自己流園芸ベランダ派 (河出文庫) 2004年春から2年間「朝日新聞」紙上に連載された同名エッセーを収録。文庫書き下ろしの「その後」ではベランダでの稲作を満喫している。

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4月16日(木)の今夜、30分1話完結のドラマ『植物男子ベランダー SEASON2 BOTANICAL LIFE OF VERANDAR』(NHK BSプレミアム)がスタートする。
都会の片隅のマンションでひっそりと暮らす中年のバツイチ男。自称「ベランダー」。ベランダで植物を育てるのを無上の喜びとしている。庭じゃないからガーデナーじゃない。

植物でNHKと言えば『趣味の園芸』あたりを想像するが、ベランダーの世話はかなりいい加減だ。
水さえやっときゃなんとかなると思っている。食後にタネがあればとりあえず植える。ベランダに隙間なく鉢を詰め込む。枯れたら置き場所のせいにする。それでいて、しおれれば心を痛め、花が咲けば狂喜乱舞する。

ベランダーが翻弄されるのは植物ばかりではない。図々しい隣人の植物学者(古舘寛治)、盆栽の道に誘惑する盆栽マニア(松尾スズキ)、ベランダーが思いを寄せる花屋の店員(岡本あずさ)らが、植物を介してベランダーの日常に入り込む。

シーズン1でも受難の日々を送ったベランダー。勘違いした植物女子にスタンガンを押し当てられる。植木市で謎の女にナマズを売られそうになる。植物好きのヤクザに「植物しりとり」を挑まれる。シーズン2では謎のラッパーmc;ShockBootsが登場するらしい。俺はただ植物とひっそり暮らしたいだけなのに。

原作はいとうせいこうのエッセー『ボタニカル・ライフ』と『自己流園芸ベランダ派』。「ベランダー」という言葉もいとうせいこうの造語。北東西に3つあるベランダで、植物約50鉢を相手にした奮闘が描かれている。

姫スイレンはメダカと育てるとよいと聞き水槽に沈めるが、メダカもろとも死滅。収穫がしやすいシシトウがみるみる増え、食卓がシシトウだらけに。ヒョウタンのツルが伸びてきたので、危険を冒してベランダ中にタコ糸を張るも、ヒョウタンはタコ糸を無視。

ベランダー・いとうせいこうは達観する。植物を支配しようと考えるのが無理なのだ。むしろそれが出来ないことを教えてくれるのだ。

だからこそ、芽が出て花が咲く喜びといったらない。8年間咲かなかった月下美人が突然咲く。あんずの人工授粉を見よう見まねでやって成功する。花束にまぎれていた「細くて緑色の茎がクネクネしているだけのやつ」が鉢植えにまで育つ(名前はわからないまま)。

水をやる。芽が出る。安堵する。枯らす。ため息をつく。また鉢を買う。自分とは違う生命体を愛し続ける。別れをいとわない。ベランダーはハードボイルドなのだ。

事前に放送された『俺の直前スペシャル』には、主演・田口トモロヲと原作者・いとうせいこうの「植物対談」があった。最後にその一部を引用しよう。

いとう「ブリーダーっつって、まぁ犬と同じですよ、種を植えて、無かった色の花を作り出す人。仕事してるとね、完全に『やらされてる』ってことがわかるって言ってました。自分は植物を支配している、と思っているけど、本当はそうやって(植物が)増えようとしている、って。(中略)このドラマも結構みなさんに評判なのも、植物が増えようとしている可能性がある」
田口「植物のプレゼンドラマなんですね。植物側からの(笑)」
いとう「俺たちがうまいことやって、視聴率があがっても、違う違う(笑)」
田口「自分たちが作ってると思っているだけであって、実は違う」
いとう「違う違う」

花が咲くのも枯れるのも、変な人達に絡まれるのも、みんな植物に「やらされている」こと。『植物男子ベランダー SEASON2 BOTANICAL LIFE OF VERANDAR』はNHK BSプレミアムで今夜23:15から。コルトレーンからプロディジー、大橋トリオまでジャンルをまたぐ選曲にも注目。
(井上マサキ)