サッカーを伝えるメディアの怖さ
■ イレブンミリオン
数年前にJリーグは、「イレブンミリオン」と銘打って、2010年までに年間総入場者数1100万人(イレブンミリオン)を達成することを目標に活動を行ってきた。先日、2010年シーズンが終了したが、リーグ戦、ナビスコ杯、ACLを合わせた公式戦の総入場者数は864万5752人となって、目標に到達しなかった。
これについては、サンケイが
【Jリーグ】イレブンミリオン失敗「努力不足」 前年より93万人減 (1)
【Jリーグ】イレブンミリオン失敗「努力不足」 前年より93万人減 (2)
と伝えていて、努力不足のため、2009年シーズンと比べて観客動員数が93万人減少したと報道している。ここでは、その理由として、
・総試合数の減少。
・ACLで日本勢が早々に敗退したこと。
・スター選手の海外移籍。
・記録的な猛暑。
・名古屋の独走。
・浦和や新潟といった集客力のあるクラブの落ち込み。
を挙げている。
■ 93万人の減少
年間で100万人近くの動員が減少したという事実はプロスポーツとしては致命的なものであり、見出しだけを見ると、一大事のように感じてしまう。記事の中身を読んでも同様である。
しかしながら、(記事の中ではさらっと書かれているが、)総試合数の減少が大きな理由であることは明らかである。2009年はJ2は18チームで3回戦総当たり方式だったが、2010年は19チームで2回戦総当たり方式に変更された。これによって、J2のトータルの試合数は459試合から342試合に減少し、単純に試合数は117試合も減ってしまった。(J1の試合数やナビスコカップの試合数は変わらない。)
だいたい、J2の平均観客動員は6500人くらいなので、6500人×117試合=76万5000人は減っても仕方がない計算となる。また、ACLのホームゲームも、2009年は決勝トーナメントが日本のクラブのホームで6試合行われたのに対して、2010年は1試合のみ。5試合減であり、それだけでも、7万〜10万程度は減少してしまう。伝えられている「93万人減」という数字は事実ではあるが、適切とは言えない。
※ 一方で、「J1から降格した3クラブとスタジアム改修のあった栃木、岐阜以外はすべて1試合平均で前年を上回った。地域密着を掲げるJリーグの理念がより全国に浸透したとの見方もできる。」という認識も正しいとは言えない。「理念がより全国に浸透しつつあること」は事実であるが、J2各クラブの試合数が51試合から36試合に減ったことで、2010年シーズンは、J2の場合、平日開催となった節はゼロだった。(土・日と祝日以外に行われたJ2の試合は、7月30日の岡山対札幌と、雷雨のため試合が延期になった9月1日の水戸と大分の試合の2試合のみ。)2009年シーズンのJ2は51節のうち11節が平日に組まれていたので、条件で大きな差がある。平日開催がなくなったことが、J2の1試合平均の観客動員数が増加させた最大の理由である。
■ メディアの怖さ?
サンケイの報道は間違っているわけではなく、ウソを言っているわけでもない。が、あまり、Jリーグを知らない人が読んだら、「Jリーグは不人気なんだね。」と感じるられるような書き方を意図的に行っていることに怖さを感じてしまう。明らかに誤認識させようとする意図が感じられる。
今シーズン、J1は平均で550人程度の減少、J2は平均で350人程度の増加となっている。昨シーズンと同じ試合数のJ1では、トータルで約17万人が減少しているので、減っているのは間違いないが、試合数の大幅減に伴う必然的な減少とごちゃ混ぜにした数字を前面に押し出して語っているので、「それはどうなのか?」と疑問を感じざる得ない。「約17万人の減少」と「93万人の減少」とでは、受け止め方は大きく違ってくる。
■ メディアの怖さ?
また、違った意味での恐さも感じてしまう。一言で言うと、これは「悪意のある記事」だと思うが、読者を欺こうとすることに対しての「罪悪感」のようなものがあまり感じられないことである。
一方通行だった頃と比べて、読者もインターネットを通じて、自分から手軽に発信することができる時代となった。おかしな記事には「おかしい」と意思表示することもできるが、その辺りについてメディアは無頓着で、「その伝え方や考え方はおかしいのでは?」とちょっと理解のある人であればすぐに思うようなことを、平気で配信してしまう。読者のレベルを低く見ているのだろうか?
