8カ国語のマルチリンガルが語学習得で最初にすること
「英語を話せるようになりたい!」と意気込み、教材を買ってみたり、英会話スクールに通ってみたりしたものの、結局長続きせず、英語力も身につかなかった。そんな経験はありませんか。
意気込んでいればいるほど、「あれもこれも」と欲張ってしまい、いつしか勉強すること自体が苦痛に感じられ、続けるのが億劫になってしまう。かといって、「聴くだけで話せるようになります!」と、「ラクであること」を前面に押し出す学習法を信じる気にもなれない……。
英語学習において、どのくらいの負荷をかけることが適切なのか。そんな疑問に、ひとつのヒントをくれるのが『30日で英語が話せるマルチリンガルメソッド』(かんき出版/刊)です。本書で紹介されているメソッドに従えば、「1日15分×2回のみ」「30日間」学習するだけで、英語を話せるようになるそう。
この本の著者、新条正恵さんは、留学や外資系企業勤務などで豊富な海外経験を持ち、英語、中国語、スペイン語、トルコ語など計8か国語を操るマルチリンガル。その語学習得経験を活かし、英語に苦手意識を持っている人向けに、英語の個人レッスンやグループレッスンを行なっています。
その新条さんにお話をうかがい、いかにして言語習得の魅力にとりつかれたのか、また英語を「話せる」ようになるための、ちょっとした発想の転換の仕方などについて聞きました。
――タイトルにもあるように、新条さんはこれまでに8か国語を習得なさったとのことですが、まずは、どのようなきっかけで多言語を習得するに至ったのかをお聞かせ願えますか。
新条:高校卒業後、関西外国語大学へ進学し、2回生の秋から1年間、アメリカへ交換留学させてもらったことが、多言語を習得するようになったきっかけです。
アメリカの大学では、世界各国から来た留学生も多く学んでいましたが、その中でもアジア人留学生とは日本人である私と文化的背景が似ていることもあり、すぐに打ち解けることができました。よく地域コミュニティの活動や留学生同士の交流パーティに参加したり、誰かの家に遊びに行って一緒に料理をしながら、言語を教えてもらいました。結局、アメリカの大学にそのまま編入し、留学後は、外資系の企業で12年間働きました。
――交換留学の際、特に仲良くなったのは、どこから来た留学生でしたか? また、どれくらいの時間をかけて、その留学生の母国語を習得していったのでしょうか?
新条:特に仲が良かったのは台湾とタイから来ていた留学生たちでした。台湾の公用語は北京語ですが、留学前にも私は関西外国語大学で1年間中国語を学んでいたベースがあったので、留学期間中に台湾人の友人と一緒にいるうちにいつの間にか中国語も話せるようになりました。なので、中国語に関してはトータル2年間でマスターしたということになります。
タイ語については完全にゼロからのスタートで、「かわいいって、タイ語で何て言うの?」と質問することから始め、ちょっとした日常語を教えてもらいながら、少しずつ習得していきました。さらに、当時、姉がタイで働いていたので、冬休みを使って約1ヶ月間、現地に滞在したりもしましたね。こちらも、冬休みが終わるころには、ある程度不自由なく話せるようになっていました。
――新条さんにとっての「話せる」というのは、どういったことを指すのでしょうか。
新条:「いつでも、どこでも、誰とでも、3つの話題であれば、15分話せること」という状態をイメージしています。ひとまず、このレベルに達していれば、英語に限らずどんな言語であっても、海外旅行に行ったときに最低限の会話ができますし、初対面の相手との会話にも困りません。
なぜ「3つの話題」としているのかといえば、「好きなこと」や「興味のあること」と抱き合わせにすることで、本書が推奨している「1日30分学習」に苦もなく取り組めるようになるからです。
――では新条さんの場合、「3つの話題」の具体例をひとつ挙げるとすれば、どのようなものでしょう?
新条:「食に関すること」ですね。私、食べることが大好きなので。英語であれば、”It’s delicious!”(おいしい!)、”How do you call this dish?”(このお料理、なんて呼ぶの?)、”How do you prepare this?”(どうやって作るの?)といったように、食や食べることに関する単語と言い回しを集中的に覚えることから始めるんです。あとは、外国旅行をしたら、積極的に現地の言葉しか通じないレストランや食堂に行きます。
――なぜ現地のレストランに行くのがいいのでしょう?
