「ジャパネットたかた」公式サイトの「企業理念」より

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「習慣が大切」。習慣化コンサルタントの筆者が駆けつけたのは「ジャパネットたかた」創業者・高田明氏の講演。小さなカメラ店を年商1800億近くにまで大きくした高田氏の「習慣力」とは。

■佐世保弁の独特の高い声で「習慣が大切です!」

佐世保弁のひときわ高い声が印象的な「ジャパネットたかた」創業者・高田明さん(68歳)。グループ連結の売上高は1783億円(2016年12月期)。テレビ通販を全国に広げ、同社を業界最大手に成長させた、まさにセールスの天才です。

2015年1月に、後継者である長男に社長の座を譲り、第一線から退きました。その高田さんが講演をするということで、一も二もなく駆けつけました。一度、お話を聞いてみたいと思っていたのです。

高田さんは、「夢を持ち続け日々精進」(主催:WizBiz)と題した講演の最中、ずっと「習慣が大切だ! 習慣化です」と何回も繰り返していました。習慣化コンサルタントとして活動している私としても大いに納得し共鳴できる部分がたくさんありました。

そこで今回は、その内容の一部をピックアップして私なりに解説を加えたいと思います。

たった一代で年商1700億 その秘訣は習慣力にあり!

高田明さんの習慣力1:「今を一生懸命に生きる」習慣】

高田さんは、おなじみのあの声で次のように話しました。

「長崎の小さなカメラ屋さんからスタートした会社は、約30年たって、年商約1800億円を売り上げるまでに成長しました。しかし、それを目標にしていたかと言われれば、そうではありません。私は常に目の前のお客さまやお店の経営を必死にやり、テレビショッピング事業を始めてからは1つの製品をお客さまにどうやって提案すればいいかを必死に考えていました。そうやって“今”を生きてきた結果として、現在の会社や私の実績があるのです」

「今を生きる楽しさ」を! 

CMで流れているこのコピーは同社の経営理念でもあります。お客さまの今を楽しくしたいという思いが込められているそうです。講演で始終強調されていたことは、先を考えすぎず「今を一生懸命に生きましょう」ということでした。

過去にとらわれず、今を生き、未来に翻弄されない。

高田さんの自著『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)でも、「過去に起こったことはどんなに頑張っても変えられません。変えられるのは未来だけです。そして、変えることができる未来を作れるのは、今しかないんです」と熱く語っています。

■「今この瞬間」に一心不乱になる生き方

「今を生きる」という言葉は、人生の智慧の結晶であると私は感じています。その言葉の意味を表面的な字面だけで受け取っても本当の意味をつかむことはできません。私は座禅を組みにお寺へ定期的に行きますが、座禅とはそもそも今を生きる心の状態なのだと知りました。

座禅を組むときは1回1回の吸って吐く呼吸に集中し、お経を読むときは目の前の文字と発声に集中します。座禅後にお聞きする住職のお話も、「一日一生」つまり今を一生懸命に生きる、目の前のこと1つに集中する心の状態をつくることの大切さであることが多いです。

家族とご飯を食べるとき、子どもと遊ぶとき、仕事をするとき……どの瞬間も「今この瞬間ゾーン」に入って一心不乱になる生き方が豊かさを高めてくれます。まったく同じことが仕事のしかたに関しても言えます。同時進行的に2つ、3つの仕事をしていると注意散漫になってしまいますが、「今は◯◯の時間」と決めて、それに注力するほうが成果は高まります。そうした時間配分を、私は顧客である多くのビジネスパーソンや経営者にアドバイスしてきました。

講演で、高田さんのような企業経営者が私と同じ考えを共有していることを知り、「今ここに集中する」ことの重要性を再確認できました。「今を生きる」は、まさしく人生と仕事の智慧なのです。

「1つの根本的な問題にフォーカスして考えること」

高田明さんの習慣力2:「シンプルに考える」習慣】

長崎の小さなカメラ店から身を興し、テレビショッピングの草分けとして絶対的な地位を築いた「ジャパネットたかた」ですが、その過程は苦難・難題の連続だったと高田さんは語ります。

当初は、在京のキーテレビ局はおろか地方局に打診しても、簡単にテレビショッピングを放映する枠はもらえない。まして全国放送など夢のまた夢。今では当然のことでも、前例のない時代はさまざま障壁を乗り越えなければならなかったと高田さんは、こう言います。

「経営の問題はシンプルに考えることが大事です。20の問題があるように見えても、それは表層的に捉えた場合であって、実はその深層にある1つの問題を解けばそれで後は全て解決することも多い。残り19の問題を解決する労力をたった1つの根本的な問題にフォーカスして考えること。その1つを見抜くにはシンプルに考えることだ」

実はこのことは習慣化のメソッドでも同じことが言えます。

■高田氏は努力を続けたから「クォンタム・ジャンプ」できた

「資格の勉強を続けたい」「早起きをしたい」「朝からジョギングをしたい」「日記をつけたい」……多くの人が習慣化したいけれどなかなか習慣化できない悩みを抱えています。同時に複数の習慣を定着させたいという、ちょっと欲張りなご相談を受けることも珍しくありません。

新しい習慣を同時に始めることはできないことではありません。ただ、同時にいくつもの習慣化をすると、1日の時間割は「習慣」項目でたちまち埋まってしまいます。かえって窮屈な気分になり、豊かさは低下します。最終的に睡眠時間を削るといった事態に陥りがちです。

