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耳のいいギタリストなら一度は感じたことがある「このギター、チューニングが決まらねぇな」という問題の原因は、多くの場合がギターが十二平均律でチューニングされていることに起因しています。特に3度(長3度)の和音を弾いた時に顕著に感じられる平均律の弊害ですが、追加のフレットを貼り付けたり、可動式のフレットを搭載するギター「Microtonal Guitar (微分音ギター)」はそんな問題を解消することが可能です。

The Major 3rd Problem of All Guitars in the World - YouTube

ムービーに登場するのは、微分音ギターによる創作活動を行っているトルガン・チョウル(Tolgahan Çoğulu)さん。トルコ出身のギタリストで、このムービーでは平均律をもとに作られたギターに工夫を施してフレットによる音痴を解消する方法を紹介しています。

チョウルさんはまず、「ギターを弾いていて、6弦4フレットのハーモニクス音と3弦1フレットの実音がなぜ一致しないのか不思議に思ったことはありませんか?」と、通常のギターで必ず起こる問題を紹介。



そして6弦4フレットのハーモニクス音と3弦1フレットの実音を鳴らしてみると、これが見事に音痴な状態であることがわかります。ともに出ている音は「G# (ソのシャープ)」のはずですが、微妙に違う音程のため同時に慣らすと気持ち悪い状態に。



これは、5弦4フレットのハーモニクスと2弦2フレットの実音「C# (ドのシャープ)」でも同じで……



4弦4フレットのハーモニクスと1弦2フレットの実音「F# (ファのシャープ)」でも同じ。



この問題は、構造的にギターが十二平均律に基づいて作られている(作るしかほかない)ということに由来しています。十二平均律はたとえば「ド」からオクターブ上の「ド」の間を12の半音で分割するというもので、古くは中国の宋の時代に、そしてインドや日本、ヨーロッパなどで生みだされていた考え方です。



しかしこの十二平均律は、実際の物理的な現象とは相いれない部分があります。世の中のほぼ全ての音には共鳴する音があり、ギターのハーモニクス音などでその音を出すことができます。



これらハーモニクス音と十二平均律の音を比較すると、実は完全に一致する音は「オクターブ違い」の音のみであり、よく「完全和音」と呼ばれる五度の音でもハーモニクス音と平均律の音程には違いが存在しています。



そのため、いくら精密にチューニングされたギターであっても、冒頭のような「6弦4フレットのハーモニクス音と3弦1フレットの実音のズレ」は生じてしまうというわけです。



このあたりの理論は、以下のページを参照するとよくわかるかも。

平均律について

このような問題を回避するために開発されている道具の一つが、「Fretlet」と呼ばれる後付けフレットです。

Fretlet



Fretletはギターの指板に貼り付けるためのフレットで、一般的なフレットのように「脚」の部分がありません。そのため、両面テープなどで自由に位置を変えてフレットを装着することが可能。



Fretletを使って、2フレットの少しヘッド側(=音が低い方)に新たなフレットを取り付けて音を鳴らしてみると……



見事、ハーモニクス音と実音がピタリと一致しました。



その状態で「A」の和音を弾いてみると、「ボロロ〜ン」とコードを鳴らした時の響きが通常とは全然違うことがわかります。手元にギターがある人はぜひ比較してみて欲しいところですが、例えるならば、いつもは水道水で淹れていた紅茶を蒸留水に変えた時に味が別次元の透明感を持つようになった感じ。そこはかとなく感じていた違和感を見事に言い当ててくれた時のようなスッキリとした変化がギターの和音に生じています。



Fretletをさらに追加して、「A」「D」「E」の和音をカンペキに鳴らせるようにすると、ギターそのものが何ランクもグレードアップしたような豊かな響きに変わりました。



このギターを使って「ハッピーバースデー」を演奏するチョウルさん。何度もこの演奏を聴いてから自分の普通のギターで弾いてみると、思わず「ええっ!?」と思うほど違いがあることに気づくはず。確かに十二平均律は便利なもので、音楽になくてはならないものですが、自然な音の仕組みからは少し乖離している部分もあるということがよくわかるムービーでした。



チョウルさんが微分音ギターを演奏しているムービーがコレ。後半で微分音ギターならではの演奏を耳にすることができます。

Microtonal Guitar (Fixed Fret) - Tolgahan Çoğulu - YouTube

通常のギターにFretletを取り付けて演奏する曲では、中東っぽいオリエンタルな雰囲気を感じることができ、何回も聞いているうちにクセになってしまいそう。



さらに、もうどこにも真っ直ぐなフレットがない微分音ギター「Yarman 24/31c」を使った演奏も。西洋音楽とは異なる雰囲気を漂わせる音程を持つ楽曲は、こちらもハマると抜け出せなくなってしまいそうな魅力を含んでいます。



チョウルさんはかなりの技巧派で、8弦の微分音ギターで激しい演奏を見せるムービーも必見。このギターは、指板に刻まれた溝の上で自由に追加のフレットを動かせるようになっています。

Microtonal Guitar - Traditional Music of Turkey with Wooden Instruments - YouTube

チョウルさんは2008年から微分音ギターに力を入れた活動を続けているとのこと。クリエーターの活動をパトロンとなってバックアップできるクラウドファンディングプラットフォームの「Patreon」でも自身のページを立ち上げています。

Tolgahan Cogulu is creating Microtonal Guitar Music and Projects | Patreon



◆おまけ

さらに、もうフレットそのものを取り去ってしまってバイオリンのようにしてしまったフレットレスギター「Vigier Excalibur」も。フレットレスギターそのものは以前からも存在していましたが、フレットがないことで音の伸び(サスティン)や音色が影響を受けていました。しかしこのギターは指板に特殊な合金を用いて従来のフレットレスギターで犠牲にされていた部分を解消したとのこと。ムービーを見ればわかりますが、ヌケの良いトーンやサスティンは従来のギターに引けをとっておらず、その上でフレットレスギターならではの表現力を身に付けて居るギターと言えそうです。

Vigier Excalibur Fretless Guitar Review With Guthrie Govan - Guitar Interactive Magazine - YouTube