カルビー会長が説く今すぐ学ぶべき3分野
■偉くなりたいなら本を読みなさい
儲かっている会社と儲かっていない会社の違いとは何か。それは儲けることにこだわっているかどうかです。会社の経営はもともと難しいものではありません。問題点を見つけるときも、複雑に考える必要はありません。儲けるという目的意識で見ると、答えが出てきます。たったこれだけのことで180度結果が違うのです。
そのために必要なことは、学び、学んだことを考えること。そして、何事も目的意識を持ってやることです。目的なしに学んでも意味はありません。
私は大学時代、オペレーションズリサーチを学びました。もともとアメリカで生まれ、どうしたら戦争に勝てるのか、つまり、どうすれば目標を達成できるのかを研究する学問です。戦争の目標は勝つこと。ビジネスも最初に目標を決めて勝つことが大事なのです。
その意味で、会社で一番面白い仕事ができるのはトップです。とくに大企業は、偉くならないと本当に面白い仕事はできません。
トップになる条件は、ジェネラリストであることです。ジェネラリストはエキスパートではないので、何でも詳しいというわけではありません。しかし、基本的にわからないことがあってはいけません。そのためには自分で学ぶしかないのです。
私がマネジメントを本格的に学び始めたのは1986年、39歳で子会社に出向したときのことです。潰れそうな会社の立て直しを任されました。そのために自分でやれることは何でもやりました。45歳までの6年間は非常に勉強になりました。
そのとき、実際の仕事で学ぶと同時に、多くのことを本から学びました。とにかく面白そうな本を買ってきて、手当たり次第に読んでみるのです。面白くなければ、捨てればいいのです。ただ、私の場合は面白くても読み終わったら本は捨ててしまいます。捨てるからこそ、真剣に読むのです。
私の本の読み方にはルールがあります。まず30ページ読んでみる。そこで面白いかを判断します。面白くなければゴミ箱行きです。よく読むのは、経営に役立つような本です。新聞も雑誌もいいとこ取りです。目を通せるものは、すべて目を通します。とくに本や雑誌はそれほど高いものではないので、どんどん買えばいい。経験が増していくと、パッと見て「これ、面白い」とすぐにわかるようになります。
もう一つ大事なことは、人との出会いです。いい人と会って、いい話を聞くことで学ぶことも多くあります。そのために積極的にアプローチすることもありますし、講演会に行くこともあります。思い返すと、自分の上司からも様々なことを教わりました。商社時代の上司からは、怒られながらたくさんのことを学びました。厳しい上司の言葉ほど強く記憶に残っています。
■今すぐ学ぶべき3分野
では、何を勉強すればいいのか。私が必ず必要だと思うのは、リーガル、英語、会計(アカウンティング)の3つです。この3つだけは外せません。これらの基本的なことがわからなければ、これからのビジネスにおいて経営者は生き残ってはいけません。
むろん法律のすべてを勉強しろというわけではありません。しかし、コンプライアンスについての知識や、製品の欠陥などリコールの問題が起きたときなど、経営者が知っておくべきことがたくさんあります。また、法律を勉強する際には、どういう意図でつくられたものか、いわば、“法律の心”を知らないと会社の経営はできません。
英語は、一気に上手にならないものですが、ツールですから、なくてはならないものです。下手は下手なりにでも使えればいいわけですから、不自由しないレベルで身につければいいでしょう。
会計は最低限、財務諸表が読めるレベルは必要です。私は農学部出身でしたから、新卒で伊藤忠商事に入社したとき、貸方、借方、バランスシートや、損益計算書などが全然わからず、徹底的に勉強しました。最初にある程度のところまでしっかり勉強したら、一生使えます。
これはマーケティングについても同様で、まず基本を押さえることが重要です。私はコトラーの本を1冊読んだことがあるだけです。1回読んでも当然わかりませんでした。しかし、5回も読めばほぼ理解できます。MBAに行く必要もありません。ビジネススクールではケーススタディを勉強しますが、基本的なことがわかっていなければ、結局身につかない。やはり基本は大事なのです。
だからこそ、経営者になろうと思ったら、一番基本的なことがわかっていなければならないのです。経営者になることそのものは、それほど難しいことではありません。しかし、成功するのはやさしくない。成功を継続させるのはもっと難しい。ただ、経営は必ずしも難しいことをやっているわけではない。基本ができていれば、どんなことでも対応できるのです。
当社では、相談役の松尾雅彦さんが名誉塾長、私が塾長の「松塾」という勉強会を定期的に開催していますが、若手社員には、よくこういう話をしています。「会社という組織を成長させようと思えば、投資をしなければ絶対によくならない。個人もよくなろうと思ったら、投資しないといけない。その投資とは何か。それは学ぶことだ」と。人生で一番大事なことは学ぶことじゃないでしょうか。
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1947年、京都市生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。72年4月伊藤忠商事入社。医療機器販売の子会社を経て、93年ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。同社の社長、最高顧問を歴任。2008年カルビー社外取締役に就任後、09年6月より現職。
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(カルビー 代表取締役会長兼CEO 松本 晃 構成=國貞文隆 撮影=的野弘路)