新条:現地の言葉しか通じないから。例えば注文もそうですが、お店で食事をすれば必ず「お会計」をしますよね。これがいいんです。なぜなら、「数字」に関する単語を発しなければならないから。こういった単語は少なくとも15分の会話であれば1回、多い場合は1〜2分に1回は出てくる頻出単語。それでいて、いざというときに意外と思い出せません。したがって、これらの単語がサッと出てくる状態になっているかどうかは、スムーズな会話ができるかどうかの分かれ目といえます。
これは余談ですが、私の場合、レストランへ行き、そこで現地の人と交流すること自体が言語学習のモチベーションになっているという側面があります。
トルコでひとり旅をしていたときのことですが、トルコはイスラム圏国家なので、女性がひとりで出歩いたり、お店に入ったりするということはほとんどないんですね。なので、どこにいても一人でいたらとても目立ちます。で、ある食堂に入ったら、よっぽど物珍しかったのか、わざわざそのお店の主人が奥から出てきてくれて、私の目の前の席に座り、「あなたは日本人ですか?」「わざわざトルコへ来ていただき光栄に思います。お召し上がりになりたいものがあれば何でもお出しします」と、さながらVIP待遇かというほど(笑)、親切な対応をしてくださったことがありました。
そうやって話しかけてくれることがうれしくて、拙いながらこちらも一生懸命現地の言葉で話す。すると、向こうもものすごく喜んでくれる。そういうことがあると、言語を学ぶのが、どんどん楽しくなっていきます。
――なるほど。そのようにして、「興味関心のあること」と紐づけながら、日常語の引き出しを増やしていくことが重要なのですね。本書のなかでは、「英語に限らず、外国語を学ぶにあたって、まず習得すべき『600語』がある」とも書かれていました。
新条:ええ、本書の巻末にも付録としてつけましたが、実際にその単語リストを見ると、「えっ!? こんなに簡単な単語だけでいいの?」と驚かれる方が少なくないと思います。それもそのはずで、ここで挙げている英単語は、「これ」「あの色」「大きい」「うれしい」など、中学1年生から2年生ぐらいにかけて学ぶ程度のものばかり。でも、このレベルでも「使いたい時に使いこなせる」という人は意外なほど少ないんです。
ただ、この「600語」に、「数字」や「3つの話題」は一部しか含まれていません。まずは簡単な英単語を使いこなすことで「私にも英語が話せる」を体感する。これを“成功体験”と呼んでいますが、この体験があると「もっと英語を話したく」なる。だから英語学習を「続けたく」なるんです。
(後編へ続く)
意気込んでいればいるほど、「あれもこれも」と欲張ってしまい、いつしか勉強すること自体が苦痛に感じられ、続けるのが億劫になってしまう。かといって、「聴くだけで話せるようになります!」と、「ラクであること」を前面に押し出す学習法を信じる気にもなれない……。
この本の著者、新条正恵さんは、留学や外資系企業勤務などで豊富な海外経験を持ち、英語、中国語、スペイン語、トルコ語など計8か国語を操るマルチリンガル。その語学習得経験を活かし、英語に苦手意識を持っている人向けに、英語の個人レッスンやグループレッスンを行なっています。
その新条さんにお話をうかがい、いかにして言語習得の魅力にとりつかれたのか、また英語を「話せる」ようになるための、ちょっとした発想の転換の仕方などについて聞きました。
――タイトルにもあるように、新条さんはこれまでに8か国語を習得なさったとのことですが、まずは、どのようなきっかけで多言語を習得するに至ったのかをお聞かせ願えますか。
新条:高校卒業後、関西外国語大学へ進学し、2回生の秋から1年間、アメリカへ交換留学させてもらったことが、多言語を習得するようになったきっかけです。
アメリカの大学では、世界各国から来た留学生も多く学んでいましたが、その中でもアジア人留学生とは日本人である私と文化的背景が似ていることもあり、すぐに打ち解けることができました。よく地域コミュニティの活動や留学生同士の交流パーティに参加したり、誰かの家に遊びに行って一緒に料理をしながら、言語を教えてもらいました。結局、アメリカの大学にそのまま編入し、留学後は、外資系の企業で12年間働きました。
――交換留学の際、特に仲良くなったのは、どこから来た留学生でしたか? また、どれくらいの時間をかけて、その留学生の母国語を習得していったのでしょうか?
