クーデターから生還したトルコ大統領の危険すぎる野望の正体
7月15日に突如発生したトルコの軍事クーデター(未遂)。そこから間一髪で生き延び、権力の座を死守したエルドアン大統領は、国内で反対派の粛清を進めるとともに、世界各地にさまざまな「戦争の種」をバラまき始めている。
中東情勢に詳しい国際ジャーナリストの河合洋一郎氏は、クーデターを鎮圧した後のエルドアン大統領の“変化”が気になるという。
「首相を11年間務めた後、2014年に大統領となったエルドアンは、トルコ共和国建国以来の伝統である政教分離に反し、イスラム化政策をとり続けてきました。最近では、長年権力の座に居続けている人間にありがちなパラノイア(偏執病)的傾向が出てきたのか、『新オスマン帝国建設』の野望を抱いているといわれています。
これにはエルドアンが過去2回、助からないと診断されたガンから生還したことも影響しているでしょう。自分が生かされたのは、“オスマン帝国の栄光をトルコ人の手に取り戻す使命を神から与えられているからだ”、というわけです。今回のクーデターを乗り切ったことで、その確信はさらに強まったに違いありません」
元外務省主任分析官の佐藤優氏は、エルドアンがクーデター未遂をくぐり抜けたことの意味をこう語る。
「エルドアン政権とは、いわば“選挙によってできた王朝”です。彼の息子がIS(イスラム国)とつながって石油の密売をやっているという話に代表されるように、選挙で選ばれた以上、任期中は何をやってもいいという発想です。今回も、建国の理念を求めてクーデターを起こした人たちを徹底的に粛清している。非常にやっかいですよ」
そのエルドアンが本気で勢力拡大に乗り出すとなれば、これは単なる“中東のモメ事”では済まない世界の大問題になる。
トルコという国はアジア、ロシア、ヨーロッパ、アフリカのちょうど中間地点。地政学的に極めて重要な位置にある。そのため、トルコはEU(欧州連合)メンバーではないにもかかわらず、アメリカやヨーロッパ主要国の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の一員であり、国内の米空軍基地には核兵器が配備されているとされる。
そうした背景があることから、エルドアンは各国に対して、挑戦的な態度を見せている。
例えばアメリカには、クーデターの首謀者を米在住の宗教指導者ギュレン師であると断定し、その身柄引き渡しを強く要求している。さらにロシアに対しても、反ロシアのイスラム過激派戦士たちをクリミアやチェチェンに供給するなど、あらゆる方面に敵を作る勢いだ。
このままでは、トルコの政変が国際社会を混乱に陥れる引き金となり兼ねない。発売中の週刊プレイボーイ36号では、トルコ発・地球規模の「ネオ世界大戦」の可能性を検証。クーデターからの生還で“神”となりつつある、エルドアンの危険すぎる思想と行動を、ぜひご覧いただきたい。
(取材・文/小峯隆生 協力/世良光弘 写真/Getty Images)
■週刊プレイボーイ36号「これが『トルコ&IS』から始まるネオ世界大戦の全貌だ!!」より