言葉で表現された“大森靖子”を本人が覗いたら――大森靖子『かけがえのないマグマ』インタビュー(1)
裸の女性が真っピンクに染まった水に浸かりながら、こちらを凝視する衝撃的なアルバムジャケットを、サブカルの聖地といわれる中野ブロードウェイの「タコシェ」という小さな本屋で見つけたのは2012年の梅雨入り前のことだった。
大森靖子さんのミニアルバム「PINK」は、すでに始まっていた彼女の快進撃を感じさせる、あまりにも圧倒的な存在感を放っていた。ピアノやギターの弾き語りというシンプルな音楽でありながら、歌詞はとても生々しく、時折絶叫が入り混じる。新しい世代の叫びだった。
そして、それから3年半後の2016年1月30日、同じくピンク色に染まった表紙の本が全国の書店に並んだ。タイトルは『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』(毎日新聞出版刊)。1987年生まれの大森さんが語った半生を、1986年生まれの気鋭の詩人・最果タヒさんが「小説」という形でまとめた。
2月17日には出産明け初のシングルとなる『愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター』を発売、3月23日にはアルバム『TOKYO BLACK HOLE』のリリースを控えている。その中で、大森さんの生い立ちやパーソナリティーが明かされている本書は、これまでのファンのみならず、これから大森さんの音楽に触れる人にとっても重要な一冊になるだろう。
「言葉の起爆装置」とはこの本の帯に書かれているコピーだが、20代後半の女性2人によって紡がれた言葉には、まさに人を動かす力が宿っている。
映画や舞台の出演、無所属のままでの渋谷クアトロワンマンライブ、ファンとのディープキスや突然の結婚発表など、いつでも人の目を引きつけながら、フルスピードで走り続けてきた大森さんが今、「本」に込めた想いとは?
「新刊JP」という本をテーマにしたメディアからのインタビューに応じた彼女は、笑顔で質問に答えてくれた。
(取材・構成・文/カナイモトキ、写真/ヤマダヨウスケ)
■大森靖子はなぜ最果タヒを選んだのか?
――この『かけがえのないマグマ』は、共著ではありますが、大森さんにとって初めての単行本になります。自分の言葉が書籍という形になってみていかがですか?
大森靖子さん(以下、大森):あ、私が書いたわけではないので(笑)。もし自分が書いていたとしたら、多分もっと言葉を分からないように選んでしまうから、誰にでも分かるように書けなかったと思うんですよ。
でも、今回は最果タヒさんに私のことを書いていただいて、リズムもいいし、ひらがな、カタカナ、漢字のバランスも良くて、私の世代だったら絶対に共感できるような言葉が散りばめられているし、好きだったケータイ小説感もあってすごくいいなと思っています。
――今回の本では最果さんが大森さんのお話を聞いて、それを文章としてまとめるという作り方をしていますが、最果さんが書き手になったのはどうしてですか?
大森:私が指名しました。「タヒちゃんがいい」って。私は詩とかあまり読まないんですが、最果さんのことは知っていて、言葉の羅列がつんく♂さんと似ているんですよ。宇宙規模の話や真面目に勉強していないと分からないような言葉と、女子高生が使うようなそこかしこに転がっている言葉を、ぎゅっと並べてくるんです。それに真っ当に女子高生をやったという印象があって、もう好感しかなくて。
――20代の女性同士で、話しやすさもあったのではないですか?
大森:好きな人だから、それはなかったです。私は自分のことをしょうもないと思っているから、こんな自分の話を長々と聞かせて、嫌われたらどうしようと思っていました(笑)。
――どのくらいの時間をかけてお話したんですか?
