高齢者が最良の治療を安価で受ける方法
■夫婦それぞれ100万円使ったら
1カ月に300万円を超える高額な抗がん剤が話題となっているなか、「高齢の親が病気になったら、どれくらい医療費がかかるのか?」と不安に思っている人もいるだろう。
実際、高齢になると、生活習慣病の治療が必要になったり、思わぬケガをして入院したりする機会も増える。厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料〜平成25年度の医療費等の状況〜」によると、75〜79歳の人1人あたり医療費は77万6593円。40〜44歳の人は13万6788円なので、約6倍となっている。
だが、このすべてを患者個人が支払っているわけではない。おもな収入が公的年金だけの高齢者は、現役世代より相対的に所得は低い。医療費が家計の過度な負担にならないように、窓口での自己負担割合も、1カ月の医療費の自己負担額に上限を設けた高額療養費も、70歳になると軽減される。まず、70歳になると、自己負担割合は3割から2割になり、75歳になると1割に引き下げられる(ただし、現役並み所得者は3割)。
70歳未満の人における高額療養費の限度額は所得に応じて5段階で、一般的な所得だと「8万100円+(医療費−26万7000円)×1%」が上限になる。1カ月の医療費が100万円なら、最終的な自己負担額は約9万円だ。
これが、70歳になると図のように引き下げられ、所得に応じて4段階に分類される。例えば、一般的な所得の人の1カ月あたりの自己負担額の上限は、通院が「1万2000円」。通院と入院の両方をした場合は「4万4400円」だ。夫婦ともに70〜74歳で同じ健康保険に加入しているなら、世帯での限度額も4万4400円だ。
70歳未満の人は、1人の人がひとつの医療機関に支払った自己負担額が月2万1000円を超えないと世帯合算できない。だが70歳以上は金額に関係なく、自己負担した医療費をすべて合算して高額療養費の計算ができる。つまり、70歳以上で一般的な所得なら、どんなに医療費がかかっても、1カ月に自己負担するお金は世帯で4万4400円。夫婦それぞれ100万円ずつ、合計200万円医療費を使ったとしても、自己負担するのは2人で4万4400円ですむということだ。
手続きも簡単で、70歳以上の人が医療機関を受診するときは、健康保険証と一緒に、自己負担割合の書かれた「健康保険高齢受給者証」を窓口で提示する。これを見ると所得区分がわかるので、入院して医療費が高額になった場合などは、特に手続きしなくても病院で高額療養費を適用してくれる。
ただし、ほかの病院にも通っていたり、ほかにも医療費を使った家族がいたりした場合は、健康保険組合に世帯合算の手続きをしないとお金を取り戻すことはできない。うっかり手続きを忘れているケースはけっこうあるので、高齢の親が医療機関を受診している場合は、子どもが医療費の領収証を確認してみるといいだろう。
このように、70歳を境に医療費の自己負担額は下がるので、高齢の親の医療費はある程度の貯蓄があればカバーできる。ところが、健康保険の保障内容を知らないために、医療費の不安から民間保険に加入する高齢者もいる。特に注意したいのが「引受基準緩和型」の医療保険だ。病気があっても加入できる半面、保険料は割高。高齢期の保険加入は、本当に必要なのかを親子で考え、慎重に判断しよう。
(フリーライター 早川 幸子)