2006年におきた、秋田県藤里町の連続児童殺害事件で、死刑を求刑されていた畠山鈴香被告に、無期懲役の判決が下された。
閉廷間際、被告は、殺害された米山豪憲君の両親に向かい、床に膝をついて土下座、泣きながら謝罪の言葉を述べた。
弁護側は、この判決を不服として、即日控訴した。


秋田県藤里町の連続児童殺害事件で、殺人などの罪に問われた畠山鈴香被告(35)の判決公判が19日、秋田地裁で開かれた。
藤井俊郎裁判長は「凶悪、卑劣な犯行で、刑事責任は重大」とし、検察側の死刑の求刑に対し、無期懲役を言い渡した。争点となったのは、殺意の有無と被告の殺害時の責任能力の判定。
判決は、被告の当時9才の長女彩香ちゃんへの殺意は認めたが、米山豪憲君(当時7才)事件とともに、計画性は否定、極刑を回避した形。藤井裁判長は、「死刑の適用も十分考えられるが、酌量すべき点も少なからず認められ、躊躇を覚えざるを得ない」と述べたが、「内省が表面的にとどまる」との判断を加え、仮釈放は慎重にするよう求めた。

判決では、2件の事件ともに計画性を否定。
彩香ちゃんが駄々に被告はいらだち、愛せずに悩み、新しい生活への足かせと感じていた彩香ちゃんが消えてくれるのではと思い、とっさに橋から落としたとした。また、彩香ちゃんを欄干に乗せた後、怖がって抱き付かれるまで突き落としていないことから、積極的な殺意があったとはいえないとした。
豪憲君については、彩香ちゃんの死は事件だとする自分の主張に目を向けさせるためのとっさの殺害と判断。計画性はなかったとし、彩香ちゃん事件への疑いの目をそらすためとの検察側主張は退けた。

検察側は「真摯な反省は期待できず、矯正は不可能」として死刑を求刑していた。初公判で被告は「1年半前は嘘つき、卑怯でした。どう変わったか見てほしい」「極刑にしてほしい」と述べたこともあったが、審理の間、自身に都合の悪い質問には黙秘を繰り返し、公判中に書いた日記には「罪悪感はほとんどない」との記述もみられた。
弁護側は「更生の可能性は失われていない」として有期の懲役刑を求めていた。彩香ちゃんの事件について、橋の欄干で「お母さん、怖い」と急に抱き付いてきた彩香ちゃんを払いのけたための転落として、過失を主張。ショックで転落時の記憶を失っていたとし、自白は「検察官の強力な誘導」と反論した。豪憲君殺害についても、娘を亡くした喪失感による衝動的な殺害として偶発性を訴え、事件当時は心神耗弱状態だったとしていた。
弁護側はこの判決を不服として、即日控訴した。

被告は、閉廷間際、裁判長に突然「ひとついいですか」と声を掛け、米山豪憲君の両親への謝罪を申し出た。
傍聴席を向き、サンダルをぬいで膝をついて土下座、「大事なお子さんを奪ってしまって申し訳ありませんでした」と述べ、泣きながら頭を下げた。豪憲君の父、勝弘さんは表情を変えず、母真智子さんは目を閉じて涙をこらえていた。
 
この事件の裁判は、迅速化を図って、公判前整理手続きが適用された。証拠が膨大だったことなどから、手続きは長期化し、最後の起訴から初公判まで1年以上がかかった。しかし、公判開始後は月に数回、集中的に開廷、並行して被告の精神鑑定が実施されるなど、異例の態勢がとられ、昨年9月の初公判から13回で結審、半年で判決を迎えた。

殺意や責任能力以前に、なぜ起きたのかもあいまいな、謎の多いこの事件。
幼少時代に、被告が極端で陰湿ないじめにあっていたことなどが、法廷で明らかにされたにも関わらず、よく言われる「いじめによる“心の闇”が原因で…」というような論調を、今回はあまり多くは見かけない。死刑は厳しすぎるという声が高まらない背景には、いじめに関しては同情しても、それとは何の関係もない幼児を、自己の気分と衝動だけで、あっさりと殺害したことは、やはり理解しがたく、残酷で浅はかな犯行は許せるものではないからだろう。
2転3転する主張、不安定な精神状態を露呈する様子は、演技なのか、それとも気分のムラか。被告の姿は、まだ見えてこない。
事件は、高等裁判所で引き続き争われることとなる。

(編集部 上芝まいこ)