増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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・バカッター行為からインスタへ
アルバイトが顧客情報を勝手にツイッターなどSNSでばらまく、バカッター行為が吹き荒れたのが数年前。さらされた顧客の迷惑もはなはだしいだけでなく、さらしたお店やアルバイト自身が特定され、自宅や学校、家族の会社などまでが公開されたりしました。店が閉店・廃業に追いやられた例もあることから、「バイトテロ」などとも呼ばれました。

お客さんと直接接することが多い小売りやサービス業界も対策を取らざるを得ない状況になり、さすがにインターネットというものが自分たちの身の回りだけではなく、世界とつながっているのだということが理解できたのか、ここ数年は同時多発的な事件は鎮静化していました。しかし鎮静化はあくまで表面的なことであり、私は店舗などの運営があって、SNS・インターネットという武器がある限り、バカッターリスクは消えず、ずっとリスク管理をしていくべきという提言を続けています。

のど元過ぎて熱さを忘れ、ツイッター自体の伸び悩みに比べ、最も勢いのあるSNSの一つがインスタグラムです。このところ立て続けに有名人のプライバシーがマスコミで「店の話」などとして流布されていますが、アルバイトによるバイトテロではなく、取材され答えてしまったようで、結果として商品やサービスを提供する側から顧客の利用情報が漏らされています。バカッター事件を忘れ、また同じ過ちが繰り返される恐れが増えているのではと思います。

・取材協力という情報タレ流し
高貴な方のご成婚ニュースでは買った本の名前などが報道され、その本が増刷されたりしたとの報道もあります。若いプロ棋士が出前で何を注文したかを流していた番組もあります。芸能人が訪れ、食事中の会話を「店の話」として報道した週刊誌もありました。すべて完全な個人情報であり、きわめて深刻なプライバシーを勝手に暴露しています。

「店の声」がどこまで信憑性のあるものなのかわかりませんが、少なくともまっとうなリスク管理の感覚があるのであれば、そういったマスコミ取材に対してはきわめて危機感をもって臨まなければなりません。法律論ではなく、商業道徳です。お客さんがある意味素の姿をさらす買い物や食事場面での私生活を、勝手に売り渡すような行為が許される訳がありません。

来店客や利用客のことをマスコミにバラすのは、公衆浴場のスタッフが裸になった客の様子を勝手にマスコミにばらすのと同じことです。リスク管理の視点でいえば、アルバイトだろうが平社員だろうが経営者だろうが、お客さんが何を買ったのかというきわめてセンシティブなプライバシーが、「店から伝わった」という事態だけは全力で阻止しなければなりません。

・インスタの劣化が始まる?
百歩譲って勝手に店にいたお客から取材していたとしても、そんな取材は止めるなどリスク管理をする必要があります。中身が不倫やスキャンダルであれ、慶事であれ、人間が素の姿をさらす場面、病院、ホテル、レストラン、買い物などの情報はすべて提供者が厳格に守らなければならない顧客情報です。これを勝手に開示するのは商売人としての道徳も倫理もない行為と言わざるを得ません。

SNSという発表手段を得た誰もが、こうした情報漏出の可能性を持っている訳で、インスタは今、オシャレ画像共有だけであっても、ここから顧客情報が漏れだすのはそんな遠くないでしょう。

目的意識の無さや想像力の欠如は正に情報を使うのではなく、情報に使われているだけです。バイトテロが一段落したからといって、そのリスクは全く消えていません。今すぐにでも簡単に起こすことができるネット環境が整っています。自分の頭で考えずに情報を鵜呑みにしたり、情報の意味や価値を考えないことは、自らを危険にさらすだけでなく、こうした現代の情報環境で活動する資格さえ疑われることだと、ぜひ強く意識を持っていただきたいと思います。