「バックパスは絶対にダメだ。特に若いうちは禁止させたい」として、育成世代選手の「バックパス禁止令」を明言した日本サッカー協会の犬飼基昭会長。10〜15歳の育成世代選手にはボールを持った瞬間に敵ゴールへ向いてプレーするクセを身につけてほしいとの願いから出たもので、すでに地方協会幹部たちへの通達を始めている。将来的には“ルール化”も視野に入れているようだ。

犬飼会長の「バックパス禁止発言」が報道されるや否や、その是非について論争が巻き起こっているが、「禁止すべきものではない」という批判的な意見が大半。スペインで少年チームの指導経験を持つサッカー専門誌「フットボリスタ」の木村浩嗣編集長は、バックパスの有効性や犬飼会長の意図を理解したうえで、「“何かを禁止して選手を育てる”という発想そのもの」に問題があるとしている。バックパスを禁じられ、それを選択肢から外して育った選手がはたして本当に日本を強くするのかというのは、誰もが抱く疑問だろう。

こうして論争を巻き起こしている「バックパス禁止令」だが、犬飼会長の“根拠”となっているのがドイツだ。同会長は「ドイツでは、“育成年代の試合でバックパスした選手はすぐ交代させるように”と協会から通達されている」としていたが、実際にドイツでは禁止されているのか。在独5年のスポーツライター、木崎伸也氏が現地協会や指導者に聞いたところ、失笑しながら否定されたという。

木崎氏がインタビューしたのは、ドイツサッカー協会の育成担当者であるアンドレアス・シュビム氏と、クラブ育成責任者のアーミン・クラーツ氏。木崎氏の質問に対し、シュビム氏は「私たちは前に速い攻めを目指すというコンセプトは通達しています。しかし、バックパスは禁止していません。だって、そんなことは不可能でしょう?」(Numberより)、クラーツ氏も「協会から攻撃サッカーを目指すという大きなコンセプトは通達されていますが、細かいことは各チームが自由に決めていい。バックパス禁止なんて論外です」(同誌より)と、ともに失笑交じりで回答している。また、支配率を重視するクラブでは、逆にGKへのバックパスを練習に取り入れているところもあるようだ。

さらに、「フットボリスタ」の木村編集長の調査によると、スペインでも11歳以下では条件付でバックパスを禁じているが、同編集長が指導していた際に適用されたことは一度もなく、他のクラブの試合をチェックしても堂々と後ろにパスを出していたという。ルール化されているものの、現実に即さないため形骸化しているのだろう。

これらのことから、木崎氏は「ここで問題視したいのは、全体のサッカー像が明確になってないのに、細かいルールだけを取り入れようとする姿勢だ」(同誌より)とし、「コンセプトなしに育成法だけ寄せ集めても意味はない。計画性のない思いつきを現場に強要するのは、もっと良くない」(同誌より)と犬飼会長の「バックパス禁止令」を批判している。

木村編集長は、ドリブルによる崩しがきっかけで生まれた得点を2点とカウントする「ドリブル奨励令」を提案しているが、これらの批判を受けて犬飼会長がどのような動きに出るか。育成世代の指導方針は日本サッカー界の将来がかかっているだけに、その動向が注目される。