従来の新聞や雑誌であれば、読者の反応というのは、すぐには返って来ることはなく、どうしてもタイムラグが生まれてしまうが、時代は変わってきている。「書きっぱなし」で終了という時代ではなくなっているが、その辺りのズレに「怖さ」を感じてしまうのである。
■ 横ばい状態
とはいうものの、J1で平均観客動員が横ばい状態が続いているのも事実である。10年単位で見てみると、平均観客動員数は倍々ゲームで増えてはいるが、ここ5年ほどは、J1の場合、19000人程度で推移している。もし、2022年のワールドカップ開催が決まっていたら、新スタジアムの建設も考えられたが、それもなくなってしまった。
ガンバ大阪、京都サンガ、川崎フロンターレ、ギラヴァンツ北九州など、いくつかのクラブで新スタジアム建設の話が持ち上がってきているが、すぐにでも実行可能なものというと、やはり、「キックオフ時間の最適化」となる。現状はスカパーが全試合生中継を行っている関係で、出来るだけキックオフ時間が重ならないように配慮されているが、スタジアムに通うサポーターにとってはありがたい話とは言えない。
特にJ2の場合、土曜日ではなく日曜日に試合が行われることが多いが、土曜日の昼や夜に試合が行われるのと、日曜日の夜とでは、動員数に大きな違いが生じてしまう。春先や、秋から冬にかけてのナイトマッチも同様で、サポーターがスタジアムに行きやすい環境にはなっていない。
Jリーグがスカパーとどういう契約をしているのかは分からないし、放送局の意向も無視することは出来ないが、観客動員数はクラブの財政に大きな影響を与える。現状、大きく観客動員数を伸ばすことができる要素が少ない中、何とか出来ないものだろうか?と感じる。
※ トップリーグの観客動員の推移 (日本リーグ1部 or J1)
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数年前にJリーグは、「イレブンミリオン」と銘打って、2010年までに年間総入場者数1100万人(イレブンミリオン)を達成することを目標に活動を行ってきた。先日、2010年シーズンが終了したが、リーグ戦、ナビスコ杯、ACLを合わせた公式戦の総入場者数は864万5752人となって、目標に到達しなかった。
これについては、サンケイが
【Jリーグ】イレブンミリオン失敗「努力不足」 前年より93万人減 (1)
【Jリーグ】イレブンミリオン失敗「努力不足」 前年より93万人減 (2)
と伝えていて、努力不足のため、2009年シーズンと比べて観客動員数が93万人減少したと報道している。ここでは、その理由として、
・ACLで日本勢が早々に敗退したこと。
・スター選手の海外移籍。
・記録的な猛暑。
・名古屋の独走。
・浦和や新潟といった集客力のあるクラブの落ち込み。
を挙げている。
■ 93万人の減少
年間で100万人近くの動員が減少したという事実はプロスポーツとしては致命的なものであり、見出しだけを見ると、一大事のように感じてしまう。記事の中身を読んでも同様である。
しかしながら、(記事の中ではさらっと書かれているが、)総試合数の減少が大きな理由であることは明らかである。2009年はJ2は18チームで3回戦総当たり方式だったが、2010年は19チームで2回戦総当たり方式に変更された。これによって、J2のトータルの試合数は459試合から342試合に減少し、単純に試合数は117試合も減ってしまった。(J1の試合数やナビスコカップの試合数は変わらない。)
だいたい、J2の平均観客動員は6500人くらいなので、6500人×117試合=76万5000人は減っても仕方がない計算となる。また、ACLのホームゲームも、2009年は決勝トーナメントが日本のクラブのホームで6試合行われたのに対して、2010年は1試合のみ。5試合減であり、それだけでも、7万〜10万程度は減少してしまう。伝えられている「93万人減」という数字は事実ではあるが、適切とは言えない。
※ 一方で、「J1から降格した3クラブとスタジアム改修のあった栃木、岐阜以外はすべて1試合平均で前年を上回った。地域密着を掲げるJリーグの理念がより全国に浸透したとの見方もできる。」という認識も正しいとは言えない。「理念がより全国に浸透しつつあること」は事実であるが、J2各クラブの試合数が51試合から36試合に減ったことで、2010年シーズンは、J2の場合、平日開催となった節はゼロだった。(土・日と祝日以外に行われたJ2の試合は、7月30日の岡山対札幌と、雷雨のため試合が延期になった9月1日の水戸と大分の試合の2試合のみ。)2009年シーズンのJ2は51節のうち11節が平日に組まれていたので、条件で大きな差がある。平日開催がなくなったことが、J2の1試合平均の観客動員数が増加させた最大の理由である。
■ メディアの怖さ?
