靴磨きを習慣にすると自己管理能力が最速で身につきます(写真:bee / PIXTA)

経営者や一流の人物が足元を気遣う理由はなぜなのでしょうか。『自分が変わる 靴磨きの習慣』を著し、8万足を磨いた世界一の靴磨き職人である長谷川裕也氏が、靴磨きの効用をお伝えします。

私は現在、東京・南青山で「Brift H」(ブリフトアッシュ)という靴磨き店を経営しています。その前は、丸の内や品川で「路上靴磨き」をしていました。

今から10年以上前の路上靴磨き時代――。

道行く多くの人が、どんよりと重苦しい雰囲気で歩いていました。しかし、私が靴を磨かせてもらった人たちは、その直後、皆、背筋をシャキッと伸ばして、自信に満ちた様子でスタスタと歩いて行きます。

その変化を目の当たりにしていた私は、「靴さえ磨けば、皆もっと元気になるはず!」「靴をきれいにするだけで、自信もモチベーションもアップするはず!」。本気でそう思わずにはいられませんでした。現在、お店に通ってくれるお客様の多くは、靴磨きをきっかけに「仕事がうまく回り始めた」「人間関係が円滑になった」「毎日を意欲的に過ごせている!」と嬉しそうに話してくれます。

では、なぜ「靴磨き」がこんなにも自分を変えてくれるのか――。それは靴磨きこそ、自己管理能力(セルフマネジメント)を最速でアップさせてくれる行為だからです。ここでは、そんな靴磨きの効用をいくつか紹介していきます。

靴ほど他人に見られているアイテムはない

まず「靴」ほど、自分が思っているより他人に見られているアイテムはありません。「おしゃれは足元から」なんてよくいわれますが、まさにそのとおりです。「足元」つまり「靴」とは、他人や世間の目を集めるポイントといえます。

「高価な有名ブランドの靴や、デザイン性の高い靴を履けばいい」というわけではありません。いくら有名ブランドの高級靴を履いていたとしても、もしその靴が薄汚れていたり、踵(かかと)が磨り減っていたりしたらどうでしょう。「せっかくいい靴なのに、手入れを怠っているのだな……」。そんな残念な印象を、周りに与えてしまうはずです。

反対に、高級な靴ではなかったとしても……。まるで鏡のように、靴の表面がピカピカと光っていたらどうでしょう。しっかり手入れがなされていて、落ち着きのある光沢があったらどうでしょう。靴底が磨り減っておらず、丁寧に履きこなしていたらどうでしょう。少なくとも「だらしない人」と思われることはないはずです。「仕事ぶりも丁寧に違いない」。

きっとこんなふうに、信頼されやすくなると思います。もちろん、清潔感や誠実な印象もアップするでしょう。私がもっとも伝えたいのは、そんな人生のエッセンスです。「必ず高い靴を履きなさい」という話ではありません。「靴に、少しでいいから手間をかけてみよう」「足元に気を遣って、靴を大切に扱おう」。そんな提案をしていきたいのです。

きれいな靴を履いている人を見ると、気持ちがいいと感じるものですが、それと同様に、自分の靴がきれいだと自信も湧いてきますし、ちょっぴり幸せな気分になるはずです。不思議ですが、靴がきれいなだけで昨日の嫌な出来事が吹き飛んだり、たとえ気がかりな案件があっても「前向きに立ち向かおう」、そんなポジティブな気持ちになれるものです。とにかく忙しい人でも、自分のきれいな靴が視界に入ったとき、まさか落ち込むことはまずないはず。

どんな精神状態の人も、きれいな靴でいることで損をすることはないのです。それだけ、きれいな靴にはパワーがあるということでしょう。靴はどれだけ気をつけて行動をしても、チリやホコリをかぶることは避けられません。だからこそ、靴磨きやメンテナンスをすることが大事なのです。そういう意味では、靴磨きも入浴も掃除も洗濯も根底のところは同じです。

いずれも最初は「ちょっと面倒」と感じることがあるかもしれません。でも、それらを終えたあとには必ず爽快感が訪れます。「わざわざやらなきゃよかった」と後悔する人なんて、いないはずです。

