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iPhone 6のインパクト

アップルが発表した2017年第3四半期(4〜6月)は、iPhoneの販売がアナリストの予想を上回り、またiPadの販売台数が長い下落トレンドに終止符を打ったことから、好決算となった。主力製品の不安を払拭したことに加え、サービス部門、Mac部門も販売台数増、売上高増を揃え、全てのカテゴリーで成長を記録することができた。

アップルは決算ごとに、数字をまとめたサマリーを公開する。そのサマリーには、前述のような各ビジネス部門の売上高や販売台数に加え、地域別の売上高の推移についてもまとめられている。そのサマリーの中で唯一のマイナスが就いていたのが、大中華圏での売上高。前年同期比10%減は、ここ最近の大幅なマイナスと比べれば、マシな方、と評価した方が良いのかもしれない。

○爆発的な成長の反動が続く

アップルは2014年に発売したiPhone 6を、1つの「外れ値」的なイベントとして認識している。もちろんそうなることを狙って起こしたことではあるが、過去のiPhoneの販売と買い換えサイクルとは異なる、インパクトの大きなモデルと位置づけている。

iPhoneの好調な売上を記録した2017年第3四半期決算のカンファレンスコールでiPhoneの買い換え需要の高まりについて、「アップルがこれまで経験してきた傾向と同じ」と指摘したが、「iPhone 6を除いて」との言葉が付け加えられた。

iPhone 6はこれまで4インチだったスマートフォンを、4.7インチへと拡大させ、さらに大きな5.5インチのディスプレイを備えるiPhone 6 Plusを追加した。これにより、競合となるAndroidスマートフォンの大画面化競争に対して一定の答えを出すことができ、大画面を好むユーザーのiPhone離れを食い止めることにつながった。

iPhone 6シリーズを販売するホリデーシーズンに当たる2015年第1四半期決算では、販売台数を前年同期比46%増、売上高を57%増と、大幅な成長を記録した。

同時に、中国市場のiPhone販売の立ち上がりの時期を重ねることができ、大中華圏での売上高は2015年第1四半期に70%増、その勢いは継続し、中華圏で旧正月を含む2015年第2四半期も71%増となった。この2015年第2四半期のタイミングで、欧州を追い抜き、大中華圏はアップルにとって、米州に続く第2の市場規模へと拡大した。

その翌年、2016年の同じ時期の売上高を比較してみると、2015年がいかにすさまじい増加だったかを知ることができる。2016年第1四半期こそ、前年同期比で14%の増加を記録したが、2016年第2四半期には前年同期比26%減と、大幅な下落となった。それでも、iPhone 6投入以前の2014年第2四半期と比べて21.2%増となっている。

●新型iPhoneを待ち望む中国市場

中国市場は、新型iPhoneを待っている

急激な成長に対する反動がまだ終わっていない、そんな状況を分析できるが、では中国市場における成長要因は何かを考えれば、答えは非常にシンプルだ。

中国市場は、新型iPhoneを待っているのだ。

iPhone 7は、iPhone 6シリーズのデザインを踏襲したスマートフォンであり、「全く新しい」「最新の」という形容詞を獲得することは難しいデバイスだ。もちろん、プロセッサやカメラ、防水など、スマートフォンの機能面での成熟は進んでおり、スマートフォンとしても非常に競争力のある存在だ。しかし、特に中国市場では、その「新しさ」を感じさせることが重要なようだ。

2017年第2四半期決算発表後にインタビューに応えたティム・クックCEOは、中国市場の低迷について聞かれた際、「次のiPhoneの噂」を1つの要因としてあげたのは印象的だった。

「次のiPhone」とは、ディスプレイの形式が有機ELディスプレイへと変わり、ワイヤレス充電への対応や新しい3Dカメラの搭載、そして全く新しいデザインとして生まれ変わるとの情報が飛び交う、「iPhone 8 Edition」(もしくはiPhone 8 Proなど)のことだ。

このデバイスは2017年9月中旬に発表されるとみられているが、「次のiPhone」の噂は2015年末から流れ始めていた。つまり、2016年発売のスマートフォンが「次のiPhone」ではないとわかると、もう1年待とうという意識を芽生えさせることになった、と考えられる。

また、中国市場ではWeChatが著しい成長を遂げており、直近の月間ユーザー数は9億3800万人に上る。チャットアプリとしてのコミュニケーション機能だけでなく、オンラインショッピングやモバイル決済など、様々な生活連携サービスを取り込んでいる。つまり、「WeChatさえ動けば困らない」環境が構築されているのだ。

アップルは中国でもNFCを活用したモバイル決済Apple Payをいち早く導入したが、より幅広いデバイスで利用できるバーコードによる決済が主流となっていること中国市場に対応するため、秋に配信するiOS 11にはカメラにバーコード読み取り機能を備えた。

ハードウェアの機能が重要ではなりつつある中国市場においては、やはりデザインが刷新される「次のiPhone」が、成長を取り戻すには不可欠である一つの理由とも言える。

●アップルの中国市場への接し方

○周到な「地ならし」で「新しいiPhone」を迎える

アップルは中国市場においては特に気を使っている。

アップルは珍しく、iPhone 7のテコ入れ策として、リリースから半年たった2017年3月に、赤い(PRODUCT)RED Special Editionを投入している。しかし中国向けには、AIDS撲滅キャンペーンをうたわない、単なる「赤」モデルとして発売した。

その理由は、中国国内におけるAIDS患者の増加と、これに対する政府への批判が存在し、その批判を助長する可能性を排除するため、と考えられる。中国では特に人気が出るであろう赤いiPhoneの販売機会を損なわないためだ。

また、中国のサイバーセキュリティ法への対応にも敏感だ。アップルは同法で定められている中国のユーザー向けのデータを中国国内に保存しなければならない、という規定に沿うため、10億ドルを投じてデータセンターの建設に取り組んでいる。

同法は中国政府における検閲強化につながるとして諸外国から批判の対象になっているが、ユーザーデータやメッセージの強力な暗号化を理由に、サイバーセキュリティ法遵守への理解を得ようとしている。

直近では、中国のApp StoreからVPNアプリを削除している。これも、許可を得ていないVPNアプリが違法となったことに対応したもので、カンファレンスコールでこの件について尋ねられたティム・クックCEOは「中国による強力なインターネットアクセスへの取締りが、一時的なモノであることを願う」と苦言を呈していた。

中国市場が待ち望んでいる「次のiPhone」の波を確実なものとするため、アップルは非常に神経質に周辺の環境や条件を整えていることが分かる。2017年7月18日には、Isabel Ge Mahe氏を、新設するポストである大中華圏担当副社長に指名し、今年夏後半から上海でその任にあたることを発表し、中国市場に対する体制を強化した。

iPhone 8の発表は、2017年9月中旬、例年のスケジュールから考えると、発売は9月22日金曜日になると考えられる。発売から1週間が含まれる2017年第4四半期、全期間で販売される2018年第1四半期、そして中国の旧正月を含む2018年第2四半期の、次の3つの決算が、まずはじめのチェックポイントとなる。