堀治喜 マツダ商店(広島東洋カープ)はなぜ赤字にならないのか?



日曜日の「東京野球の本のブックフェア」では、何冊か本を買ったが、ぱらぱらとめくっているうちに「これは買うべきだ」と思ったのがこの本。著者から直接買った。

広島の文工舎という出版社から出ている。地方出版社からこうしたしっかりした本が出るようになったのだ。 
広島カープは、40年近く黒字経営が続いているが、同時に20年以上優勝に縁がない。そのからくりを明らかにした本である。 
 
不明を恥じたいが、私には初めて知ったことがいろいろあった。まず、今のカープが自動車メーカーのマツダとは直接関係がなく、(マツダの創業家だが今は影響力がなくなっている)松田家の個人所有になっていること。松田家にとってカープこそが「本業」であること。 
そして、今の素晴らしいズームズームスタジアムの建設にカープがほとんど金を出していないこと(使用料は払っているが)。などだ。 
 
75年の初優勝以来、広島球場の入場者数は急上昇し、球団経営は黒字に転じ、今に至っている。しかし、近年は縮小均衡のみを考え、優勝する気はさらさらない。ズームズームスタジアムの開場で入場者数は急上昇し、営業収益は急増したが、逆に球団の黒字は縮小している。しかも選手の補強は極めて限定的。利益はどこへ消えたのか。 
 
この話を軸として、プロ野球のオーナーとは何なのか、プロ野球の補強はどうあるべきかを具体的に語っている。 
 
「隣の芝は青く見える」ということはある。他球団に比べて広島の経営が最悪であるとは言い切れない。親会社頼みで大赤字を出しながら無駄遣いをしているだらしない球団に比べればまだしも、という気もする。 
しかし松田家が「ファンの方を向いていない」のは確かだ。また、こうした体制を読売、巨人が容認していることもうかがえ、問題の根の深さをうかがわせる。 
 
 
 
NPBの経営にはビジネス上の「成功体験」がほとんどない。巨人、阪神がトータルで黒字だが、これとてもメディア頼みであり、自社の経営努力、営業努力だとはとても言えない。他の球団はほとんどが赤字。そして広島は黒字だが、それは積極投資をせず、縮小均衡をキープしているからだ。 
 
NPBはMLBに比べていろいろな部分で見劣りがするが、一つだけ挙げるとすれば「経営」だということになろう。 
故ジョージ・スタインブレナーと松田元は、強い権力を持つ球団オーナーという点で同じだが、「誰のほうを向いているか」という点では180度違っていたということだ。 
 
PB球団の経営者は「無能」「無気力」あるいは「無関心」のいずれかであり、NPBを本気で発展させる気がない。 
この本は、そうした一端を具体的に披瀝したという点で貴重だ。