部分最適が全体最適になるとは限りません。

そこで、私がクライアントさんに繰り返しお聞きするのです。「なぜ◯◯を習慣化させたいのですか?」。自分の心の奥底を掘り下げ、欲求の発信源を探ってもらうのです。すると、その根底には、「ダメな自分を変えたい」といった気持ちが横たわっていることがあります。その巨大な欲求が、禁煙や禁酒や早起きやダイエット……という個別の案件となって噴き出していたのです。そうやって、心の奥の感情や欲求とは何かという1つの問題を解くことで、他の問題(課題)が整理できたり解決できたりするのです。

シンプルに考えて問題を見抜くと、少ない労力で最大の効果を出すことができます。

最初は1年1段、でも努力を続けると10年目で20段上がる

高田明さんの習慣力3:「努力を積み重ねる」習慣】

講演が終盤に差しかかりテンションを上げた高田さんは、テレビでおなじみだった情熱あふれるあの高い声をさらに高くして言います。

「みなさん、1年に1歩の努力を地道に積み重ねる。これが大事なんです。でも1年に1段、5年で5段の階段を上ったとする。多くの人はあと5段上るには5年かかると思いがちですが、実は違うんです。努力を続ける人は、7年目で10段、10年目で20段とどんどん成果の曲線が高まっていく。だから努力を続けることが大切です」

そう強調していました。

いわゆる「クォンタム・ジャンプ」が起きるのが努力の法則だと言うのです。このクォンタム・ジャンプとは、物質のもとである量子(quantum)がある一定のエネルギーを蓄えると、ポンと次元を飛び越えて別の物質に変わっていく現象を指します。

つまり、一定の努力が蓄積すると、別次元の成果が出るという意味です。

高田さんがカメラ店を引き継いで数十年、常に「今を一生懸命生きる」ことを念頭に置き、直面する困難や課題を「シンプルに考える」ように努め続けました。その継続がクォンタム・ジャンプを生み出したのです。

■成果が急上昇するまで、じっと辛抱して努力する習慣

高田さんの話を聞いて、あるエピソードを思い出しました。それは、ある著名なテレビ番組の放送作家の講演(「がっかりタイムを乗り越える」というテーマでした)で聞いた話です。

その放送作家さんは、ソフトバンクグループの孫正義社長の弟であり「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」取締役の孫泰蔵さんから、ある“教訓”を得たそうです。

孫さんの話のエッセンスはこうです。

人が何かに投入した努力に対して期待するのは、「右肩上がりで成果が出る」こと。でも、実際の努力が結果(成果)につながるまでは時間がかかり、思い描いていたより低い2次曲線的カーブを描く(表参照)。本人は、がっかりする。ところが、それを我慢して一定の努力を続けると突然、大きな成果が出始める。急激な右肩上がりのカーブが描かれるのです。つまり、「がっかりタイム」で諦めず、それを乗り越えることが重要だという話です。

習慣化に関してもやはり同じことが言えます。

続けること=習慣化することの最大の魅力は、辛抱強く努力を積み重ねるとあるとき「急カーブで成果が出始める」のです。英語の勉強でも、経営でも、同じ法則が当てはまります。

「あと50年生きる!」68歳の高田氏が描く夢の形

高田明さんの習慣力4:「大きな夢を描く」習慣】

高田さんは現在68歳ですが、講演会場で見るその姿は、圧倒的に若々しいです。しかも、講演中に「あと50年は生きます」と大真面目に語っていました。 118歳まで生きれば、ギネス記録になるそうです。50年あればいろいろ挑戦できる。だから、サッカーチーム(V・ファーレン長崎)を立て直すために社長に就任した、と。人生、挑戦し続けたかったからこそだと言います。

高田さんは見た目の若さもさることながら、内面からあふれでる情熱、パワーがすさまじいのです。その秘訣は、先の夢を描くに尽きるのではないかと思います。

テレビショッピングという「道なき道を切り開く」という過程でビジョンを描くことを繰り返してきたのだと思います。

68歳で「あと50年生きます」という夢を人前で堂々と語る人はそうそういません。しかし、あっけあらかんと言ってのける。夢を描ける思考習慣があるからこそ、情熱にあふれ、行動的な68歳でいられるのでしょう。

■松下幸之助も80歳のときに「120歳まで生きる」と

「先を見ることで希望を持つ」習慣は、優れた成果を出す人に共通しています。

たとえば、大リーガーのイチローは50歳まで現役を続ける! と公言しています。現在43歳のイチローは出場機会こそ減っていますが、進化を続けています。少なくとも日々の努力を怠っていません。

高田さん同じ社長経験者で言えば、松下幸之助さんも80歳を超えたときに「120歳まで生きる」と講演でお話されていたのを記憶しています。もともと体が弱かった松下さんが、94歳まで生きられたのもそうした先に希望を見る思考習慣があったからではないでしょうか。

一見、常識ではありえないと思える夢を持ち、今を最高に生きる姿勢は、私たちも見習いたいものです。

以上、高田さんの講演で私の心に響いたことの一部をご紹介しましたが、高田さんの人柄や仕事に対する思いをもっと知りたいという方には、前出の著書『伝えることから始めよう』をおすすめします。

(習慣化コンサルタント 古川 武士)