2006年7月26日、日本の新聞各紙は「ハリー・ポッター」シリーズを翻訳した松岡佑子さんが、東京国税局から35億円を超える申告漏れを指摘されていた、と報じた。松岡さんはスイス在住で、スイスで税金を納めていたが、日本の税務当局は「日本に居住実態がある」と判断し、申告漏れを指摘したようだ。ネット上では「日本は税金が高いから海外脱出だ」という声がしきりに上がっている。

「国内に居住実態」と判断される例が多い
Q&Aサイトでは「日本は高額所得者に対する税金が高すぎる」との声も
Q&Aサイトでは「日本は高額所得者に対する税金が高すぎる」との声も

   06年7月中旬には、眼鏡専門チェーン最大手の「三城(みき)」の多根裕詞会長も、大阪国税局から03年までの4年間で株の売却益など30数億円の申告漏れを指摘された。自社株を社員に売って得た利益を、同時住んでいたスイスで申告したが、国税当局は国内滞在日数などから国内に居住実態がある、とした。
   05年3月には、消費者金融大手「武富士」前会長が香港に移住した長男に贈与したオランダ法人株をめぐり、1,600億円もの申告漏れを指摘された。「海外居住者が海外財産の贈与を受けても課税されない」という当時の税法の規定に従って贈与税を納めなかったが、やはり「国内に居住実態」と判断されたようだ。

   こんな「海外でも日本の税金が取られる」ケースに反発する声は目立つ。ネット上では、日本の税金の高さから「海外に脱出してしまおう」になる。例えば、「我々金持ちは日本を脱出します」というスレッドでは、こんな具合だ。

「香港行ってみい。日本は税金高いから嫌やちゅう日本人仰山いてるがなあ。こいつら香港に住んで、日本に出張して金稼いでる。成田は遠いから嫌やて。地方の空港がお気にいりや。飛行機も空いてる。そこから羽田や。もっと大金持は相続税のないオーストラリアに資産移しとるで。ワシはシンガポールを考えてるや。ホナ、サイナラ」

   さらに、あるQ&Aサイトには、「高額所得者や大企業に重税をかけると海外に逃げ出すと言いますが・・・」という質問が寄せられた。これに対しては、こんな回答があった。

金の卵を産むアヒルを殺すのは愚か
「世界には一定の資産を移動すれば、その国の居住を認める国があります。先進国ではカナダやオーストラリアなど。当然、移住する人は高額所得者です。(略) アメリカもそうなのですが、その国の税収を支えているのは中・高所得者です。意外と低所得者の税負担は少ないのが現実です。金持ちに対する妬みや嫉妬は、なかなか無くならないのが人情なのかもしれませんが、金の卵を産むアヒルを嫉妬で殺すような愚かな考えはそろそろ捨てるべきでしょう」

   このほか、「日本は高額所得者からカネを搾り取ろうとしている」といった趣旨の発言が目立つ。
   また、資産を海外に移動するように勧める本も多数出版されている。例えば「日本脱出!海外分散で資産を死守せよ」「小富豪のためのタックスヘイヴン入門」というような本だ。

   海外生活を送る日本人として有名な大橋巨泉さんも、過去に同様の発言をしている。

「日本って嫉妬社会じゃないですか。表面的には資本主義なんだけど、実際は突出した金持ちをつくらない社会主義ですよ。ボクが現役で一番よく働いていた頃、税金で収入の85%を取られていたよ。年間1億円稼いでも、手元に残るのは1,500万円なんだ」(日経ビジネス00年7月10日号)

   いまは税率は少々下がったが、巨泉さんのような人は増えている。それでも「居住実態」を理由に、海外在住者から税金を取ろうとする日本の国税当局。「グッバイ・ジャパン」は、なかなか簡単にはいかないようだ。