サンケイの報道は間違っているわけではなく、ウソを言っているわけでもない。が、あまり、Jリーグを知らない人が読んだら、「Jリーグは不人気なんだね。」と感じるられるような書き方を意図的に行っていることに怖さを感じてしまう。明らかに誤認識させようとする意図が感じられる。
今シーズン、J1は平均で550人程度の減少、J2は平均で350人程度の増加となっている。昨シーズンと同じ試合数のJ1では、トータルで約17万人が減少しているので、減っているのは間違いないが、試合数の大幅減に伴う必然的な減少とごちゃ混ぜにした数字を前面に押し出して語っているので、「それはどうなのか?」と疑問を感じざる得ない。「約17万人の減少」と「93万人の減少」とでは、受け止め方は大きく違ってくる。
■ メディアの怖さ?
また、違った意味での恐さも感じてしまう。一言で言うと、これは「悪意のある記事」だと思うが、読者を欺こうとすることに対しての「罪悪感」のようなものがあまり感じられないことである。
一方通行だった頃と比べて、読者もインターネットを通じて、自分から手軽に発信することができる時代となった。おかしな記事には「おかしい」と意思表示することもできるが、その辺りについてメディアは無頓着で、「その伝え方や考え方はおかしいのでは?」とちょっと理解のある人であればすぐに思うようなことを、平気で配信してしまう。読者のレベルを低く見ているのだろうか?
従来の新聞や雑誌であれば、読者の反応というのは、すぐには返って来ることはなく、どうしてもタイムラグが生まれてしまうが、時代は変わってきている。「書きっぱなし」で終了という時代ではなくなっているが、その辺りのズレに「怖さ」を感じてしまうのである。
■ 横ばい状態
とはいうものの、J1で平均観客動員が横ばい状態が続いているのも事実である。10年単位で見てみると、平均観客動員数は倍々ゲームで増えてはいるが、ここ5年ほどは、J1の場合、19000人程度で推移している。もし、2022年のワールドカップ開催が決まっていたら、新スタジアムの建設も考えられたが、それもなくなってしまった。
ガンバ大阪、京都サンガ、川崎フロンターレ、ギラヴァンツ北九州など、いくつかのクラブで新スタジアム建設の話が持ち上がってきているが、すぐにでも実行可能なものというと、やはり、「キックオフ時間の最適化」となる。現状はスカパーが全試合生中継を行っている関係で、出来るだけキックオフ時間が重ならないように配慮されているが、スタジアムに通うサポーターにとってはありがたい話とは言えない。
特にJ2の場合、土曜日ではなく日曜日に試合が行われることが多いが、土曜日の昼や夜に試合が行われるのと、日曜日の夜とでは、動員数に大きな違いが生じてしまう。春先や、秋から冬にかけてのナイトマッチも同様で、サポーターがスタジアムに行きやすい環境にはなっていない。
Jリーグがスカパーとどういう契約をしているのかは分からないし、放送局の意向も無視することは出来ないが、観客動員数はクラブの財政に大きな影響を与える。現状、大きく観客動員数を伸ばすことができる要素が少ない中、何とか出来ないものだろうか?と感じる。
※ トップリーグの観客動員の推移 (日本リーグ1部 or J1)
年 | 総観客動員数 | 平均観客動員数 | 試合数 |
1980年 | 196,630 | 2185 | 90 |
1990/91年 | 754,300 | 5714 | 132 |
2000 | 2,655,553 | 11065 | 240 |
2010 | 5,638,894 | 18428 | 306 |
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