長谷部誠

「ミスチルのライブDVDはもう何度も何度も見ているので、お客さんのリアクションまで覚えちゃった」

 ドイツでの生活の中で、日本語が強く心に響く機会が増えたと長谷部誠はいう。もともと読書家だったが、その本の数も増した。そして、冒頭の発言でもわかるようにミスター・チルドレンをはじめ、日本の歌の数々が彼を支えている。

「音楽には、人を感動させたり、勇気を与えたり、心を動かす力がある。僕自身も音楽からたくさんのものをもらった。そして、スポーツもまた音楽同様に見る人に訴えかけることができると考えるんです。僕たちのプレーを見て、『こいつらが頑張っているんだから、俺も頑張ろう』と思ってもらえる、そんなプレーをワールドカップでしたい」

 外国での生活で、日本や日本人のことを考える機会にもなった。自己主張の激しいヨーロッパの選手たちと過ごしながら、彼らの中にある自信に触れた。

「日本人は謙虚な姿勢を大切にしすぎて、自分のことを小さく思い過ぎるような気がする。不景気だとか問題がたくさんある中で、悲観的な気持ちになるのも理解できるけれど、テンションが下がりすぎているじゃないかと思うこともあります。あと、周りの目を気にしすぎる」

 長谷部自身も移籍した当初は、「周りが自分をどのように見ているか」がとても気になった。

「でもね、よくよく考えてみると、誰も僕のことなんて気にしていないんですよ(笑)」

 他人に気を使いすぎること、遠慮することは、相手に弱さを見せることにもなる。優しさだけでは、生き残れないのが長谷部の立つ欧州サッカーシーンだ。

「みんな練習中から闘志ムキ出しです。たとえチームメイトであっても同じポジションの選手が怪我をすれば『チャンスが来た』と喜ぶのが当たり前。怪我をさせてやるくらいの気持ちでぶつかってくる。だから、練習中の喧嘩なんて、驚くことでもないから。僕だって、削れれたら『ふざけんな』って、言い合いをしますよ。でもみんなピッチから出たら、切り替えるのも早いから。引きずる選手はいない」

 そんなドイツの空気になれた長谷部にとって、代表の空気が物足りないと感じる。

「サッカーにおいて一番大切なものは気持ちです。外国人相手との1対1で勝つのに必要なのは気合いであり、強い気持ちだから」

 所属するヴォルフスブルグの試合でも、チームメイトに激を飛ばす長谷部。彼のそんな姿が見るものを感動させるに違いない。


文=寺野典子