「iPadは使いにくい」:米のUI専門家が批判
『iPad』はインターフェースの勝利と称されている。しかし、あるユーザビリティーの専門家はこのほどiPadについて、インターフェースに一貫性がなく明確でないという批判を発表した。インターフェースに標準が設定されていないため、それぞれのアプリが違ったように動くのだという。
一部からは「ユーザビリティーの王様」とも呼ばれるJakob Nielsen博士は今週、『iPad』の使いやすさを評価する93ページのレポートを発表した。このレポートは、34種類のアプリとウェブサイトをテストした7人のユーザーからのフィードバックを基に作成されている。
「今何に触った? 今何をした? 触れ方によって行なわれる処理が異なることがあり、自分が何をやったのかがわからないので、何が起こるかわからない」と、Nielsen博士はWired.comとの電話インタビューで述べた。
Nielsen博士が批判しているのは、数週間前にわれわれが称賛した「最小限に抑えられたiPadのインターフェース」だ。その記事(日本語版記事)の中でわれわれは、iPadにはインターフェースがほとんど「無い」ので、コンテンツをスクリーン全体に表示でき、これがコンテンツ作成者と消費者を強烈に惹きつける、と書いた。だがNielsen博士は、このインターフェースは混乱の元になると述べている。画面に表示されているもので何をすべきかわかりにくい、というのがその理由だ。
「こうしたことは積み重なっていく。スクロールできるのか、ジャンプするのかの違いがわからず、さらに混乱は増していく。そして、こういうことは普通やっていくうちに習得できるものだが、それぞれのアプリケーションにおける手法が異なっているので習得できない」とNielsen博士は付け加えた。
これは、従来の標準が捨てられ、クリーンな板(スレート)から始めたことの結果だ。デザイナーたちはこの25年間にわたって、MacやWindowsなどのデスクトップ・ベースのプラットフォームのインターフェースを設計するためのガイドラインを確立し、それを改良してきた。こうしたガイドラインの多くは、スクロールバーやラジオ・ボタンといったUIコントロール・ボタンや機能という形で、OSに組み込まれた。だが、ほとんどボタンのないマルチタッチのiPadの登場で、米Apple社は新たな野獣を解き放ったのだ。
問題の原因は、Apple社がiPadの標準を確定できていないことだ。また、初期のiPadアプリ開発者たちは、iPadを所有せずに、アプリを「暗闇の中で」開発していた。だから、インターフェースが非常に多様なのだとNielsen博士はいう。
レポートのまとめで、Nielsen博士は写真に触れたときのアプリの動きを列挙している。何も起こらない、写真が拡大される、写真の追加情報が表示される、画像がめくられて他の写真が表示される、操作オプションがポップアップ表示されるという5通りだったという。
Nielsen博士はさらに、コンテンツベースのiPadアプリが、「従来の印刷物的なメタファーを破壊している」ことを批判した。コンテンツにはウェブページの基本的な双方向性が欠けていることが多く、そのためほとんどのコンテンツ・アプリでは、見出しに触れても、対応する記事にジャンプしないのだという。
Nielsen博士は、今回のレポートを発表したのは、標準を作成するために開発者たちが議論できるようにするためだと強調した。「いまこのレポートを発表したのは、あと数カ月も使いにくいアプリが出続けるという事態を避けるためだ」と同氏は言う。
『Instapaoer Pro』アプリを開発しているMarco Arment氏は、Nielsen博士のレポートに賛成だと語った。「開発者は、魅力を保ち、雑然さを最低限にしつつ、タッチ・インターフェースをわかりやすくするという挑戦に直面している」とArment氏は言う。「タッチできる部分が全てボタンのように見えていたら、デザイン的には失敗だ。しかし全てが美しく、機能が画像やテクスチャに隠れているようだったら、ユーザーは重要な機能も見つけられなくなってしまう」
なお、『Daring Fireball』のブロガーJohn Gruber氏によると、Apple社が『iPhone』のデフォルト・ソフトウェアの一部――時計、計算機、株価、天気、音声などのアプリ――をiPadに採用しなかったのは、これらがそのままではiPad上ではふさわしくなかったからだという。
「iPhoneのアプリをただ借りてきてiPadの画面を埋めたとしたら、見た目も雰囲気も妙になる。ピクセルの集まりに見えないように、高解像度のグラフィックを使用したとしても同じことだ。これは技術的な問題ではない。デザインの問題だ」とGruber氏は書いている。
{この翻訳は抄訳です}