【石井紘人コラム】アジアカップ、垣間見えたキャプテンシー
「ロナウド選手は、私の基準を理解したようでした。前半に、ファウルをとったことでエキサイトしたポルトガル選手に、警告を与えたのもあるのでしょう。後半は、ポルトガル選手が異議を唱えようとしても、ロナウド選手がすぐに間に入った。こちらをコントロールしようという意図もあったのでしょう。幸い、ポルトガル選手たちは落ち着いてプレーしたので、後半はカードを出さずにすみました」（アルチュンディア氏）
日本サッカー協会技術委員会と審判委員会が改善を試み、指摘するように、日本人はまだまだ“判定を受け入れる”ということに慣れていない。日本には、ロナウドのように、主審とコミュニケーションをとり、試合を円滑に進めようとする選手は少ない。世界にはロナウドだけではなく、たとえば上川徹氏が、2006年ドイツＷ杯でイングランドのテリーの姿勢に感謝の言葉を述べたように、海外有名審判員たちのいう『クレバーでキャプテンシーのある選手』が多くいる。
劇的な戦いが続くアジアカップカタール2011。この大会で、一人の日本人選手がそんなキャプテンシーを発揮している。
準決勝となった対韓国戦。主審を務めたアルガムディ氏は、かなり手や腕のファウルに厳しい。そんなアルガムディ主審の基準に両選手とも困惑し、試合は選手にとっても、主審にとっても難しい方向に進んでしまった。岡田正義氏も「選手も手のファウルが多く、主審も確かにエキサイトしていたようにも見えました。もう少し、冷静に見せる余裕があるともう一つ上のレフェリングができるようになると思います」と指摘する。
ここで動いたのがキャプテンを務める長谷部誠だ。ファウルの判定後に、アルガムディ主審とコミュニケーションをとろうとする。しかし、異議とみられ興奮気味に突き放されてしまう。すると、“少し冷静になりましょうよ”というジェスチャーで長谷部はアルガムディ主審と再度コミュニケーションをとった。今大会、長谷部はこのように各主審たちとコミュニケーションをとっている。その最たる例が、対シリア戦でのGK川島の退場後だ。
「全員で言うと主審も興奮してしまうので、１人で言うべきだと思ったし、ああいうところでは冷静に言った。それがつながったかどうかわからないけど、そのあと僕らにもPKを与えてくれたし、ああいう風に対応することは大事だと思う」（シリア戦後）
ドゥンガ氏は「キャプテンが自然に生まれてくるチームに勝利がもたらされる」と語るが、それは日本代表においても当てはまる。過去のアジアカップをみても、1992年大会では柱谷哲二氏がチームをまとめあげ、2000年大会は名波浩氏がキャプテンシーを発揮し、後に中村俊輔はこの時の名波氏に尊敬の意を表している。記憶に新しい2004年アジアカップでも宮本恒靖のキャプテンシーが取り上げられた。
ザッケローニ監督の手腕を評価するのは早計だが、長谷部がキャプテンシーを発揮しはじめた日本代表から逞しさを感じるのは事実。29日に行われるオーストラリアとの決勝に期待せずにはいられない。（了）