大森:去年の春から夏くらいにこの本の制作の話が出てきて、それから妊娠中に2日、出産後に1日ですね。
最果さんは私の言うことを客観的に分析してくれるんです。だから「私ってそうだったんだ!」と気づくことが多かったですね。「大森さんは道重さゆみさんが好きで、道重さんは憧れに自分をはめこんでそこを目指していくタイプだけど、大森さんはありのままを貫くまったく真逆のタイプですよね」とか言われて、「確かに!何でだろう」って。
最果さんは瞬間的に事実を把握して言葉にできるから、頭良いなあと思っていました。私は、置いてあったアルフォートをずっと食べていて、私だけこんなに食いしん坊で申し訳ない…みたいな気持ちで(笑)
――この本は「小説」という形でまとまっていますが、内容はほぼノンフィクションですよね。
大森:そうですね。フィクションはないです。一ヶ所だけ、プリクラに書かれた友達の名前のところ、タヒちゃんが気を遣って仮名にしてくれてるんですよ。でも最後の段階で全部、実名にしちゃおうか悩みました(笑)。結局、そのままにしたんですけど。
最初に読んでみたときは、ちょっとくすぐったい気持ちでした。自分のことを自分から「私ね、」って話すことないじゃないですか。だから、みんなこの本を読んでどんな気持ちになるんだろうと思いましたね。自分のことを客観視できないし、でも全部自分のことが書かれているから、「あった!そんなこと」みたいな感じだし(笑)
■「『生きている』って、私の中では『作業』なんです」
本のタイトルは『かけがえのないマグマ』。「面白いと思ったらすぐにやる」という大森さんの行動力はまさにマグマさながらだが、「かけがえのない」という言葉が付くことで、その印象は「触れられないもの」から、「誰もが持っている自然の感情」へと変わる。この絶妙な書籍タイトルはどのようにして生まれたのだろうか。
――『かけがえのないマグマ』というタイトルも印象的です。
大森:最果さんと私でお互いに言葉を出し合ったのですが、「かけがえのない」は最果さんからきたもので、「マグマ」は私が見つけました。
自分の中で沸々としている言語化されていないものを、2人でいろんな言葉を組み合わせながら表現しているんですけど、その言語化されていないものは自然発生的に生まれたものなんです。「マグマ」って暑苦しいものかもしれないけれど、自然に生まれたものだからしょうがないでしょって。
――タイトル決めは結構すんなりいったんですか。
大森:そうだったと思います。「大森靖子激白」が漢字だから、「かけがえのない」のひらがなと、「マグマ」のカタカナでバランスが良いですね。
――「マグマ」というとやはり噴火に起因して、力強さを感じるものだと思います。この本を読んでいると、大森さんの芯の強さというか、本当に真っ直ぐ進む力強さに溢れていると思うんですね。それを具現化しているのが冒頭から出てくる「生きている」という言葉だと思うのですが、この言葉に込めた想いは?
大森:「生きている」って、私の中では「作業」なんです。「愛している」もそうだけど、全部作業じゃないといけない。受動的な「生きている」状態って、ただ息をしていて、勝手に時間が過ぎていくみたいな感じですよね。それが私は耐えられなくて、「毎日を生きるぞ」っていうのが、私が思う「生きている」。
――なるほど。
大森:「食べる」でも「寝る」でもいいんですけど、「している」っていう感覚がないと気持ち悪い。
――とにかく生きることに対して能動的ですが、それはどういうところが原動力になっているんですか?
大森:気質が多分、社長みたいな(笑)。思いついたらやらなきゃ!って思うんですよ。で、すぐにやらないとすぐに飽きちゃうから、ものすごいスピードでやる。だから、渋谷クアトロのワンマンライブもあのスピード感になっちゃった。
――確かに急成長しているベンチャー企業の社長のような感じですよね。
大森:うん、本当にそうだと思います(笑)。
――本の中の結婚のくだりのところで、「ずっと、もうすぐ死ぬんだと思っていた」って書かれていましたけど、この考え方はおそらくそのスピード感を生む一つの要因だったのではと思います。実際、何歳くらいで死ぬと思っていましたか?
