泉本 行志 / 株式会社アウトブレイン

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たとえば、プロジェクトで自分なりにいろいろと考え労力を費やしてきたのに、相手が動いてくれない。チームがうまく機能しない。

そんなとき、その状況を心の中でどう表現するかが、
その後の自分の行動に大きな影響を及ぼします。

なぜなら、そのような状況下では無意識のうちに、
自分の抱えているストレスを解消しようという強い働きが起こるからです。

その働きにおいて、思考がどちらの方向に進むかは、どんな言葉で目の前の状況を表現するかで決まります。

その方向とは、

・「自分を改善する」方向

・「相手をおとしめる」方向

残念ながら、人は往々にして「相手をおとしめる」方向に自然と思考が広がりがちです。 自分が一生懸命取り組んできたのに、相手・チームが思うように動いてくれないという状況下で、自尊心を保ちたいという心が、現実を歪んだ偏った方角から捉えようと働きかけてきます。

自分がこんなにも頑張ったのに上手く進まないのは、

・そもそも相手にやる気がないからだ。
・このチームの能力が低過ぎるからだ。
・個々人のスキル・経験不足でついてこれないからだ。
・この会社のレベルが低過ぎて理解できないからだ。

こう相手をおとしめることで、自分の自尊心を保とうとする。

そんな思考の癖がついている人は、

・「自分のやり方にもよくない点があったかも」
・「別のアプローチを試してみよう」

という方向に思考がなかなか向かいません。

その結果せっかくの改善の機会をやり過ごし、その人はいつまで経っても同じ位置に留まります。向上もなく、経験知も広がりません。

その分野のエキスパートなどと称する人たちが、
自分の提案・実行しようとしたことがうまくいかず、
即座にクライアントの能力不足などと言い放って
自己正当化している場面にときどき遭遇します。
その人たちは認知的不調和(※) からのストレスに耐えられない弱い人なのかもしれません。

そういう人は、認知的不調和を解消するために安易な方向に思考が引っ張られてしまう。つまり、自分ではなく相手をおとしめる言葉を使って状況を認知することで、都合良く現在の状態を受け入れようとする。そして、意識・意思がないと、そういった思考のパターンは自然と強化されていきます。

それを避けるためも、まずは自分の思考に注意を払い、
「あっヤバイ、今、相手をおとしめる方向に思考が勝手に向かっている!」
と気づくこと。

そして、意識的に、
・自分のやり方・アプローチを変えていろいろ試してみる
・相手を変えるより、まず自分のアプローチ、捉え方を変える余地を探る

ことを心掛けましょう。

ビジネスプロフェッショナルとして、認知的不調和の作用を知っておき、自分の思考の方向に責任を持つことが必要となります。

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※ 認知的不調和とは (Wikipedia):

認知的不協和(にんちてきふきょうわ、英: cognitive dissonance)とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。矛盾する二つの認知をした場合に自分にとって不都合な方の認知を変えようとする心理を指す。
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