「イスラム国」支援にも…証拠が残らない送金方法「ハワラ」とは?

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スラム過激派組織「イスラム国(以下、IS)」による、日本人人質事件から一年あまり。
 最近では、一時期ほど「シリア紛争」や「IS」についての過熱した報道はなくなったが、実際には問題は何一つ片付いてはいない。

 アメリカをはじめとする連合国やロシアによる空爆を受けているにもかかわらず、ISが決定的なダメージを負わないのはなぜなのか?
 なぜISへのヒト・モノ・カネの流入が止まらないのか?
 シリア紛争に早期停戦の望みはあるのか?
 
 多くの人が感じているであろうこうした疑問について、『石油・武器・麻薬 中東紛争の正体』(講談社刊)の著者で現代イスラム研究者の宮田律さんにお話を聞いた。今回はその後編をお届けする。
 
◇ ◇ ◇

――「武器」についても少しお聞きしたいと思います。ISの武器はイラク軍から捕獲したり、シリアの反政府勢力からISに鞍替えした人が持ち込んだりといったことが言われていますが、常に必要になる「弾薬」などはどうやって供給しているのでしょうか。

宮田:武器については、ISに入っている旧フセイン政権時代の軍人や官僚が持ち込んだものがありますし、リビアからエジプトのシナイ半島を通って密輸されていることも考えられます。

消耗品については詳しくはわかりませんが、これだけ長く戦闘しているわけですから絶え間なく入るルートがあるはずです。サウジアラビアから持ち込まれているのかもしれませんし、イラク政府軍は腐敗がひどいのでそちらから持ち込まれている可能性もあります。

――資金についてはいかがですか?湾岸諸国から資金が流れているということが言われていますが、通常の銀行口座は使えないでしょうし、どうやって送金をしているのかが疑問です。

宮田:送金方法については、本にも書いたのですが「ハワラ」というイスラムの伝統的な送金システムがあって、それを使っているのではないかと思います。

まず、送金者が近くのハワラ業者Aにお金を預けて、その業者は送金先のハワラ業者Bにパスワードを教えます。そして受取人がハワラ業者Bにパスワードを伝えればお金を引き出せる。つまり、足のつかないカネの飛ばしテクニックですよね。

――宮田さんは本の中で、アメリカの中東戦略を「支離滅裂」だとしています。先ほどおっしゃったような、旧フセイン政権時代の軍人らがISに武器を持ち込み、共に戦っているという現実を見ると、特にイラク戦争後のアメリカのイラク統治は明らかに失敗だったように思えます。

宮田:イラク戦争後の新しいイラクの体制から、旧フセイン政権時代の官僚や軍人を排除してしまったことが最大の失敗だと思います。

フセイン政権時代に外務大臣を務めたターリク・ミハイル・アズィーズはクリスチャンでしたし、副首相だったターハー・ヤスィーン・ラマダーンはクルド人でした。フセイン自身はスンニ派でしたが、そうやってさまざまな勢力から人を登用してバランスを取っていたわけです。

ところがアメリカは、イラク戦争後の新体制を作るにあたって、イラク社会を「シーア派とスンニ派」というように非常に図式的に捉えて、フセインと同じスンニ派をイラクの中枢から排除してしまいました。みんな解雇です。これがイラクのスンニ派住民のIS支持や、フセイン政権時代の官僚や軍人がISで戦うこと、そしてスンニ派とシーア派の間の宗派抗争につながっていきました。

――そのアメリカは先日、シリア・イラクでのIS戦闘員の数が減少していると発表しました。ISへの人の流れはある程度食い止められていると考えていいのでしょうか。

宮田:正直、鵜呑みにはできないと思っています。そもそもISの戦闘員の数をそんなに正確に計測できるはずもないですし、環境によっても変わってくるので。

――中東紛争の今後について、アメリカやロシアなどの呼びかけでシリア内戦の和平協議が行われていますが、進展は見られますか?

宮田:サウジアラビアとイランが対立したり、アメリカとロシアが対立したりで、和平協議は今のところうまくいっていません。この状況を見るとシリアの紛争はかなり長引くのではないかと思いますね。

あまり考えたくないですが、1975年から1990年まで続いたレバノン内戦のようになってしまうと相当しつこい。

――シリアの反体制派は一つのまとまった組織ではなく、様々な武装組織が乱立した状態です。この状況で和平協議といっても、まず「どの組織の誰が代表として出席するのか?」という疑問がわきますし、停戦の合意ができたとしても各組織の足並みが揃うのかという問題もあるはずです。

宮田:「シリア国民連合」という一つのまとまった政治組織があったのですが、今ではもうバラバラになってしまっていますよね。反政府勢力は有象無象で、調べていくと本当にいろいろな固有名詞が出てきます。

たとえば、一昨年、ISに殺害された湯川遥菜さんが一時期行動を共にしていたという「イスラム戦線」はカタールが支援していたはずなのですが、今はもうほとんど名前を聞くことがなくなりました。そういう意味でも和平協議の先行きは困難が多いと思います。

――最後になりますが、こうしたシリアやイラクの現状に対して、日本が行うべき支援はどのようなものか、ご意見をお聞かせいただければと思います。

宮田:ドイツがイラクのティクリートといったISの支配から解放された町で、人が暮らせる環境を取り戻すインフラ整備や医療整備、教育支援などを行った結果、非難していた15万人の住民が戻ってきました。

紛争地ということでイラク政府軍とも協力して安全に配慮するのが大前提ですが、日本の支援もそういったものがいいのではないかと思います。
(インタビュー・記事/山田洋介)

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