大森:23歳くらいだと思っていました。でも、23で死なないので、25くらいかなってなって、それで27になって。奇数が好きなので(笑)。今度のアルバムの収録曲も13で奇数です。奇数が好きなのはなんとなくで、一番好きなのは「3」です。いつも席順のあみだくじは「3」でした。これもなんとなくなんですけどね。
【第2回「自分自身の『成りあがり』を読みたいと思った」を読む】
■大森靖子さんプロフィール
1987年生まれ、愛媛県出身。ミュージシャン。美大在学中に音楽活動を開始。2013年にアルバム『魔法が使えないなら死にたい』『絶対少女』を続けざまに発表。2014年、エイベックスからメジャーデビューし、アルバム『洗脳』発表。2015年、全国ツアー後に妊娠を発表し、10月に男児を出産。2016年、活動を本格再開する
オフィシャルウェブサイト: http://oomoriseiko.info/
■リリース情報
両A面シングル『愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター』発売中
出産後復帰第1弾となる両A面シングル。
「愛してる.com」では亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎え、洗練されたアレンジによるアンサンブルが鳴り響く曲に仕上がっている。また、「劇的JOY!ビフォーアフター」は、サウンドプロデューサーに奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)を迎えて制作された楽曲で、これら2曲に弾き語り曲「ファンレター」を加えた計3曲を収録。
完全限定生産盤は、豪華BOX仕様となっている。
メジャー2ndフルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』
2016年3月23日発売
前作から1年3ヶ月ぶりのリリース。「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」や 「愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター」を含んだ全13曲収録。
大森靖子さんのミニアルバム「PINK」は、すでに始まっていた彼女の快進撃を感じさせる、あまりにも圧倒的な存在感を放っていた。ピアノやギターの弾き語りというシンプルな音楽でありながら、歌詞はとても生々しく、時折絶叫が入り混じる。新しい世代の叫びだった。
2月17日には出産明け初のシングルとなる『愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター』を発売、3月23日にはアルバム『TOKYO BLACK HOLE』のリリースを控えている。その中で、大森さんの生い立ちやパーソナリティーが明かされている本書は、これまでのファンのみならず、これから大森さんの音楽に触れる人にとっても重要な一冊になるだろう。
「言葉の起爆装置」とはこの本の帯に書かれているコピーだが、20代後半の女性2人によって紡がれた言葉には、まさに人を動かす力が宿っている。
映画や舞台の出演、無所属のままでの渋谷クアトロワンマンライブ、ファンとのディープキスや突然の結婚発表など、いつでも人の目を引きつけながら、フルスピードで走り続けてきた大森さんが今、「本」に込めた想いとは?
「新刊JP」という本をテーマにしたメディアからのインタビューに応じた彼女は、笑顔で質問に答えてくれた。
(取材・構成・文/カナイモトキ、写真/ヤマダヨウスケ)
■大森靖子はなぜ最果タヒを選んだのか?
――この『かけがえのないマグマ』は、共著ではありますが、大森さんにとって初めての単行本になります。自分の言葉が書籍という形になってみていかがですか?
大森靖子さん(以下、大森):あ、私が書いたわけではないので(笑)。もし自分が書いていたとしたら、多分もっと言葉を分からないように選んでしまうから、誰にでも分かるように書けなかったと思うんですよ。
でも、今回は最果タヒさんに私のことを書いていただいて、リズムもいいし、ひらがな、カタカナ、漢字のバランスも良くて、私の世代だったら絶対に共感できるような言葉が散りばめられているし、好きだったケータイ小説感もあってすごくいいなと思っています。
――今回の本では最果さんが大森さんのお話を聞いて、それを文章としてまとめるという作り方をしていますが、最果さんが書き手になったのはどうしてですか?
大森:私が指名しました。「タヒちゃんがいい」って。私は詩とかあまり読まないんですが、最果さんのことは知っていて、言葉の羅列がつんく♂さんと似ているんですよ。宇宙規模の話や真面目に勉強していないと分からないような言葉と、女子高生が使うようなそこかしこに転がっている言葉を、ぎゅっと並べてくるんです。それに真っ当に女子高生をやったという印象があって、もう好感しかなくて。
――20代の女性同士で、話しやすさもあったのではないですか?
大森:好きな人だから、それはなかったです。私は自分のことをしょうもないと思っているから、こんな自分の話を長々と聞かせて、嫌われたらどうしようと思っていました(笑)。
――どのくらいの時間をかけてお話したんですか?
