「日の丸」検索エンジン 「オープンソース」の危険
インターネット検索の"グーグル支配"に対抗するために、「日の丸」検索エンジンを作る「情報大航海プロジェクト・コンソーシアム」が2006年7月末に本格スタートした。経済産業省が主体となり、国内企業や大学など約40団体が参加し、3〜5年後の実用化を目指している。画期的な取り組みといえるが、検索エンジンを専門に開発しているマーズフラッグの武井信也社長は、この経産省のプロジェクトには3つの疑問点があると指摘する。
プロジェクトには日立やソニー、NEC、富士通、東京大学、早稲田大学など日本を代表する怱々たるメンバーが参加している。経済産業省商務情報政策局情報政策課ではJ-CASTニュースの取材に、
「企業や団体が持っている高度な技術、知識を結集して、日本が情報分野で世界をリードし、ひいては産業の競争力強化につなげるのが目的です」
と話した。
なぜベンチャー企業には参加を呼びかけなかったか「マーズフラッグ」が開発する検索エンジン。検索結果にカーソルを近づけると、画像を拡大して見ることができる
世界の検索エンジンはグーグル、ヤフー、MSNで全世界の85%を占める。全部アメリカの企業だ。つまり、ネット利用者と情報がアメリカに集中しているため、アメリカ産業全体に有利に働くと見られている。
そうしたこともあり、ヨーロッパでも06年1月に"欧州産検索エンジン"「Quaero」(クエロ)プロジェクトを立ち上げた。投資額は400億円。
これまで日本では、様々な企業が検索エンジン開発に挫折してきた、残っているのは、NTTレゾナントとマーズフラッグだけだったが、そのNTTレゾナントも開発をやめ、グーグル採用に踏み切った。NTTレゾナントは今回の経産省プロジェクトに参加する。
マーズフラッグの武井社長は「経産省もやっと検索エンジンの重要性に気が付いた」とプロジェクトの発足を評価するが、3つの疑問点があるという。
一つは、ベンチャー企業への参加を呼びかけなかったこと。「当社にも経産省から何のお誘いもなかった」。グーグルもヤフーもかつては小さなベンチャー。なぜ日本のベンチャーを取り込まないのかという疑問だ。経産省はJ-CASTニュースに対して、
「どんなITベンチャーがあるのか、私どもは知りようがないんです」
と答えた。
次は、ライバル同士の大企業連合が、極秘も含む技術や情報を持ち寄り、共同で作業できるのか。さらに、大企業は、これまで本気で検索エンジンに取り組んだ形跡があまりないことだ。
そして、最後が、完成したものをオープンソースとして世界中に流す計画であること。経産省では「基盤となる部分はオープンにするが、そこに何を乗せるかは企業のアイデア次第だ」と説明する。しかし、グーグルもヤフーもシステムの開示はしていない。国民の税金が100億円以上投入されるというエンジンが、他国に利用、改良され、やすやすと使われる可能性もある。
武井社長は、「国産の検索エンジンこそが国内のITソフト企業を成長させる切り札。IT市場でも技術立国日本復活させたい」という持論を持つ。同社の検索エンジン「MARS FLAG」は05年3月にβ版を出し、06年5月に正式サービスを開始した。検索結果にリンク先の画面が表示され、カーソルを合わせるとポップアップする。また、探したサイトと似たサイトを探す「つなケン」機能など、様々なアイディアが盛り込まれている。
「経産省のプロジェクトは気になりません。当社の事業計画では、経産省のプロジェクトが終了する3〜5年後には、グーグルを追い抜くことになっています」
武井社長は意気盛んである。