていたとは言えないうえに、サッカー協会の対応が冷たい水をかけてしまったと感じる。更迭までの流れと新監督の選定の理由付けは乏しく、「W杯で勝てるのか」という議論の本質がすっかり置き去りにされてしまった。
たとえば、西野監督のもとで善戦を繰り広げ、グループリーグ突破にあと一歩まで迫ったとしよう。コロンビア、セネガル、ポーランドとの力関係は劣勢にある。誰が監督でも、どんなメンバーでも、ベスト16へ勝ち上がるのは難しい。
彼我の力関係を考えれば、「16強まであと一歩」でも健闘したと言える状況だ。ところが、そもそも日本代表への関心が低かっただけでなく、更迭問題で一般的な関心はさらに冷めている。おそらくは「負けた」という事実がことさらに強調され、「ああ、やっぱり」といった空気が蔓延していくだろう。
その先に待っているのは、Jリーグの冷え込みだ。「W杯で活躍した選手を観に行こう」といった観戦動機が、観客動員につながるとの期待は抱きにくい。
だからイニエスタを獲れ、というわけではない。この33歳がロシアW杯での好成績を手に来日したら、もちろん大変な盛り上がりになるだろう。Jリーグを活性化する大きな一手となるが、むしろ期待したいのは子どもたちへの影響であり、日本人Jリーガーへの刺激財としての効果だ。
Jリーグのユニフォームを着ている子どもたちを見かける機会が、93年の開幕当初に比べると減っていると感じる。その一方で、ヨーロッパのビッグクラブのレプリカユニフォームはすっかりポピュラーになった。ショッピングモールなどへ行くと、バルサ、バイエルン、チェルシーなどのユニフォームを着た子どもたちに、それなりの確率で出会う。
そうした子どもたちにとって、イニエスタは最高の教材だ。CS放送やライブストリーニングサービスの充実によって、日本にいながらにしてヨーロッパのサッカーを、ライブで観ることはできる。世界の最先端のサッカーは身近になっているものの、実際にスタジアムで観るのはまた違う興奮や感動を呼び覚ますものだ。目の前のピッチでプレーするイニエスタを観ることで、子どもたちの夢はより大きく膨らんでいくと思うのだ。
刺激を受けるのは、子どもたちだけではない。Jリーガーも同じだろう。
同じピッチに立つことで分かる“気づき”がある。10代後半の伸び盛りの選手だけでなく、ベテランと呼ばれるよう年齢の選手にとっても、イニエスタとのマッチアップは得るものが多い。実際に身体をぶつけ合う機会が限られたものでも、ピッチで感じることは確実にある。
ましてや、イニエスタがチームメイトになったら! 日々のトレーニングから、濃密な時間──夢のような時間と言ってもいいだろう──を過ごすことができる。
イニエスタが加入したクラブは、ホームゲームの観客動員の大幅アップが想定できるだろう。グッズも売れるに違いない。クラブの露出度は高まり、経済効果は相当なものになるだろう。初期投資は少なくないとしても、十部に回収は見込めるはずだ。
獲得に名乗り出る価値は、間違いなくある。
アンドレス・イニエスタが、今シーズン限りでバルセロナを退団することになった。「バルサとは対戦したくない」と話す彼は、新天地の選択肢にヨーロッパのクラブを入れていないと報道されている。早速と言うべきか、中国のクラブが獲得に興味を示しているとの噂もある。
Jリーグのクラブも、名乗り出てくれないものだろうか。
たとえば、西野監督のもとで善戦を繰り広げ、グループリーグ突破にあと一歩まで迫ったとしよう。コロンビア、セネガル、ポーランドとの力関係は劣勢にある。誰が監督でも、どんなメンバーでも、ベスト16へ勝ち上がるのは難しい。
彼我の力関係を考えれば、「16強まであと一歩」でも健闘したと言える状況だ。ところが、そもそも日本代表への関心が低かっただけでなく、更迭問題で一般的な関心はさらに冷めている。おそらくは「負けた」という事実がことさらに強調され、「ああ、やっぱり」といった空気が蔓延していくだろう。
その先に待っているのは、Jリーグの冷え込みだ。「W杯で活躍した選手を観に行こう」といった観戦動機が、観客動員につながるとの期待は抱きにくい。
だからイニエスタを獲れ、というわけではない。この33歳がロシアW杯での好成績を手に来日したら、もちろん大変な盛り上がりになるだろう。Jリーグを活性化する大きな一手となるが、むしろ期待したいのは子どもたちへの影響であり、日本人Jリーガーへの刺激財としての効果だ。
Jリーグのユニフォームを着ている子どもたちを見かける機会が、93年の開幕当初に比べると減っていると感じる。その一方で、ヨーロッパのビッグクラブのレプリカユニフォームはすっかりポピュラーになった。ショッピングモールなどへ行くと、バルサ、バイエルン、チェルシーなどのユニフォームを着た子どもたちに、それなりの確率で出会う。
そうした子どもたちにとって、イニエスタは最高の教材だ。CS放送やライブストリーニングサービスの充実によって、日本にいながらにしてヨーロッパのサッカーを、ライブで観ることはできる。世界の最先端のサッカーは身近になっているものの、実際にスタジアムで観るのはまた違う興奮や感動を呼び覚ますものだ。目の前のピッチでプレーするイニエスタを観ることで、子どもたちの夢はより大きく膨らんでいくと思うのだ。
刺激を受けるのは、子どもたちだけではない。Jリーガーも同じだろう。
同じピッチに立つことで分かる“気づき”がある。10代後半の伸び盛りの選手だけでなく、ベテランと呼ばれるよう年齢の選手にとっても、イニエスタとのマッチアップは得るものが多い。実際に身体をぶつけ合う機会が限られたものでも、ピッチで感じることは確実にある。
ましてや、イニエスタがチームメイトになったら! 日々のトレーニングから、濃密な時間──夢のような時間と言ってもいいだろう──を過ごすことができる。
イニエスタが加入したクラブは、ホームゲームの観客動員の大幅アップが想定できるだろう。グッズも売れるに違いない。クラブの露出度は高まり、経済効果は相当なものになるだろう。初期投資は少なくないとしても、十部に回収は見込めるはずだ。
獲得に名乗り出る価値は、間違いなくある。
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している