大森:去年の春から夏くらいにこの本の制作の話が出てきて、それから妊娠中に2日、出産後に1日ですね。
最果さんは私の言うことを客観的に分析してくれるんです。だから「私ってそうだったんだ!」と気づくことが多かったですね。「大森さんは道重さゆみさんが好きで、道重さんは憧れに自分をはめこんでそこを目指していくタイプだけど、大森さんはありのままを貫くまったく真逆のタイプですよね」とか言われて、「確かに!何でだろう」って。
最果さんは瞬間的に事実を把握して言葉にできるから、頭良いなあと思っていました。私は、置いてあったアルフォートをずっと食べていて、私だけこんなに食いしん坊で申し訳ない…みたいな気持ちで(笑)
――この本は「小説」という形でまとまっていますが、内容はほぼノンフィクションですよね。
大森:そうですね。フィクションはないです。一ヶ所だけ、プリクラに書かれた友達の名前のところ、タヒちゃんが気を遣って仮名にしてくれてるんですよ。でも最後の段階で全部、実名にしちゃおうか悩みました(笑)。結局、そのままにしたんですけど。
最初に読んでみたときは、ちょっとくすぐったい気持ちでした。自分のことを自分から「私ね、」って話すことないじゃないですか。だから、みんなこの本を読んでどんな気持ちになるんだろうと思いましたね。自分のことを客観視できないし、でも全部自分のことが書かれているから、「あった!そんなこと」みたいな感じだし(笑)
■「『生きている』って、私の中では『作業』なんです」
本のタイトルは『かけがえのないマグマ』。「面白いと思ったらすぐにやる」という大森さんの行動力はまさにマグマさながらだが、「かけがえのない」という言葉が付くことで、その印象は「触れられないもの」から、「誰もが持っている自然の感情」へと変わる。この絶妙な書籍タイトルはどのようにして生まれたのだろうか。
――『かけがえのないマグマ』というタイトルも印象的です。
大森:最果さんと私でお互いに言葉を出し合ったのですが、「かけがえのない」は最果さんからきたもので、「マグマ」は私が見つけました。
自分の中で沸々としている言語化されていないものを、2人でいろんな言葉を組み合わせながら表現しているんですけど、その言語化されていないものは自然発生的に生まれたものなんです。「マグマ」って暑苦しいものかもしれないけれど、自然に生まれたものだからしょうがないでしょって。
――タイトル決めは結構すんなりいったんですか。
大森:そうだったと思います。「大森靖子激白」が漢字だから、「かけがえのない」のひらがなと、「マグマ」のカタカナでバランスが良いですね。
――「マグマ」というとやはり噴火に起因して、力強さを感じるものだと思います。この本を読んでいると、大森さんの芯の強さというか、本当に真っ直ぐ進む力強さに溢れていると思うんですね。それを具現化しているのが冒頭から出てくる「生きている」という言葉だと思うのですが、この言葉に込めた想いは?
大森:「生きている」って、私の中では「作業」なんです。「愛している」もそうだけど、全部作業じゃないといけない。受動的な「生きている」状態って、ただ息をしていて、勝手に時間が過ぎていくみたいな感じですよね。それが私は耐えられなくて、「毎日を生きるぞ」っていうのが、私が思う「生きている」。
――なるほど。
大森:「食べる」でも「寝る」でもいいんですけど、「している」っていう感覚がないと気持ち悪い。
――とにかく生きることに対して能動的ですが、それはどういうところが原動力になっているんですか?
大森:気質が多分、社長みたいな(笑)。思いついたらやらなきゃ!って思うんですよ。で、すぐにやらないとすぐに飽きちゃうから、ものすごいスピードでやる。だから、渋谷クアトロのワンマンライブもあのスピード感になっちゃった。
――確かに急成長しているベンチャー企業の社長のような感じですよね。
大森:うん、本当にそうだと思います(笑)。
――本の中の結婚のくだりのところで、「ずっと、もうすぐ死ぬんだと思っていた」って書かれていましたけど、この考え方はおそらくそのスピード感を生む一つの要因だったのではと思います。実際、何歳くらいで死ぬと思っていましたか?
大森:23歳くらいだと思っていました。でも、23で死なないので、25くらいかなってなって、それで27になって。奇数が好きなので(笑)。今度のアルバムの収録曲も13で奇数です。奇数が好きなのはなんとなくで、一番好きなのは「3」です。いつも席順のあみだくじは「3」でした。これもなんとなくなんですけどね。
【第2回「自分自身の『成りあがり』を読みたいと思った」を読む】
■大森靖子さんプロフィール
1987年生まれ、愛媛県出身。ミュージシャン。美大在学中に音楽活動を開始。2013年にアルバム『魔法が使えないなら死にたい』『絶対少女』を続けざまに発表。2014年、エイベックスからメジャーデビューし、アルバム『洗脳』発表。2015年、全国ツアー後に妊娠を発表し、10月に男児を出産。2016年、活動を本格再開する
オフィシャルウェブサイト: http://oomoriseiko.info/
■リリース情報
両A面シングル『愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター』発売中
出産後復帰第1弾となる両A面シングル。
「愛してる.com」では亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎え、洗練されたアレンジによるアンサンブルが鳴り響く曲に仕上がっている。また、「劇的JOY!ビフォーアフター」は、サウンドプロデューサーに奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)を迎えて制作された楽曲で、これら2曲に弾き語り曲「ファンレター」を加えた計3曲を収録。
完全限定生産盤は、豪華BOX仕様となっている。
メジャー2ndフルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』
2016年3月23日発売
前作から1年3ヶ月ぶりのリリース。「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」や 「愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター」を含んだ全13曲収録。