新条:特に仲が良かったのは台湾とタイから来ていた留学生たちでした。台湾の公用語は北京語ですが、留学前にも私は関西外国語大学で1年間中国語を学んでいたベースがあったので、留学期間中に台湾人の友人と一緒にいるうちにいつの間にか中国語も話せるようになりました。なので、中国語に関してはトータル2年間でマスターしたということになります。
タイ語については完全にゼロからのスタートで、「かわいいって、タイ語で何て言うの?」と質問することから始め、ちょっとした日常語を教えてもらいながら、少しずつ習得していきました。さらに、当時、姉がタイで働いていたので、冬休みを使って約1ヶ月間、現地に滞在したりもしましたね。こちらも、冬休みが終わるころには、ある程度不自由なく話せるようになっていました。
――新条さんにとっての「話せる」というのは、どういったことを指すのでしょうか。
新条:「いつでも、どこでも、誰とでも、3つの話題であれば、15分話せること」という状態をイメージしています。ひとまず、このレベルに達していれば、英語に限らずどんな言語であっても、海外旅行に行ったときに最低限の会話ができますし、初対面の相手との会話にも困りません。
なぜ「3つの話題」としているのかといえば、「好きなこと」や「興味のあること」と抱き合わせにすることで、本書が推奨している「1日30分学習」に苦もなく取り組めるようになるからです。
――では新条さんの場合、「3つの話題」の具体例をひとつ挙げるとすれば、どのようなものでしょう?
新条:「食に関すること」ですね。私、食べることが大好きなので。英語であれば、”It’s delicious!”(おいしい!)、”How do you call this dish?”(このお料理、なんて呼ぶの?)、”How do you prepare this?”(どうやって作るの?)といったように、食や食べることに関する単語と言い回しを集中的に覚えることから始めるんです。あとは、外国旅行をしたら、積極的に現地の言葉しか通じないレストランや食堂に行きます。
――なぜ現地のレストランに行くのがいいのでしょう?
新条:現地の言葉しか通じないから。例えば注文もそうですが、お店で食事をすれば必ず「お会計」をしますよね。これがいいんです。なぜなら、「数字」に関する単語を発しなければならないから。こういった単語は少なくとも15分の会話であれば1回、多い場合は1〜2分に1回は出てくる頻出単語。それでいて、いざというときに意外と思い出せません。したがって、これらの単語がサッと出てくる状態になっているかどうかは、スムーズな会話ができるかどうかの分かれ目といえます。
これは余談ですが、私の場合、レストランへ行き、そこで現地の人と交流すること自体が言語学習のモチベーションになっているという側面があります。
トルコでひとり旅をしていたときのことですが、トルコはイスラム圏国家なので、女性がひとりで出歩いたり、お店に入ったりするということはほとんどないんですね。なので、どこにいても一人でいたらとても目立ちます。で、ある食堂に入ったら、よっぽど物珍しかったのか、わざわざそのお店の主人が奥から出てきてくれて、私の目の前の席に座り、「あなたは日本人ですか?」「わざわざトルコへ来ていただき光栄に思います。お召し上がりになりたいものがあれば何でもお出しします」と、さながらVIP待遇かというほど(笑)、親切な対応をしてくださったことがありました。
そうやって話しかけてくれることがうれしくて、拙いながらこちらも一生懸命現地の言葉で話す。すると、向こうもものすごく喜んでくれる。そういうことがあると、言語を学ぶのが、どんどん楽しくなっていきます。
――なるほど。そのようにして、「興味関心のあること」と紐づけながら、日常語の引き出しを増やしていくことが重要なのですね。本書のなかでは、「英語に限らず、外国語を学ぶにあたって、まず習得すべき『600語』がある」とも書かれていました。
新条:ええ、本書の巻末にも付録としてつけましたが、実際にその単語リストを見ると、「えっ!? こんなに簡単な単語だけでいいの?」と驚かれる方が少なくないと思います。それもそのはずで、ここで挙げている英単語は、「これ」「あの色」「大きい」「うれしい」など、中学1年生から2年生ぐらいにかけて学ぶ程度のものばかり。でも、このレベルでも「使いたい時に使いこなせる」という人は意外なほど少ないんです。
ただ、この「600語」に、「数字」や「3つの話題」は一部しか含まれていません。まずは簡単な英単語を使いこなすことで「私にも英語が話せる」を体感する。これを“成功体験”と呼んでいますが、この体験があると「もっと英語を話したく」なる。だから英語学習を「続けたく」なるんです。
(後編へ続く)