枚方津田vs大教大池田
枚方津田は、一昨年の第96回大会における8強入りが記憶に新しい。その後も安定して結果を残し、今春は4回戦で4強の汎愛に敗れている。
対する大教大池田は、昨秋は3回戦で東大阪大柏原、今春は16強で上宮太子に敗れており、今夏こそは強豪私立の壁を破りたいところ。
実力のある公立高校同士の1回戦は、両エースの気持ちがぶつかり合い、1点を争う好試合となった。
枚方津田のエース篠原 宗裕(3年)は右の本格派。スライダーでタイミングを外すのが上手く、カウントも作れるし、三振も取れるため、より直球が活きてくる。
大教大池田の磯部 幹高(3年)は、落ち着いたマウンド捌きが持ち味である。球数が多く走者を出すイニングも少なくないが、決してペースを乱さずにピンチを切り抜ける。
先制点は枚方津田の3回裏。敵失で出塁した先頭打者の7番石本 陽輝(3年)が、犠打と暴投で進塁、さらに1番田中 英利(3年)が四球で出塁して二死一、三塁とし、2番下垣 大吾(3年)を打席に迎えたところで、一塁走者の田中がスタート。ここで捕手岡本 凌太朗(3年)の送球が、二塁に滑り込んだ田中の足に当たってボールが三遊間に転がり、これを見た三塁走者の石本が生還、無安打で1点を先制した。
それ以外に目立った動きはなく、5回が終わった時点の安打数は、大教大池田1本、枚方津田2本。両エースの踏ん張りにより、落ち着いた投手戦を展開したが、6回と7回は両校とも先頭打者が出塁するなど、後半に入って少しずつ試合が動き始めた。
そして8回表。先頭打者の1番赤尾 優(3年)が中安で出塁して、2番江添 雄介(3年)が犠打で送ると、3番見目 智哉(3年)はしっかりボールを叩いて左安、一死一、三塁の好機を迎えた。打席は4番岡本。内野手は前進守備であり、短打あるいは犠飛でも得点が望める場面ではあったが、選択した作戦は1ストライクからのセーフティスクイズ。これが真っ直ぐ投手前に転がってしまい、三塁走者が本塁刺殺。二死一、二塁となった。
そしてさらなるアクシデント。ここまで好投を続けてきた次打者の磯部の足が攣り、しばらく試合中断となった。なかなかベンチから姿を見せない磯部に対して、枚方津田スタンドからは「がんばれ、がんばれ、磯部!」の声援が起こるなど、高校野球らしい場面もあったのだが、この偶然に生じた間合いが、先程の悪い流れを断ち切ったと言えるのかもしれない。
試合再開後の篠原の第1球、これが暴投になって二死二、三塁。磯部にはストレートの四球を与えて二死満塁。そして続く5番吉川 直也(2年)に対してもボールが先行する。最後の夏の初戦の終盤、一打逆転を許すかもしれない二死満塁のマウンドは、どれほどの重圧だっただろう。1球ごとに深呼吸をして気合いを入れ直しながら投球した篠原であったが、結果は無情にも押し出し四球。後続を断ち切ったものの同点に追い付かれてしまった。
続く8回裏。マウンドへ向かった大教大池田のエース磯部であったが、投球練習を始める前に再び足が攣ってしまう。しばらく試合は再度中断して、当初は続投する意思もあったようであるが、やがて投手交代を決断し、遊撃手の赤尾がマウンドに登った。
赤尾は右横投げの軟投派。大きく崩れるタイプではないのだが、想定外の登板にやや浮き足立った部分もあったかもしれない。先頭の9番入谷 健太(3年)に右安を打たれ、代走の上山 日跳(3年)が盗塁を決めると、1番田中の犠打で一死三塁。
8回表の相手チームとよく似た好機で、2番下垣は2ボールからスクイズ。ややフライ気味にはなったが、ボールは三塁側の良い位置に落ちた。既に本塁はセーフのタイミングであり、三塁手の岡本は打球を見守ったが、フェアゾーンでボールが止まりオールセーフ、再び勝ち越しに成功した。
9回表。一死から途中出場の宇田 創(2年)が意地の左安を放ち、二死から2番江添が二塁手トンネルという奇跡的な敵失を招いて一、三塁まで粘るが、3番見目は当たり損ないの一ゴロで試合終了。最後まで目が離せない接戦は、僅かの差で枚方津田に軍配が上がった。
両校の実力はかなり拮抗しており、どちらが勝ってもおかしくない試合であった。勝敗を分けたのは現象面だけで見れば、8回に巡ってきた好機におけるスクイズの成否の差であったかもしれない。
しかし見えない部分で勝負を決定付けたのは、エースという存在の大きさのように思える。枚方津田の篠原は、ピンチに制球を乱し、押し出し四球まで与えるなど、決して完璧な内容ではなかったが、それでも一人で最後までマウンドを守り抜いた。
一方、大教大池田の磯部は、足が攣るという不運なトラブルが原因ではあるが、結果として途中交代を余儀なくされ、その直後に決勝点を奪われてしまったのである。
球速や制球といった能力や、投球タイプの相性、投球数による疲労など、投手と打者の勝負には様々な要素が関係していることは当然であるが、チームにおけるエースの存在感という、目に見えない影響力を感じずにはいられない試合結果であった。
(文=西村 結生)
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