先のW杯アジア予選のタジキスタン戦で、日本代表チームは久々のゴールラッシュを披露。国内の各メディアは選手達のパフォーマンスに軒並み高評価を与え、まるで本大会出場が決定したかのようなお祭り騒ぎでした。この勝利によって3次予選を通過したわけではありませんし、最終予選に至っては未だ始まってもいない段階であることを、マスコミ各社は本当に分かっているのかと疑いたくなるような過熱ぶりでした。

とは言え、格下相手に違いを見せつけると公言した通り、圧勝出来たことは評価すべきですし、5人もの様々なポジションの選手が得点を決めたことも攻撃の多様性を反映している証拠であり、今後の自信に繋がることでしょう。また、中村憲剛選手のトップ下起用に応える大活躍もさることながら、ハーフナー選手を先発起用したことが代表チームの攻撃に厚みを加えることになったと感じています。そして私自身は、代表チームで久々に高さを武器としたフォワードの選手が頭角を現したことが何よりも喜ばしいことでした。何故ならば、ハーフなー選手こそが、代表戦に於いて久々に空中戦で相手に大きな脅威を与える存在感を示してくれたからです

私が観戦してきた過去40年間余の代表Aマッチに於いて、相手ゴール前の空中戦で敵を圧倒し、きっちりと結果も残したフォワードは、釜本邦茂氏、原博美氏くらいであり、その二人に続く選手としては松浦敏夫氏、高木卓也氏、巻誠一郎氏が挙げられるかどうかギリギリのところだと思うのです。


近年の日本代表は、中盤の緩急を付けたパスワークによる崩しからの得点が多く、W杯等の世界基準の舞台では、フォワードが相手より頭一つ抜け出して豪快なヘディングシュートを決めるシーンなど拝んだことがございません。それが日本の特徴と言ってしまえばそれまでですが、日本代表には高さに強いフォワードという選択肢は全くないのかと常々疑問に感じていた次第です。

フットボールの魅力を語る時、現在のスペイン代表やFCバルセロナが繰り広げるような、高い個人技と戦術眼に裏打ちされた組織力で相手を圧倒するスタイルがもてはやされるのは大いに結構なのですが、高さを生かしたシンプルな肉弾相打つ空中戦による攻撃もまたフットボールの魅力の一つであることは間違いありません。極論を言えば、身長2メートル20センチの俊敏かつヘディングの絶対的名手がチームにいるとすれば、その選手の高さやポストプレーを攻撃の柱の一つとするのは必定であります。余計なパスワークなどいらず、単純にターゲット目指して放り込むといった相手が嫌がることを行えば良いのです。正に“SIMPLE IS THE BEST!”です。

ところで高さによる攻撃と言えば、敵陣でのコーナーキックの際に、長身のディフェンダーがゴール前まで上がって行くパターンなどはその典型例だと思うのですが、考えてみれば近年の日本代表のヘディングによる得点の多くは闘莉王選手か中澤選手、或いは吉田麻耶選手が決めており、少なくともそういうイメージが強いことは否めません。そんな状況下でのハーフナー選手の登場は新鮮味があって、原博美選手以来、久々のアジアの大砲の登場か、或いは新兵器(遠距離砲)の登場かといった期待感を抱くことが出来ました。

しかし、当のハーフナー選手ですが、確かに初の先発を果たしたタジキスタン戦では高さを生かして2得点をしたものの、彼が世界で通用するのかというと、疑問符を付けざるを得ません。所詮、相手がシリア代表の失格処分によって代替出場が決まった弱小タジキスタンであったことや、彼自身に世界の舞台での実績が殆どないことがその理由ですが、空中戦は背が高ければ良いというものではないという不文律も気になるところです。