「体育会系はバカばっかり!」が言えなくなる時代が本格的にやってきた【脳を鍛えるには運動しかない!】
「体育会系は騒ぐバカばっかり。なのに、就職先がいいのはなんでだろう?」

中高時代は吹奏楽部、大学時代は軽音部。趣味は読書という根っからの文化系だった筆者が学生時代の友人とよくネタにしていた話題だ。

我々の根拠はこうだった。

文化系は、身体はひょろいけど、1ヶ月で10冊以上は本を読むし、大学の授業も欠席しない。飲み会でのコールなど言語道断。全体として禁欲的で真面目である。

一方、体育会系といえば身体はガッチリして体力はあるようだけど、たいして勉強もしてない(ように見える)身体でっかち。筋肉バカ。おまけに性欲も強い(ように見える)。

そんな彼らだが、要領がいいからか、地頭がいいからなのか、卒業後は多くが名だたる大手企業へと就職していった。なかには、4年時から勉強して難関資格に合格する者もいた。

文化系で固まっていた筆者を含むグループは、ただただそれを遠目から見ているほかなかった。決して「うらやましい」とは口にせず。

◆走ってる奴のほうが、脳が冴えるという衝撃

だが、学生時代から数年の時を経て、とても残念な知らせが入ってきた。

体育会系の彼らを一概に「バカ」扱いすることができなくなったのである。それが、我々文化系がもっとも信頼する学術的証明という最悪な形でもって。

以下は、ジョン・J・レイティという米国ハーバード大学医学部准教授が書いた『脳を鍛えるには運動しかない!』(野中香方子訳、NHK出版刊)の中の一節だ。

著者は数々の運動と脳の働きの実験結果を紹介したあとで、次のように結論づける。

======(P67-68より引用)
ここまでくれば、運動が三つのレベルで学習を助けることは十分おわかりいただけたと思う。まず、気持ちがよくなり、頭がすっきりし、注意力が高まり、やる気が出てくる。つぎに、新しい情報を記録する細胞レベルでの基盤としてニューロンどうしの結びつきを準備し、促進する。そして三つ目に、海馬の幹細胞から新しいニューロンが成長するのを促す。
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ようするに、有酸素運動をした後のほうがより脳が冴え渡り、集中力が増し、記憶力も高まるというのだ(ちなみに、エアロビクスのようなルールが複雑な運動をすると、脳に負荷がかかるため、よりその効果は高まるらしい)。

となれば、運動をしている者が、そうでない者よりも効率的に仕事を処理できたり、勉強において好成績を残すという学生時代のアレは、科学的に根拠を持っていたことがわかる。

◆むしろ動いてないヤツは早く認知症になる!

さらに、著者は膨大な研究論文を渉猟しながら、運動が日常生活にもたらすメリットを次々紹介していく。

・昼休みに運動をしている従業員のほうが、仕事の締め切りを守れる(p106)

・有酸素運動をすれば、不安がたちまち解消される。体の筋肉の張力が緩むので、脳に不安をフィードバックする流れが断ち切られるから(p118)

・筋力トレーニングと有酸素運動はどちらも、アルコールやタバコをやめようとしている人が陥りがちなうつの症状を軽減する(p236)

特に差がつくのが老後だ。

年をとると、一般に体中の細胞がストレスへの適応力を失っていく。その結果陥るのがアルツハイマー病やパーキンソン病などの高齢者によく見られる病。運動は、そんなストレスに抵抗する力(ニューロンの情報伝達力)の衰えを遅らせることができるという。

ここまで読めば、単に身体を動かしているだけ(と思いたい)体育会系を一方的にバカにするのが困難なことがおわかりいただけただろう。

◆この本を読んでいると、居ても立っても居られなくなる

著者によれば、現在の医学では運動と脳の働きの関連性はもはや研究の「前提」であり、今後は、どんな運動が、どんな病を予防するのかについてより詳細な分析をする研究が盛んになるという。

つまり、今後我々に「動かない自分」という選択肢は残されていないらしい。

ちなみに、本書は300ページを超える大作で膨大な実験データの紹介とともに科学的な用語が頻出する。これら一言一句を、専門分野をかじっていない人が理解するのは正直キツい。

そのため、脳科学に精通していない一般の読者は運動と脳の働きのあいだに深い結びつきを示すエビデンスが多数存在することだけ抑えておけばOKだ。

むしろ、科学用語を理解する前に、本書を読んでいる自室やカフェを飛び出してしまったほうがよっぽどましだ。なぜなら、走ったあとのほうが、あなたはその用語を簡単に理解できるのだから。

(新刊JP編集部)