「英単語」はどこまで暗記すればいいのか

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■英単語はいったい何語覚えたらOK?

英単語といっても星の数ほどある。ビジネスマンにとって必修の英単語がわかれば、とても助かるのだが、何かいい手はないか?

「Oxford Advanced Learner's Dictionary」を勧めるのがジーエルアカデミア代表取締役の塚本亮さんで、「このサイトには、英英辞典に使われている3000語が掲載されていて、それらをすべて覚えれば、基本的に英語で何でも説明できるはずです」という。

また、児童英語研究所社長の船津洋さんは「大卒のミドルなら、4000語は覚えたはず。それらを使いこなせれば十分です」といい切る。

「ただし、英単語が持つ“価値”を理解することが肝心。たとえば『I run over the papers.』の『run』は、“走る”ではなくて“目を通す”ということ。『run』の持つ『サーッと動く』という単語の価値がイメージできれば、日本語訳を暗記しなくても、意味が掴めるようになります。それには、多くの英文を読み、英単語のさまざまな使い方を知る必要があります」

船津さんによれば、使えるのが4000語なら英検2級、7000語なら英検準1級のレベルだそうだ。

 

■覚えた英単語を会話で使えない理由は?

学生時代には英単語の書き取りテストが得意だったのに、「いざネイティブに英語で話しかけてみると、意味が通じない」という人がよくいる。英語の達人たちによれば、「実用英語とかけ離れた、日本式の学校英語にとらわれている」ことが要因のようだ。脳科学を長年研究してきた元帝京平成大学教授の後藤秀機さんは、「単語帳で覚えた英単語の意味は、実際の会話ではほとんど役に立たないことも多いです」という。

「学校で習った英語は、読み書きで使う文語なので、口語としては使いにくいのです。同じ単語でも、会話では違う意味で使うこともあります。たとえば、『Do You have a bathroom?』といわれたら、『あなたはトイレを持っていますか』と質問されたのではなく、『トイレはどこですか』と聞かれたのです」

船津さんは、「『I'm in on it』という台詞は訳しにくいですが、何かについているという『on』のイメージをつかめれば、『オレも一緒にやるよ』といった意訳ができるのです」と話す。

そもそも英語と日本語は本質的に違う。「単語対単語で置き換えず、『go to bed』は“寝る”といった具合に、単語の塊で覚えるのも手です」と、塚本さんは勧める。自然科学研究機構生理学研究所教授の柿木隆介さんも、「無理に和訳せず、英語のままのほうが、意味がわかるケースも多いですね」という。

■単語帳とにらめっこよりいい方法とは?

そんな悩みを解消するには、「やはり音読が一番」と柿木さんはいう。18カ国語を操った考古学者のシュリーマンも、音読で外国語を短期間のうちにマスターした。

「音読すると視覚野だけでなく、聴覚野、運動野など脳の幅広い部位が活動し、記憶が定着しやすくなります。さらに、視覚と聴覚を司る神経細胞がとりわけ多いので、英単語の意味を表す絵や図を見ながら音読すると、視覚野も同時に働いて覚えやすくなります」

後藤さんは音読を繰り返す効果について、「発音記号付き“辞書”ができるウェルニッケ野と、言葉の発声を担うブローカ野の間で、神経細胞が強く結びつき、“英語の回路”が出来上がります。そうなれば、自然と英語が口をついて出てくるようになります」という。

そして、後藤さんは英語の発音を覚えるのに、自分で考案した「新カタカナ表記」を勧めている。

「発音記号で無理に覚えようとすると、英語が嫌いになってしまいます。日本人が知っているカタカナと関連づけたほうが、発音を覚えやすいのです。そこで新カタカナ表記は、ネイティブの発音に近くなるように工夫しています」

■英単語の学習は夜するかそれとも朝か?

英語の達人たちに聞くと、「夜に覚えるのがお勧め」という。カリスマ英会話講師のニック・ウィリアムソンさんは「就寝中に脳は新しい情報を整理しています。だから寝る前に勉強した内容は、脳に定着しやすいのです」と理由を示す。

さらに、朝起きてから昨夜の復習をすると効果は絶大だそうだ。柿木さんは「『エビングハウスの忘却曲線』という実験データによれば、人間は1日経つと、記憶した内容の3割弱しか覚えていないそうです。そこで、朝にもう一度覚えれば、記憶の定着率を7割くらいに引き上げられます」と説明する。

その柿木さんが考えた英単語の覚え方をご紹介しよう。

「前の晩に英単語100語を覚え、次の朝に通勤電車の中でテストします。忘れていた単語に新しい単語を加え、100語をまたその晩に覚えます。それを繰り返し、1週間で覚えた英単語を週末におさらいすれば、ほとんどが脳に刻み込まれるはずです」

■3歳児ネイティブと会話が成り立たないわけ

大学を出たのに、語彙力の乏しいネイティブの3歳児とも話ができないという日本のビジネスマンは少なくない。それはどうしてなのか。後藤さんの解説はこうだ。

「日本人ビジネスマンのほうが、ネイティブの3歳児よりもボキャブラリーは豊富。しかし、読み書きと会話は別です。日本人の多くは、脳のウェルニッケ野に、英語の正確な発音が記憶されていません。そのため、ネイティブの3歳児の英語が聞き取れないし、英語で話そうとしても、日本式のカタカナ英語の発音になってしまい、3歳児にも伝わらないのです」

また、船津さんは「英単語の持つ価値がわかっていないと、相手が3歳児でも、英会話は成立しません」という。

「たとえば『薬を飲む』の英訳は『drink medicine』では間違いです。『take medicine』が正解。『drink』は口から主に液体を入れることを表すからです。ネイティブが多用する簡単な動詞、その正しい使い方を知るべきでしょう」

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塚本 亮
ジーエルアカデミア代表取締役。偏差値30台から独自の勉強法で同志社大学に入学。卒業後ケンブリッジで心理学を学ぶ。帰国後、心理学の知見と自身の経験を活かした英会話学校のジーエルアカデミアを設立。
 
船津 洋
児童英語研究所社長。1965年生まれ。米国カンザス州の大学で学んだ後、右脳教育の第一人者の七田眞氏に師事し、児童英語研究所に入社。著書に『子どもの「英語脳」の育て方』などがある。
 
後藤秀機
元帝京平成大学教授。1943年、東京生まれ。神経生理学者、医学博士。早稲田大学理工学部卒、東京工業大学大学院修了。著書に『先端脳科学者による1ヵ月かんたん英会話脳トレ』がある。
 
柿木隆介
自然科学研究機構生理学研究所教授。1978年、九州大学医学部卒業。ロンドン大学医学部研究員などを経て、2004年より現職。専門は神経科学。著書に『記憶力の脳科学』『どうでもいいことで悩まない技術』などがある。
 
ニック・ウィリアムソン
カリスマ英会話講師。シドニー大学で神経心理学を専攻。卒業後、東京学芸大学に研究生として来日。TVの司会も務める。著書に『中学レベルの英単語でネイティブとペラペラ話せる本』などがある。
 

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=加々美義人、熊谷武二)