2年間の実験でも、カロリーより糖質制限に軍配

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ダイエットの肝は長く続くかどうか

糖質制限、脂質制限、そしてアルコール制限のうちで、最も効果が望めるダイエット法は糖質制限である、と私は考えています。

まず、脂質制限ですが、これは肉類や調理油のような脂質を優先的に減らしてカロリーを計算する、いわゆる今までのダイエットのイメージに近い方法です。私の専門である糖尿病治療においても、一般的な医療機関では食事療法としてカロリー制限食を指導しているところが多いです。肥満を解消し、病気の改善を試みるのですが、カロリー計算や栄養バランスの調整が面倒なうえ、空腹感が強く、長続きしにくいというマイナス面があります。

次にアルコール制限ですが、そもそもアルコールは、体に蓄えられることのないエンプティカロリー。肴を食べすぎたり、締めのラーメンを我慢できなければ当然、肥満に突き進むことになりますが、アルコールだけで肥満になるとは考えにくいので、お酒を抜くことでダイエットに効果があるとも考えにくいでしょう。

さてそこで、注目され始めたのが糖質制限食です。これは食事中の糖質を減らすことで、食後の血糖値を上げないことを目的とした食事療法です。血糖値の上昇に応じてすい臓がインスリンを分泌して血糖値を下げようとします。ところがインスリンには体を太らせる働きがあるのです。そこで糖質の摂取を抑え、食後に血糖値を上げず、インスリンが分泌される量を減らせば、太りにくくなります。また、糖質制限によって、カロリーを計算せずに満腹になるまで食べても、結果としてカロリー制限になってダイエット効果が得られやすいことも知られています。

ここ数年で糖質制限が話題になったときに、これを危険視する報道もありました。しかし、米国糖尿病学会(ADA)の糖質制限に関するガイドラインを見ても、2002年版では糖質制限を否定し、1日の摂取量を130グラム以下にしないように指導していたものの、08年版では「糖質制限食はカロリー制限食と同様に減量に有用」と姿勢を転換させ、13年版では糖質制限は減量だけでなく糖尿病治療の選択肢となるという見解に変わっています。この推移を見ても、今の時点で糖質制限を危険視する姿勢には賛同できません。

私の考える糖質制限食の基準は「1日の糖質量が130グラム以下」です。これは糖質制限食研究の草分けであり、糖尿病治療で多くの実績を残している米国のバーンスタイン医師の定義であり、世界の糖質制限食のスタンダードと言えます。

1日3食とすれば1食あたり40グラムという緩めの基準です。1食でおかずに加え主食であるご飯を半膳、トーストなら半切れ食べることができます。肉、魚も食べられるし、量もしっかり食べることができる。しかもカロリー計算が不要です。注意を払うのは糖質の摂取量だけなので長続きさせやすいでしょう。

お酒もOK。お酒の糖質は日本酒で1合8グラムほど。6枚切りの食パン1枚で30グラムなので3合飲んでも1枚分です。ビールは350ミリリットル缶で11グラム程度ですが何杯も飲めるところが欠点。ワインはグラス1杯で1グラム前後、焼酎はゼロです。肝機能などに注意しながら楽しんでください。

甘いものを食べない男性の場合、要注意なのはラーメンと炒飯、蕎麦といなり寿司といった「糖質の重ね食い」です。家庭ではおかずをたっぷり、ご飯は小盛り、甘味は低糖質甘味料を上手に使って献立を組み立てれば効果が期待できます。カロリーは原則気にしなくても大丈夫です。

家族で自分だけ糖質制限をしたい、という場合、例えばカレーライスならカレールウに小麦粉が使われている日本風のカレーではなくタイ風カレーにしてもらって糖分を控え、自分はジャガイモ、ご飯少なめ肉を多め、その分子供はご飯をたっぷり食べさせるなどで対応できます。

何よりも大切なことは長く続けること。それが肥満と生活習慣病を防ぐことにつながります。

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北里研究所病院糖尿病センター長、医学博士 山田 悟(やまだ・さとる)
1994年、慶應義塾大学医学部卒業。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本糖尿病学会指導医、日本糖尿病学会学術評議員、日本糖尿病療養指導士認定機構編集委員など。『糖質制限食のススメ』など著書多数。

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(北里研究所病院糖尿病センター長、医学博士 山田 悟 構成=山本信幸)