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●転機になったiPod

2017年6月29日、米国での初代iPhone発売から10年がたった。アップルはiPhoneをきっかけに、大きく成長を遂げ、現在もその成長が形を変えて続いている。iPhone以前のアップルと、iPhoneによって変化したそのビジネスについて、振り返っていこう。

○iPodは転機だった

iPhone以前のアップルの主力は、現在も続いている「Windows PCではない」コンピュータ、Macだった。マウスで操作するパーソナルコンピュータ、Macintoshを初めてリリースしたが、その後の低迷で共同創業者のスティーブ·ジョブズ氏は会社を追われることになる。

ジョブズ氏がアップルに返り咲いて取り組んだディスプレイ一体型でデザイン性に優れたiMacは、アップルをコンピュータメーカーとして蘇らせるきっかけとなった。しかしiPhoneにつながる本当の転機は、iPodの登場だ。

iPodは、ハードディスクを搭載したデジタルミュージックプレイヤーで、Macユーザーだけでなく、Windowsユーザーにもその門戸を開き、コンピュータのOSというプラットホームにとらわれないビジネスに取り組むことの手応えをつかんだ。

当時のコンピュータはプラットホーム競争となっており、iMacは人気を博したが、Windows+Intel、いわゆるウインテル連合の前に、アップルを含めた他のソフト·ハードのプラットホームを採用するコンピュータは、大きな成果を上げられずにいた。

iPodは、そうした勝負が決まってしまった領域の外でカテゴリーを組み立てたことで、成功した貴重なモデルとなった。これが、iPhoneへとつながっている。

iPhone 10周年に寄せて、米国でも様々なメディアの記事やイベントで、当時の様子を振り返るエピソードが語られている。その中でも興味深かった点は、iPhoneのソフトウェア開発を支えてきたスコット·フォーストール氏の証言だ。

もともとiPhoneよりも先にiPadの開発計画が進んでいたことは、ジョブズ氏の伝記本でも明らかにされてきたことだ。しかしiPad開発のきっかけは、フォーストール氏によると、ジョブズ氏に対して当時のマイクロソフト幹部が、スタイラスを用いたタブレットについて雄弁に語ったが、これが気にくわなかったからだ、という。

このエピソードから透けて見えるのは、マイクロソフトが支配するPC市場に、(ジョブズ氏から見れば)間違ったタブレットがスタンダードになってしまうことを嫌ったのではないか。またマイクロソフトが支配するコンピュータ市場をどのように打破するかを考えたとき、タブレットよりもスマートフォンをいち早く手がけるべきだ。そんな考えだったのではないだろうか。

iPhoneが築いたもの

iPhoneを成立させる3つのキーワード

2007年1月にサンフランシスコでiPhoneを発表した当時、共同創業者でCEOだったスティーブ·ジョブズ氏は、「2年間、このときを心待ちにしていた」と、これから企業そのものを大きく変化させる製品に費やしてきた時間を振り返っていた。そして、「電話を再発明する」という言葉とともに、iPhoneを発表した。

ジョブズ氏はiPhone発表のプレゼンテーションは、非常にロジカルなものだった。それは、ソフトウェアとハードウェアが密接に連携するアップル製品ならではの手法の強みを強調することに他ならない。

ジョブズ氏は、「革新的なデバイスには、革新的なユーザーインターフェイスが必要だ」と説いた。Macintoshには画面内を操作できるマウス、iPodには選曲や音楽コントロールを指先だけで行えるクリックホイール、そしてiPhoneにはマルチタッチディスプレイが、それぞれ備わると説明する。

加えて、ソフトウェアについては、アラン·ケイ氏の言葉を引用し、「ソフトウェアにこだわるなら、そのためのハードウェアを作るべきだ」と指摘した。こちらも、現在に至るまで、アップルが実直に取り組んでおり、iPhoneの機能や速度を高めるため、A10 Fusionなどの半導体まで設計するようになった。

そしてもう1つのキーワードは、「デスクトップクラス」だ。iPhoneを紹介する際、スマートフォンのソフトウェアは本物ではなく、当時のインターネット接続も本当の体験やアプリではない、と説明した。パソコンと同じレベルのことを、スマートフォンで実現する、そんなアップルの取り組み方が、当時の日本を含む世界のモバイル市場の中で、異質なものだった。

iPhoneによる成長も、ハードとソフトで

アップルは2007年に米国でiPhoneを発売し、最初の四半期となる2007年は27万台を販売した。第3四半期翌年2008年には、日本を含む先進国で、第3世代通信をサポートするiPhone 3Gの販売をスタートし、2008年第4四半期は680万台へとその販売台数を大きく伸ばした。

2010年の第4四半期に1410万台を販売し、四半期で1000万代の大台を突破すると、その後、画面サイズを4インチに拡大したiPhone 5、さらに拡大し4.7インチと5.5インチとしたiPhone 6と、画面拡大ごとに販売台数を倍増させ、2017年第1四半期は7829万台のiPhoneを販売した。

iPhone 6発売以降、アップルの売上に占めるiPhoneの割合は65%〜70%へと急拡大しており、平均販売価格も高まっていることから、アップルの収益がiPhoneによって急拡大し、その後、堅調に成長するサイクルに入ったことがわかる。

また、iPhoneユーザー向けのApp StoreやApple Musicといったサービス部門の成長は特にここ数年著しく、四半期に70億ドル以上と、すでにMacやiPadの売上を追い越す、アップル第2のビジネスとなった。今後iPhoneの販売台数が頭打ちするとしても、サービス部門の成長は続いていくことになり、季節変動の少ない安定的な収益をもたらすことになる。

●アップルはどう変わったか

アップルはiPhoneの販売が最も大きな売上を作り出していることから、現在もハードウェアメーカーとしてとらえるべきかもしれない。しかしiPhone以前は、本当にハードウェア中心の企業であり、Windows陣営と比べて小さな勢力であり収益基盤が小さかった。

iPodでMacユーザー以外を顧客として取り込み、またiPhoneによって高付加価値のハードウェアだけでなく、ソフトウェア販売を収益化することに成功しており、ハード·ソフトの双方での収益化が際立つ存在となった。

iPhone発表のプレゼンテーションに戻ると、「ソフトウェアにこだわるなら、ハードウェアを作るべきだ」という引用が、再び大きな意味合いを持つ。

アップルはハードウェア企業としての色合いが強かったが、iPhoneを通じて、ソフトウェア企業としてハードウェアを作る、という姿勢に転換したのではないだろうか。それが、今日の成功を作り出しているのだ。

だからこそ、アップルの新しいソフトウェアを発表するイベントWWDCは重要であり、将来のハードウェアやビジネスを考える上で、最新のiOS 11で何が起きるかを読み解くことが必要となる。