靴がきれいな人に、スーツがヨレヨレの人はいない

靴がきれいになると、足が靴になじむのが心地よくて靴下も薄くていいものを選びはじめます。するとパンツの丈やシルエットが気になりはじめます。最終的にはスーツ選びがうまくなり、ワイシャツも常にシワのないピシッとしたものを身につけたくなります。小物だってそれらに合うように、雰囲気のいいものを選ぶようになるでしょう。一方、靴と類似のアイテムと見られがちな腕時計と靴を比べてみます。

仕事のアイテムを選ぶとき、「腕時計」を重視する人は多いものです。腕時計は、万人にとってわかりやすいアイテムです。ブランドの価値も広く知られていますし、個性も出しやすいので、いちばんお金をかけたくなる気持ちはわかります。 

一つ気をつけていただきたいのは、腕時計はたとえ高級で良質なものを着けても、それだけでは全身が洗練されたものにはなりにくいという特徴があることです。それは、腕時計が全体の印象を決める靴やスーツやシャツと直結しないという理由からです。

結果、高級な腕時計にヨレヨレのシャツやスーツというスタイルのビジネスマンも見受けられます。いわゆる「ちぐはぐなファッション」の人です。高級腕時計を着けている人に、スーツがヨレヨレの人はいます。けれども、靴がきれいな人に、スーツがヨレヨレの人はいないのです。

靴磨きを始め靴がきれいになると、部屋やデスクや鞄の中など、身の回りも同じようにきれいになっていきます。そもそも、靴をきれいに磨こうとしたとき、靴磨きをする周囲の空間も、きれいでなければなりません。ここでいう「きれい」の条件を挙げると、具体的に次の三つです。「余計なものがない」「整理整頓されている」「風通しがいい」。

つまり、がらんとしているくらいのほうが、むしろいいのです。玄関で靴磨きをされる方は、余計な荷物などを置いていないはずです。ベランダやリビングなどで磨かれる場合も同じだと思います。ある程度のスペースがないと磨くことはできないので、自然と片づき整頓されていくはずです。先に挙げた三つの条件は、どんな場所にも当てはまるはずです。靴をきれいにして、靴磨きをする場が整理整頓できた人は、自分自身の生活環境もガラリと変わります。

「デスク周りが雑然としているのが我慢ならなくなって常に整頓するようになった」

「必要なものが整理されて、収納がきれいになった」

「靴だけでなく、鞄や財布などのビジネスアイテムをきれいにする習慣がついた」

こうした「いい変化」のお話はよく聞きます。靴がきれいになれば、すべてがきれいになる。整理整頓が波及していく感覚は本当に気持ちがいいものです。

「幸せな靴」にチェンジさせよう!

「自分に合う靴、椅子、ベッドを見つけることができれば、その人の人生は幸せである」

ヨーロッパにはこのようなことわざがあるそうです。人間は立っているか、座っているか、寝ているか。主にこの三つの姿勢でいるもの。それぞれのシーンで自分をぴったり支えてくれる「最適なもの」を手に入れることができれば、確かに「幸せ」に違いありません。仕事で結果を出している方は、無意識のうちに、このことわざの教えを守っていることが多いです。


睡眠時のベッドや寝具にこだわっている人は多いですし、職場や自宅の椅子にこだわる人も珍しくありません。靴もまた、同じです。自分に合った靴を大切にきれいに履き続けることで、それが「幸せ」につながります。「不幸な靴」には、さまざまな形があります。

・汚れているままの靴
・ところどころはげた靴
・キズだらけの靴
・かかとがすり減っている靴
・爪先が反り返っている靴
・サイズが大きすぎる靴
・サイズが小さすぎる靴

けれども、「幸せな靴」には、一つの形しかありません。遠くから見ても、ジャストフィットして光沢をまとっている靴です。まずは、皆さんの靴も「幸せな靴」にチェンジさせましょう。それが自分と周囲に好影響を与え、さまざまなプラスの効果をもたらしてくれるのです。