【宮城県高野連 リーダー研修会・前編】仙台育英・佐々木 柊野前主将が語る「甲子園で得たもの」

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 12月12日、「第12回宮城県高等学校野球連盟リーダー研修会」が仙台工で開催され、県内の硬式野球部、軟式野球部で主将を務める79名が参加した。体験発表では、今夏の甲子園に出場した仙台育英の佐々木 柊野前主将が新チーム発足から甲子園準優勝までの過程を話した。高校球児にとってはタメになる話だったので、その一部を紹介!チーム作りに悩む球児の皆様は大きなヒントになるはずだ。

仙台育英、甲子園準優勝の道のり

仙台育英・佐々木 柊野前主将

 壇上に立った佐々木主将はこれまでの経験を語った。「今、どこのチームも冬の練習の真っ只中だと思います。1、2年生の練習を見に行くと、仙台育英もトレーニングやきつそうな練習をしています。冬の練習はきついと思いますし、僕自身、キャプテンでしたが、正直、やりたくないなと思うこともありました。でも、今思い返してみると、きついことをやってきたからこそ、最後に(甲子園準優勝という)結果が生まれたのではないかと思っています。きついとは思いますが、冬の練習を乗り越えて頑張ってほしいなと思います」

 そして、佐々木主将は(1)新チーム結成から甲子園までの道のり(2)チームの運営上、困難だったこと有益だったこと(3)甲子園での体験(4)甲子園で得たもの(5)これからのチームの指針

 と、項目を分けて“悩めるキャプテンたち”に経験を伝えた。

1.新チーム結成から甲子園までの道のり

 佐々木前主将の代は、1学年上が宮城大会4回戦で敗退してスタートした。「たぶん、みんな、『育英がベスト16で負けるなんて』と思ったと思います。僕たちも正直、負けるわけないと思っていたので、突然の新チームの訪れにビックリしながら始まりました。秋の大会に向け、真夏の暑い時期に20連戦とかしましたが、自分で言うのも何ですが凄まじく強かったと思います。1回も負けなかったと思いますし、余裕で勝つような感じでした」

 ところが、秋季大会は地区予選で聖和学園に黒星を喫し、敗者復活戦に回った。「負けると思っていなかったので、負けた時はびっくりしましたが、悔しい気持ちもあり、負けたからこそ団結できました。その後、県大会、東北大会、明治神宮大会と優勝することができました。聖和学園に勝っていたら、神宮優勝までいけなかったのではないかと思います。

 ですから、本番は夏なので、たった1回、負けたからとか、ちょっと失敗したからとか、監督に怒られたからとか、そういうのでくじけないで、最後までやり通すということをやってほしいと思います」

 春の東北大会ではエース・佐藤 世那(2015年インタビュー)が打ち込まれて初戦敗退。「このままで甲子園に行けるのか」と不安になったという。けが人も続出し、万全な状態で夏を迎えることはできなかったが、何とか勝ち上がり、甲子園出場を果たした。

「どうして甲子園に行けたのかな? と考えてみると、不安がたくさんあったからこそ、甲子園に行けたんじゃないかなと思います。人間というのは、調子がいいと何もしなくなったり、このくらいで大丈夫だろうと思ったりしてしまう。不安があると、これもやらなきゃ、あれもやらなきゃと細かいことも気にするので、いろんなことに気が回り、気を配ることができたからこそ甲子園に行けたと思います」

[page_break:夏の甲子園での経験]夏の甲子園での経験

現役時代の仙台育英・佐々木 柊野前主将

2.運営上、困難だったこと有益だったこと

 困難だったこととして、自身の怪我を挙げた。昨年11月の練習試合で、ライトを守っていた佐々木前主将はフライを追った際、外野フェンスに左足が挟まり、複雑骨折。その後、仲間と同じ練習ができなかったため、そんな時にチームを締める発言をしにくかったことを挙げた。また有益だったことは、「僕がキャプテンでしたが、キャプテンの代わりになる人がたくさんいたこと」と話した。

