不動産のプロによる「“幸福な住まい探し”のための新提案」

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 「新築を買うバカがいるから売るバカがいる」。

 『不動産業界の人だけが知っている新築マンションは買わないほうがいいワケ』(扶桑社)の著者で不動産コンサルタントの城戸輝哉氏は、本書の冒頭、そう言い切る。

 すでに供給過剰であり、空き家率が危険水域を突破しているにもかかわらず、増え続けている新築住宅(主にマンション)の問題点を明らかにしつつ、その責任の一端は不勉強なまま購入を検討する一般消費者、つまり「買うバカ」にもあると指摘するのだ。

■知識よりも、テクニックよりも住まい探しにおいて大切なこと
 
 資産性で考えた際の危うさ、広い収納スペースや豪華な共用部といった本質的でないスペックを強調する販売手法、住まいを使い捨てる傾向にある日本の住宅事情など、新築が抱える大きなリスクについての言及は、耳が痛いと感じる人も少なくないかもしれない。

 ただし、過度に新築物件のデメリットばかりを煽っているわけではない。むしろ、新築の問題点を通じて、日本の住宅事情を解説しただけにすぎず、本書の核となるのは、そういった現状を理解したうえで各々が気付くべき「自分の人生プランに合わせて住宅を選択することの大切さ」、そして、「最適な住まいの選び方」である。

 数千万円単位の大きな買い物に臨むには、十分な知識を備える必要があるし、効率的に物件の良し悪しを見抜くテクニックもあるに越したことはない。しかし、それよりも何よりも、住まい探しを行う際の「考え方の枠組み」をどう構築するかを著者は丁寧に説いている。

 実際、本書の見出しには、<日本のサラリーマンにはロマンが足りない>、<住まい探しは自分探し>、<自由な人生を獲得するために住まいを買おう!>、<常識の奴隷になってしまったら絶対に自由になれない>、<「幸せ」のかたちは自分で決めるしかない>といった、まるで自己啓発本のようなマインドセットに関するキーワードが並ぶ。

■「住まい探しは人生で一度きり」って誰が決めた?

 そして、本書を通じて気付かされるのが、「消費税増税前が買いどき」「タワーマンションは資産性に優れる」「仲介手数料ゼロ業者はお得」といった“常識”が、いかに不動産業者によるミスリードであるかということ。購入希望者の多くが知識も経験も乏しい初心者である住まい探しの現場において、買い手と売り手の情報格差は恐ろしく大きい。

 そもそも「住まい探しが初心者による人生一度の大きな買い物」というイメージも本来なら誤りだろう。将来的には売ったり、貸したりすることも視野に入れ、選択肢を限定しない姿勢は最適な住まいを見つけるための必須事項といっても過言ではない。つまり、著者の提言はすでに住まいを購入してしまった人にも新たな気付きを与え、次の行動に移るきっかけになるはずだ。

 タイトルに騙されてはいけない。本書は、新築・中古の両方を視野に入れている人も含め、むしろ新築を検討している人こそ読むべき一冊なのだ。
(新刊JP編集部)