授業中に席に座っていられず、歩き回る、教室を出て行く。こんな落ち着きのない小学1年生が増え、「1学期は授業にならない」という深刻な状況が生まれている。自由に振る舞える保育園、幼稚園に比べて小学校は決まり事が増え、環境の変化が大きいことが原因の1つだと言われる。保育園、幼稚園と小学校が連携し、入学前に集団生活を身に付けさせる取り組みも始まった。

「自分コントロールする力」身に付けないまま入学

   東京都品川区教育委員会の指導課課長は、

「授業中に自分の席に座っていられず歩き回る、勝手に教室を出て行く子供が増えていて、現場は深刻な状況です。1学期は授業にならないですよ。先生次第では、2学期以降も(このまま)なんてことも・・・」

と頭を抱える。

   小学校に入学したての児童が落ち着かず、授業が成立しない問題で、「小1プロブレム」と呼ばれる。1990年代半ばから全国で報告されるようになった。

   好きな場所に座り、自由にトイレに行ける保育園、幼稚園に対し、小学校では決められた席に座る、授業中は席を立ってはいけない、などの決まり事が増える。環境の変化が大きいことが原因だと言われている。

「この10年で、問題行動を起こす児童が増えていると感じます。相当まいっている先生もいます」

と明かすのは、小学校で「スクールカウンセラー」として活動している宇都宮大学教育学部青柳宏准教授だ。

   しかし、小学校に上がり環境の変化に戸惑うのは今に限ったことではない。では、なぜ問題化しているのか。

   青柳氏は、原因の1つとして、少子化で集団で遊ぶ機会が減り、本来は喧嘩を通して学ぶ「自分をコントロールする力」を身に付けないまま小学校に上がる子供が増えたことを挙げる。もう1つは家庭内の問題だ。

「経済状況が厳しくなっている今、親が子供の相手をする余裕がなくなっています。話を聞いてもらえない子供はストレスを抱え、問題行動につながるんです」

幼稚園と小学校、教師間交流も進む

   環境の変化、家庭内の問題など、いろんな原因から「小1プロブレム」は起こるようだが、幼稚園、保育園と小学校が交流し、入学前に集団生活を身に付けさせようとしている。

   文部科学省と厚生労働省は2009年4月から保育所保育指針と幼稚園教育要領を施行し、小学校との連携を推進する内容を盛り込んだ。

   すでに交流を進めている県もある。2000年度からモデル地域を指定し、幼保・小一貫指導を推進している山口県。交流を体験した小学校の教師のコメントが「保育所や幼稚園等と小学校における連携事例集」(文部科学省、厚生労働省)に紹介されている。

「幼児教育の現場に触れ、子どもの立場に立った指導の実際がよく分かった。否定する言葉は極力使わず、ほめ励ますことがとても効果的に働いているのを見て、今までの自分の指導の在り方を反省させられた」

   別の教師も、

「子どもたちは、遊びからたくさんのことを学んでいる。その遊びの要素を小学校低学年の授業に取り入れるなどして、幼児教育から小学校への滑らかな移行を図りたい」

と書いている。

   ほかにも自治体によって体験入学させたり、入学前に児童と保護者の交流を行ったりしている。いずれも幼稚園、保育所が主体になっていることが多い。

   東京都品川区教育委員会は「幼保・小1貫教育のプログラム」を作り、2010年度の導入を検討している。前出の指導課課長によると、小学校側に積極的に取り組んでもらうことが狙いだ。

共同でドッジボールや合奏などを体験させ、集団生活のルールを教えるほか、小学校の教師が幼稚園に行き、簡単な読み書きや算数を教えることも計画している。

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