地域限定の″ローカルパン″ 親しみやすさがロングセラーのカギ!?

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最近、「ローカルパン」の世界が地味に盛り上がっていることをご存じだろうか。ローカルパンとは地元メーカーがつくる、基本的にその地方でしか手に入らないパンのこと。今どきのオシャレなブーランジュリーではなく、地元スーパーのパンコーナーなどで買える安さと親しみやすさも魅力だ。昔からその地方で親しまれ、身近すぎて、ご当地ものだと気付いていない地元民も多いとか。

近年のパンブームの影響もあってローカルパンは、静かな、けれど熱い盛り上がりを見せているのである。見知らぬ土地を旅する楽しみとして、名所旧跡には目もくれず(!?)、真っ先にご当地のスーパーへ直行する旅人も多いとか(それは私です……)。2010年より、東京国際フォーラムで「日本全国ご当地パン祭り」なるローカルパンを集めたイベントも開催されている。

そんなわけで、数あるローカルパンの中から、極私的に偏愛しているローカルパンをいくつかご紹介してみたい。

まず、ローカルパンファンなら知らぬ者はない代表的な存在が青森・工藤パンの「イギリストースト」(画像左)。山型食パンにマーガリンを塗り、グラニュー糖をかけたシンプルなパンである。「工藤パン」は、なんと昭和42年(1967年)発売という驚異的なロングセラー。発売当初は1枚入りだったのが、9年後の昭和51年から2枚合わせでサンドするという現在のかたちにリニューアルされたそう。
驚くのはなんといっても、その種類の多さ。毎月1種類は新作がリリースされ、多いときは年に14〜15種類が出ることもあるそう。まさに、青森のランチパック!? 3月の新作は「菜の花はちみつゼリー&マーガリン」、4月は「黒ごま&ホイップ」となんともそそられるテイストだ。ほか、「ブレンドコーヒークリーム」(画像右)なども安定した人気があるそう。昨年発売された、「イギリスフレンチトースト」も気になる一品だ。

さらに、ローカルパン界で乙女指数がひときわ高く、女子へのおみやげとして持っていけば、「可愛い〜!」と喜ばれること請け合いなのが、島根県の「バラパン」。「バラパン」とは、薄く焼いた生地にクリームを塗って、くるくると巻いて成形する、上から見るとバラの花のようなかたちに見えるパンのことである。

Facebook上で「日本バラパン友の会」なるコミュニティを運営している花田真司さんにお話を伺ってみたところ、現在、島根県では「なんぽうパン」と「木村屋製パン」の2社がバラパンを製造販売しているという。(左が木村屋製パン、右がなんぽうパン製)

「たびたびメディアに取り上げられてメジャー感の強いのが、なんぽうパンです。一方の木村家製パンは、家内手工業的な小さな製パン会社ですが、良質のパンを製造しています。 両社は会社規模に大きな差があるため、流通量にもおのずと差が生じ、その結果、なんぽうパンのバラパンの方がどうしても目立っているという現状です。 実は“バラパン出雲発祥説”には異論もあるのですが、人口15万程度の小さな町にこれだけ特異な意匠を持つ菓子パンを製造販売する会社が2社もあることから、“出雲名物”くらいは名乗っても差し支えないだろうと考えております」とのこと。ちなみに、「なんぽうパン」のバラパンにはプレーンのほか、白バラ、コーヒー、イチゴの4種類がありいずれもおいしそう。

なお、花田さんによれば兵庫県加古川市のニシカワ食品株式会社なども、バラパンとよく似たパンをつくっているとのこと。“にしかわフラワー”なるパンで、こちらも創業以来のロングセラーである。確かにパッケージをとってしまえば、形状は限りなく似ている。2種類のパン生地でバニラクリームをロールし、上から白いアイシングをたっぷりとかけてある。かなりガツンとくる甘さのパンである。リボンを頭につけた女の子のマークがなんとも愛らしく、兵庫県が誇るご当地パンといえるだろう。

さらに、そのおいしさクオリティの高さに感動したのが鳥取県の老舗、伯雲軒の「ブドーパン」である。

伯雲軒はなんとこの「ブドーパン」で、昭和 39年に厚生大臣賞を受賞しているという。このレトロでどこか品のあるパッケージがたまらない。「栄養豊富」というコピーも昭和っぽくて素敵だ。ふんわりしたパンの中になつかしのバタークリームがサンドしてあり、ラム酒とブランデー、シナモンの香りがほんのり。「昔ながらの」という言葉をいい意味で大きく裏切る、意外と大人っぽく繊細な味わいなのである。

……と、こんな具合で知れば知るほど深みにハマっていきそうなローカルパンの世界。滋賀県の「サラダパン」、高知の「ぼうしパン」、富山の「ヒスイパン」、石川県の「ホワイトサンド」、沖縄の「なかよしパン」などなど、それぞれの土地にそれぞれのロングセラーご当地パンがあり、地元民の子ども時代〜青春時代の記憶と深く結びついている。ローカルパンをテーマに1冊本がつくれそうだなぁ……としみじみ思いました。

※「イギリストースト」画像提供:株式会社工藤パン
※「バラパン」画像提供:日本バラパン友の会
(野崎 泉)