「一人で頑張ろうとせず、仲間をたくさん作ることが大切です。チームの中にはヤンチャな人やちゃんとやらない人がいると思います。そういう人をよくするためには、一人ではできないので、やらなきゃいけない雰囲気をキャプテンが作り、キャプテンに続く仲間を作ることが大事だと思います。育英が今年、甲子園準優勝まで行けたのは、みんながキャプテンになったような感覚で臨んでいけたからだと思います」

3.甲子園での体験

「これは、言葉では伝えられないことかなと思うんですけど」と前置きした上で、東海大相模戦について話した。東海大相模は優勝候補だったため、大会前から「相模と当たったら厳しいかもね」と話していた仙台育英ナイン。決勝での対戦となったが、初回から失点し、「やっぱり強いな」と感じたという。そんな中、6回に6対6の同点に追いついた。

「球場が仙台育英を応援する雰囲気で……。伝えたいんですけど、言葉では伝えられないような凄まじい雰囲気でした。何万人と観客がいる中で“育英コール”が起き、仙台育英にはタオルを回す応援がありますが、一塁側は全員がタオルを回しているような感じでした。ベンチからスタンドをチラッと見たのですが、その光景に鳥肌が立ち、あの感動は一生、忘れられません」

 仙台育英ナインを後押しする甲子園。しかし、9回表……。「東海大相模の攻撃は、9番・ピッチャー(小笠原 慎之介・関連コラム)からだったので、『これはワンアウト、もらったな』と思い、安心していました。そしたら、ホームランを打たれ、あれで試合が決まってしまいました。

 球場は育英の雰囲気で同点だったし、1点を取れば勝ちだなと思っていた部分がありました。やっぱり、そういう時にホームランを打たれて負けちゃうんですね。よくみんなで言い合っていると思うのですが、本当に最後の最後まで気を抜かない。当たり前のことで何十回、何百回と言ってきたことだと思いますが、最後の最後まで気を抜かず、やり通してほしいと思います」

[page_break:甲子園で得たものはゲームセットまで何が起こるか分からないということ]甲子園で得たものはゲームセットまで何が起こるか分からないということ

メモを取りながら聞き入る主将たち

4.甲子園で得たもの

 宮城の後輩たちへ、ゲームセットまで何が起こるか分からないという教訓を伝え、甲子園の素晴らしさを語った。「甲子園で得たものはたくさんあります。あの大観衆の中で野球ができたことは、一生に一度の体験でした。今年ほど熱くなれる夏はこの先、ないんじゃないかなと思います。

 これから何十年も人生があるのに、きっぱり言えるほど素晴らしいものを得ることができました。みんな、甲子園を目指していると思います。ここにいるみんなはライバル同士ですが、本当に素晴らしい場所なので、周りの人に負けずに頑張ってほしいと思います」

5.これからのチームの指針

 12月になると、対外試合禁止期間に入る。実戦から離れる期間となり、非常にモチベーションが下がりやすい。そんな時、キャプテンとしての姿勢を話し、エールを送った。

「まずは冬の練習を本気で頑張ってみることがいいと思います。走ったり、筋力トレーニングをしたりするのはきついのでやりたくないと思いますが、きついことをキャプテンが率先してやり、声を出してみんなを勢いに乗せてほしいと思います。冬の練習を頑張り、春や夏につなげてほしい。本番は夏なので、夏に全てをぶつけられるように今から準備をして頑張ってほしいと思います」

 甲子園決勝まで勝ち上がった仙台育英を引っ張った佐々木主将。その言葉の1つ1つに含蓄があった。今、悩む主将へ大きなアドバイスとなったはず。後編では、U-18ワールドカップに出場した仙台育英の郡司 裕也捕手(関連コラム)が日本代表の経験を話した。その中身とは、自分のチームと置き換えても参考になるものであった。

(取材/写真・高橋 昌江)